daiya: 2006年2月アーカイブ
「ソラリス」の著者スタニスワフ・レムの短編集。この作家とミラン・クンデラはノーベル文学賞をいつ受賞しておかしくないだろう。なかなか実現しないけれど。
未来に出版されるはずの、架空の書物4冊への序文集と、超越的知性を実現したコンピュータ ゴーレムによる2027年の人類への講義集の2パートからなる。
架空の書物とは、
「ネクロピア」
人間の肉体を透過することで、その存在の意味を浮かび上がらせるレントゲン写真集。
「エルンティク」
知性を持つバクテリアを培養した生物学者の研究記録。
「ビット文学の歴史」
コンピュータが生み出す文学のめくるめく世界。
「ヴェストランド・エクステロペディア」
未来予測コンピュータがアップデートし続ける百科事典。
の4冊。
どれも本文はなく、序文だけがある。
存在しない書物と架空の序文を掛け合わせることで、ありえたかもしれない世界観が立ち上がる。まさに掛け合わせると-1になる虚数のような不思議な存在の世界をのぞくことができる。
そして、圧巻の
「GOLEM 14」
は、人類の脳を圧倒的に凌駕する人工知能ゴーレムが、人類に向けて行った何回かの講義録。SF作品と言うより哲学だ。肉体を持たない超純粋知性が語る存在論、人間論、未来展望。その洞察力に圧倒される。眩暈がする。序文集と同様に、スタニスワフ・レムは博覧強記の衒学的文体で虚数的な存在様式の宇宙を存立させている。
この本は1973年に書かれたもの(和書は翻訳の難易度が高かったからか1998年までなかった)だが、今でもその魅力はまったく色あせていない。この30余年の技術や科学の進歩とのズレがほとんどないように思われる。それはレムが未来を予測していたということもあるのだろうけれど、本質を見抜き数十年後も変わらぬことに言及していたということでもあるだろう。
スタニスワフ・レムを読む。それは哲学書を何十冊読むより考えることが多い経験である気がする。
今日の60億人の全人類には、たった一人の”母”がいるという。
母系でのみ受け継がれるミトコンドリアDNAを解読すると、15万年前にアフリカの地で生まれたたった一人の女性「ミトコンドリア・イヴ」が人類共通の祖先であるという有名な学説である。生殖のたびにDNAは複製される。ミトコンドリアDNAの突然変異の確率は安定しているので、現在の子孫のDNAと比較すれば、おおよその生存年代を測定できる。世界中の現代の人類のDNAを集めて分布を調べることで、その骨を残した人間がどこに住んでいた人間なのかも判明する。
現代ヨーロッパの6億5千万人のDNAを解析すると、4万5千年前から1万年前の異なる時代、異なる地域に生まれた7人の女性の誰かにつながることが分かっている。この本は、その7人のミトコンドリア・イヴの娘たちの世代の物語である。
最初のイヴの娘はギリシアで生まれたアースラ。アースラの一族は全ヨーロッパへ広がり、ネアンデルタール人を絶滅に追い込んだ。第2の娘アースラは2万5千年前にマンモスと生きた。第3の娘のヘレナは2万年前の最終氷河期に地中海沿岸で暮らした。科学的データに基づいて、7人の娘たちの人生がフィクションとして語られる。
イヴの娘たちはおそらくそれぞれの社会で特別な存在ではなかった。ふつうの女性としてふつうに生きた可能性が高いらしい。もちろん自分から始まる家系が、後世の人類の大部分を生み出す重要な位置にいることなど知る由もなかった。
イヴの娘たちは遺伝学上、何が特別なのか。それは彼女らのミトコンドリアDNAが広く現代の人類に共有されていることである。イヴの娘たちの世代には他にも女性はいっぱいいた。その人たちも子供を産んでいただろう。しかし、何万年もの間に人類が複雑に交雑する中で、少数のイヴの娘たちのDNAが勢力を広げていった結果、今の人類のDNAから辿れる家系は彼女らだけのものになってしまったということだ。
日本人、アメリカ人、フランス人などというが、DNAの観点では分類の意味がない。純粋な民族という概念はナンセンスだ。全員が完璧な混血である。それにも関わらず世界で33、ヨーロッパで7の少数の母系のDNAが、いまの私たちの中にも生き残っているのだ。それは、母系の文字通り、へその緒でつながり、抱きしめ、乳を与えた女性たちの愛で結ばれた大きな家系である。もっともっとたどれば一人のグレートマザー「ミトコンドリア・イヴ」がいる。
