Books-Creativity: 2004年3月アーカイブ

集中力

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・集中力
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「火事場の馬鹿力」という言葉があるが、身体的に危急な状況に置かれた場合にも私たちは通常の能力を超えた働きをする。集中力が高まるからである。

知的作業のパラメータとしても「集中力」は重要な係数であると思う。

興味があること、やる気があることに対しては、私たちは特別な力を発揮できるものだと思うからだ。同じ仕事をするにしても、特に知的作業は、集中力のあるなしによって、アウトプットの質と量は変わってくる。この本は、認知心理のさまざまな実験データを使って、集中力の秘密を解き明かしていく。

■内発的動機と外発的動機

著者によると、集中力の動機づけには、内発的動機と外発的動機の2種類があるという。内発的動機とは、自分自身の中から発する目標達成への動機づけであり、以下の3つに分類できる。

内発的動機
  感性動機
    環境刺激を求める
  好奇動機
    感覚的に環境を経験しようとする
  操作動機
    自己の行為を通じて環境を知ろうとする

内発的動機は、単純な刺激に対する欲求(刺激のなさを嫌う気持ち)や、好奇心、こうしたらどうなるだろう?という探究心等から発する。

これに対して外発的動機とは、達成することにより報酬(金銭や賞など)が与えられる場合に起きる動機づけのことである。

心理学の実験では、内発的動機の方が一般に優勢で、報酬による外発的動機の成果を上回ることが多いと、この本では述べられている。

例えば、被験者集団にパズルを解かせるという実験(E.L.ディシ)で、成果に対して報酬を与える、与えないという実験群と統制群を使って、外発と内発の効果を計った。すると、意外にも、内発的動機に一貫した方(完全無報酬)が、そうでない方(1日目は無報酬、2日目は有報酬、3日目無報酬)を上回る成果をあげた。報酬があるせいで、逆に内発的な動機を失わせてしまう効果があると結論されている。

確かに報酬体系だけで集中力が引き出せるのであれば、すべての組織が能力に応じた報酬体系になっているだろうし、企業ならストックオプション制度を使ってスーパーカンパニーとなることができるはずだ。だが、実際には必ずしもそうならないのは、報酬が集中力やモチベーションを、むしろ、減少させることがあるという事実と関係があるのかもしれない、と思った。

■高次レベルの欲求と集中力の関係

有名なマスローの要求5段階説も集中力と関係すると言う。

第一段階 生理的欲求
第2段階 安全を求める欲求
第3段階 所属と愛の欲求
第4段階 自尊の欲求
第5段階 自己実現の欲求

人間は5つのレベルの欲求を持ち、前の段階の欲求が満たされると、次の高次の欲求を求めるという、よく知られた説。自己実現にはその前のすべての段階の充足を必要する。

ローゼンサールのピグマリオン効果の実証実験の話も興味深い。

「各学校からランダムに二割の児童を選んで、担任教師に「この児童は急激に伸びる可能性がある」という情報を伝えた。そして八ヵ月後、再び知能検査を実施したところ、有望であるという情報を与えられた児童の得点が、図17に示すように明らかに向上していたのである」。人は期待されていると認知すると、それに応えようとする、それが集中力を高める効果があるということ。

このほか、気がのる、気が乗らない、気になる、気が散るの意味や、疲れる、飽きるとはどういうことか、記憶力と集中力などのテーマが、認知心理学アプローチで説明が続く。やる気という曖昧な事象が数字やグラフで解明されていくのが面白い。

「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ(山本五十六)」「好きこそ物の上手なれ」「三つ子の魂百まで」など、一般に使われている格言、名言が、人間心理の特性をかなり正確に言い当てているのだなとわかる。

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・ビジネスチャンス発見の技術
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私たちはデータの山に埋もれて暮らしている。

ECサイトの商品の購買履歴、コミュニティの投稿ログ、Webサイトのアクセスログ、過去数年分のメール、ブラウザーに残ったWeb閲覧履歴など、普通に働いて生活しているだけでも、膨大なデータの山が身近に幾つも見つかる。

個人や会社が保有する膨大なデータやテキストは、コンピュータで徹底分析したら、実はとてつもない有益な知識が発見されるのではないか?。そんな予感を多くの人が持つようになった。ハードやソフトも廉価になったことで、データマイニングやテキストマイニングに関心を持つ人が増えている。

例えばWebサイトのアクセスログを分析すれば、ナビゲーションの不備がみつかって、経路誘導を改善することでページの閲覧数が増える。ECサイトで商品Aを買うお客は、高い確率でBも買っていることが分かれば、Aを買ったお客にBを薦めることで売り上げを伸ばす。掲示板のログを分析することでコミュニティで一番話題になっているテーマが見つかり、マーケティングに取り入れる。そういったことがデータマイニングやテキストマイニングを行うことで実現できる、ということになっている。

実際にはそれを達成するには幾つもの壁がある、ときちんと専門家は言うべきだと、私は感じている。

分析処理の過程で統計計算や社会学の知識が求められたり、高い値段のツールが必要だったりする。分析した結果の相関や分布マップが、どのような現実的意味を持っているのかを読み取るためのノウハウや発想も求められる。そもそもマーケティングは創造行為であって、過去の分析ができれば未来のヒット商品を開発できるとは限らない。こうした壁に次々に遮られてマイニングに取り組んだ人の多くは、途中で諦めたり、結果に失望して終わることも少なくない。

データを放り込めば思いもよらない結果が自動的にでてくるブラックボックスとして、データマイニングを考えるのは、無理がある。マイニングはツールであって、それ自体がソリューションではないからだ。他のビジネスプロセスと同様に、自分がやっていることを理解できていなければ、結果が出ることはほとんどないし、仮にまぐれ当たりがでても、繰り返し成功することはない、はずなのだ。ツールとノウハウがセットではじめて機能するものだと思うのだが、ノウハウの方はあまり語られることが少ない。これはその数少ない本のひとつ。

この本は、まずマイニングの目的をビジネスの「チャンス発見」とした点が興味深い。従来のマイニングは、計算の目的ではなくビジネスの目的が明確でないものが多かったからだ。

著者は本の前半で以下のように述べる。


実際に起きたさまざまな事象の中から、珍しいけれど重要な事象を見出して自分にとっての価値を理解するためにはどうしたらよいだろうか。事象を観察して集めたデータを解析すればそれでよいのか?つまりチャンス発見を自動化できるだろうか?

この問いにははっきり「ノー」と答えておきたい。人が強く介在しないとチャンス発見は不可能なのだ。

著者は、アカデミズムの世界では著名なデータマイニングの研究者で、テキストからキーワードを抽出し、文書に含まれるキーワードの発生パターンから、潜在ニーズを発見するソフトウェア「KeyGraph」の開発者として知られている。この本もKeyGraphを使った分析画面例が多数使われている。こうしたツールの分析結果から何を読み取っていくべきか、どのような態度で望むべば結果が出やすいか、著者の企業との共同研究の体験を中心に語られる。

この本の経験では、分析する人とツールが対等の関係にある。繊維業界の展示会来場者の声を分析し、関係地図にする話では、生地の名前の部分に実際の生地を貼り付けて、分析者が手触りを確かめられるようにした。そのようにして、はじめて本質が見えたという。そこには「きれい目系」「着古し系」というふたつのクラスタがいるように見えたが、実は同じお客が、ふたつのスタイルをTPOに応じて着替えたいという変身願望を持っていることに気がついたのだ。この他にも、ホワイトボードを使った分析のアイデアだし、分析の会議にはどのように臨めばよいのかの成功例などが次々に紹介される。

アイデアや発想の発見のためのデータマイニングは、まだ始まったばかりの試み。どこまでをツールは自動化でき、人間は何をすればよいのか、という切り分けが、最も重要な知識になると思う。この本は、その分野の最前線のドキュメンタリとして大変興味深く読めた。

・チャンス発見コンソーシアム
http://www.chancediscovery.com/チャンス発見のための研究を行うコンソーシアム

・著者の大澤 幸生氏のサイト
http://www.gssm.otsuka.tsukuba.ac.jp/staff/osawa/Japanese.html

・KeyGraphコミュニティ
http://www2.kke.co.jp/keygraph/link.html
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KeyGraphのダウンロード、販売情報など