イブの娘らに共通する点が2つ。1つめは娘を産んだこと。ミトコンドリアDNAは女系にのみ引き継がれるからだ。そして、2つめは、二人の娘を産んでいること。これは少しわかりにくいのだが、母系のみのDNA系図を描いてみれば分かる。今生きる女性は無数にいる。だが母親、祖母、曾祖母と系を上へたどればたどるほど、枝の数は少なくなり、やがて、たった二つの枝が一つになる世代があるはずだ。そこにイヴたちはいる。
この本は研究が成功するまでの経緯と、時代考証、科学考証のもと想像力を発揮して書かれたイヴの娘たちの7編の物語からなる。私たちは何者か?という普遍的な疑問に、ひとつの答えを提供してくれる興味深い研究である。
オックスフォード大学の人類遺伝学教授の著者ブライアン・サイクスは、化石化した古い人骨からDNAを抽出することに成功した同分野の第一人者。同教授は自分の祖先がどのイヴなのかを調べる研究ビジネスを運営している。
・OXFORD ANCESTORS : Explore your genetic roots - DNA sequencing, Professor Sykes, Adam's Curse, Family Tree Searches, Your Ancestry DNA analysis, tracing ancestors
http://www.oxfordancestors.com/
日本人向け解説もある。95%の日本人には9人の”母”がいるそうだ。
・Sony Magazines -- OFFICIAL WEB SITE --
http://www.sonymagazines.jp/mmt/200111080700.html「
あなたのDNAも調査してもらえます!
日本人の95%は、9人のDNAの母から生まれています。
あなたは誰の子どもなのか?
→【DNA母系図】
---ミトコンドリアDNAを調べて、あなたもDNAの母を知ることが可能です(有料)。ご希望の方は、「オックスフォード・アンセスター」(http://www.oxfordancestors.com/)へ直接、お申し込みください。日本語書類の添付された「調査キット」が届きますので、指示に従って提出してください。
」
・FlashPlayerEx
http://www.zan9.com/soft/
FlashPlayerExはWebブラウザーで表示したFlashを簡単にユーザのPCにファイル保存し、再生を楽しむことのできるフリーソフト。
このソフトの特徴:
・表示中のFlashを右クリックメニューからディスクに保存することができる
・最近表示したFlashをブラウザキャッシュから選択して保存することができる
・お気に入りのFlashのプレイリストを作成して順次再生ができる
・Webブラウザーで表示中のFlashをFlashPlayerExで再生する機能
・フレーム単位でシークする機能
そして、関連ソフトのfmlmakerを使うと、
WebページからFlashファイルの一覧を作成することができるようになる。プレイリストのfmlはURLでの登録も可能なので、オンラインの面白いFlashのURL集を友達と交換したりしてみても楽しそう。
オラクルオープンワールドで「ポータルサイトだけではない、サーチビジネスの現状と今後」という有料セッションがあります。私はモデレータとして参加することになりました。エンタープライズ系の話題が多いイベントですが、本セッションでは少しテーマをユーザ視点にまで広げて検索技術とビジネスの未来について討論してみます。
ご興味のある方のご参加をお待ちしております。パネリストの先生方が豪華です。尊敬するパネリストに囲まれて、モデレータとして緊張と期待が半々ですが、がんばります。
山名早人早大教授は、ネット草創期の検索エンジン千里眼の作者で、ベストセラー「Google Hacks」の訳者で、日本のネット検索の第一人者です。井上 俊一氏は日本のヤフーのビジョナリとして近年大変にご活躍ですし、小澤英昭博士はgooの新規検索サービスの技術開発、地域情報提供ビジネス、検索サービスを牽引されてきた方です。オラクルの三原 茂氏は同社の新しい技術の話題を話されると聞いています。
・Oracle OpenWorld Tokyo 2006
http://www.oracleopenworld.jp/conference/session2.html#3E-7
3月3日[金] 17:30〜 19:00
ポータルサイトだけではない、サーチビジネスの現状と今後
「
検索に関するニーズはインターネットを中心に爆発的な広がりをみせ、今日多くのポータルサイトが活躍しています。しかし、検索へのニーズはすでに単なるインターネット・サーチにとどまらなくなっており、ユーザーのニーズは多岐に渡っています。本セッションでは、サーチビジネスを推進している各社や著名人により、サービスを含めた今後の動向についてディスカッションを行います。
」
・データセクション株式会社 代表取締役
橋本 大也
・ 早稲田大学 理工学術院 工学博士 教授
山名 早人氏
・NTTレゾナント株式会社
ポータル事業本部 メディア事業部 担当部長 工学博士
小澤 英昭氏
・ヤフー株式会社
リスティング事業部 検索企画室長
井上 俊一氏
・日本オラクル株式会社
システム事業推進本部 営業推進部 担当シニアマネジャー
三原 茂氏
著者は円周率暗記の世界記録を3回更新している記憶の達人。
記憶力の強化についてさまざまな書籍がでているが、円周率8万桁超を暗唱するのに成功した実績を持つのはこの原口式だけである。方法はやはり数字の語呂合わせなのだが、独自の数字と文字変換表をつくり、物語に翻訳することで、記憶に見事に定着させている。富士山ろくにオウム鳴く式の語呂合わせであるが、8万桁の内容は「北海道松前藩の武士の旅立ちからなる壮大なストーリー」になっている。
円周率暗唱の第2位の記録保持者も日本人だが4万桁台なので、著者のやったことは書名どおりぶっちぎりの記録である。驚くべきは記録達成時の年齢が59歳で、思い立ってから4年しかたっていない。それまでの人生でも特に際立った記憶力の人ではなく、普通のキャリアの技術者だったらしい。相当の努力があったのかと思いきや、いきなり、がんばったらできなかっただろう。がんばらないからできたという持論が語られる。
この人は日々の練習も”適当”で切り上げる習慣を持っていた。やりたいときだけやっている風である。あまり真面目に取り組んでいない。お酒を飲んだ日は気持ちよく寝てしまうとか、順調に進んでいてもほどほどで切り上げてしまう。
常に腹八分目に抑えておくことで物足りない感じを残すのがコツなのだという。もっとやりたいのにやらなかったから、またやるの連続で未踏の高峰を制覇せよと述べている。
「続けるのが大事なのではない。続けられるのが大事なのだ」
「楽しくやることが肝心なのではない。楽しくやれるのが肝心なのだ」
根性や努力はまったく不要で、続けられる方法、楽しくやれる方法こそ大切だという。
前半は8万桁達成までの時間を追ったドキュメンタリ。後半は原口式記憶術の内容が詳細に語られている。著者曰くこの方法なら誰でもできるはずという。円周率だけでなく、人の名前や電話番号、誕生日や歴史年表の記憶への応用例も示される。
歴代の円周率暗唱記録保持者は第3位まで日本人で、みな語呂合わせで記憶したようだ。原口式の仕組みもそうなのだが、音と文字の組み合わせが多様に作れて、漢字のような少ない文字数で情報量が多い文字を持つ日本語の構造と関係がありそうである。
この本は二桁の九九の覚え方も教えてくれるのだが、もし日本語が暗記に有利に働くことが事実なら、もっとこの人のやり方を教育関係者は研究して、応用すべきだと思う。コンピュータ・外部記憶の時代とはいえ、記憶の容量が大きい人はまだまだ役立つ。
ところで、この著者の記録は偉業だと思うしメソッドの効果も十分にあるのだと思う。しかし、普通の人間は円周率を何万桁も覚えようという意欲がそもそも湧かないのではないだろうか。
「
円周率は、私にとって御仏に奉じる読経のような効果があります。どこまでも唱え続けるほどに心が癒され、身体の中の力が自然に抜け去ってリラックスの状態が延々と続くことになるのです。
」
だから、ついつい毎日やってしまう。暗唱の本番でも緊張で失敗しない。これがこの人の秘訣でもある。幸せな人だなあと羨ましくなった。
何かに心底惚れ込む、天命とめぐり合ったと信じる邂逅の体験は、望んだからできるものではない気がする。やりたいことは”見つける”のではなく”見つかる”が本当だと思うし、ヒトでもコトでもFall In Loveなのであって、惚れようと思って惚れるわけじゃないと思うのである。
・記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003024.html
・記憶する技術―覚えたいことを忘れない
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002369.html
・「3秒集中」記憶術―本番に強くなる、ストレスが消える、創造力がつく
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001014.html
・記憶力を高める50の方法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000974.html
・なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000470.html
・図解 超高速勉強法―「速さ」は「努力」にまさる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002998.html
・上達の法則―効率のよい努力を科学する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000645.html
・記憶のマジックナンバー7±2とドメイン名の考え方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000330.html
・あたまのよくなる算数ゲーム「algo」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001072.html
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ハイパーグラフィア(書かずにいられない病)とライターズ・ブロック(書きたくても書けない病)について、自ら両方の症状を経験した医師でもある著者が、脳科学と精神医学の視点で言語と創造性の科学に迫る。
最初から最後まで共感するところの多い一冊だった。
付箋紙の数が久々に30枚を超えた。
私はブログを毎日更新するようになって約900日目だ。それ以前には3年ほどメールマガジンを定期発行していた時期もある。さらに遡ると大学時代はサークル広報誌の編集長兼ライターだった。日常的に物を書くという習慣は15年以上続いていることになる。思えば書くことや文字へのこだわりは子供の頃からだった。書かずにはいられない。軽いハイパーグラフィアであることは間違いなさそうだ。
著者によるハイパーグラフィアの基準:
1 同時代の人々に比べて圧倒的に大量の文章を書く
2 外部の影響よりも強い意識的、内的衝動に駆られて書く
3 書いたものが当人にとって哲学的、宗教的、自伝的意味を持っている
4 当人にとっての重要性はともかく、文章が優れている必要はない
仕事として原稿を書く立場になってからは、ライターズ・ブロックもしばしば経験した。締め切りが迫っているのに書けない。怠惰や多忙が理由でなくて書けないときはどうしようもない。アイデアがわきあがるまであの手この手で気分を変えながら、待つしかない。特にコラムや評論のような創造性が必要な執筆のときに陥る。
ライターズ・ブロックがやる気の問題、自己管理能力の欠如と異なる側面があることは間違いないのではないか。もしそうならば出版社はライターや編集者に自己啓発セミナーを受けさせたり、マネジメントコーチをつけているはずだ。そういうケースはあまり聞かない。
外発的要因があれば創造的な作品が書けるわけではない。原稿料や編集者との人間関係はライターズブロック脱出には本質的に影響しないからだ。書く気のしないテーマの原稿料が1ページ当たり100万円だったらどうか。たぶん、無理にでも私は書くだろう。ただし、その場合、書きたくて書くときの原稿と比べて、質がいいものを提出できる自信がない。
著者によると書く能力は大脳皮質という進化的に新しい領域に存在し、書きたいという欲求はより古い辺縁系と呼ばれる領域に存在する。二つの領域がうまく働かないと書き物仕事を幸せに行うことは難しいようだ。その上で、ハイパーグラフィアはライターズブロックと表裏一体の関係にありそうだと著者は結論する。そして、その真の原因を脳機能や精神科学に求めていく。
脳の機能障害や精神病が、極端なハイパーグラフィアの原因になるという研究が紹介される。特に側頭葉の研究が詳しい。脳科学では前頭葉は合理的判断能力に、側頭葉は創造的能力に関係があると言われてきた。
側頭葉てんかんや一部の認知症患者に異常なレベルのハイパーグラフィアが含まれる。彼らの側頭葉の機能は通常より低下していると考えられるが、一部は亢進しているようにもみえる。側頭葉は創造意欲を亢進と抑制を担当する部位であるらしい。
強烈なハイパーグラフィアは一種のビョーキということだ。このほか、作家や詩人はうつ病の発生率が10倍から40倍高いという報告もある。統合性失調症や失語症という脳機能の障害が、書く意欲に与える影響も分析されている。歴史的にも多作の大作家の多くがてんかんやうつ病を患っていたり、自身もしくは血縁者に精神障害患者を持っていた。
・天才と分裂病の進化論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001298.html
・天才はなぜ生まれるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001320.html
天才とビョーキは紙一重説は上記の本が詳しい
創造性を発揮するには、理性を失うほど病気に犯されていては難しい。ちょっと病的な傾向を持ちながら、社会性を失わない人たちが、文章の世界で活躍できるということになるだろう。豊富な臨床研究の調査と自身の深刻な体験から4年間考察にかけた本書は、プロ・アマを問わず物書きにとって極めて興味深い洞察と示唆に富んだ内容である。
終盤では、詩神、ひらめきはどうして訪れるのか、宗教的体験と創造性の類似性という、深遠なテーマも扱う。解説を担当する脳科学者茂木健一郎氏は「人間の脳という不思議な臓器が見せる様々な可能性---情報の洪水の中を生きる現代人に勇気を与えてくれる秀逸なロマンチックサイエンス」と形容している。
・喪失と獲得―進化心理学から見た心と体
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002945.html
・ひらめきはどこから来るのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001692.html
・神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003679.html
・脳はいかにして"神"を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000134.html
2002年2月の冬季オリンピックで「ソルトレイク・ゲート事件」は起きた。花形競技のフィギュアスケート・ペアで、採点に不正があったというもの。本命のロシアのベレズナヤ・シハルリゼ組と、対抗馬のカナダのサレー・ペルティア組の演技で、ロシアはフリーで少し乱れた。一方のカナダはミスがなく完璧な演技をみせた。
ミスはあったもののロシアは芸術点と技術点で極めて高い印象があったので金メダルを獲得した。カナダ組は銀メダルに終わった。ところが、この採点の裏側で、ロシアに高い点数をつけたフランス人審査員とロシア側に密約があったことが判明し、メディアを巻き込む大騒ぎになる。慌てたIOCはカナダ組にも金メダルを授与して事態をおさめようとしたが、次々に関係者から談合の事実が暴露され、世紀の大誤審の一例になってしまった。
この審査制度を改革するため、その後、方式が変更されている。審査員の人数を7人から最大12人に増やし、採点後にランダムに9人の点数がピックアップされる。さらに最高点と最低点はカットされ、7人分の得点が採用されることになった。
事前に演技内容を選手が申告し、要素の最高点がわかる透明性も確立された。演技評価を細分化し、”印象”ではない加点方式を採用した。相対評価から絶対評価に変わったのも大きな特徴。以前の採点方式では、最初の競技者に満点を与えると、最後の競技者が優れていた場合、差をつけにくいので、前半の競技者に高い点がつきにくい傾向があった。
こうしてスタートした新制度だが、人間が運用する以上、完璧ではありえない。オリンピックは世界中から審査員を集めるため、レベルの低い審査員が競技の盛んでない国から集まったり、発展途上国の審査員は経済格差があるので買収されやすい、といった危険はまだ残っているそうだ。
競技者の人生をも左右しかねないオリンピックの誤審はなんとしても防ぐ必要がある。一方で、おおらかに誤審が何十年も受け入れられている分野もあるようだ。アメリカのプロスポーツにおける「ホームコート・ディシジョン」である。米国バスケットのNBAにおけるファウル数を著者はデータ解析している。明らかにホームチームが有利なバイアスがかかっている。
アメリカの観客にとって、ベースボールやバスケットボールは映画と同じようにエンタテイメントであり、せっかく足を運んだからには楽しみたい。ホームチームが劣勢のときに、ホームに有利なジャッジがあることは、多くの人間が肯定的に考えるので「認められた誤審」といっていいのではないかと著者は述べている。
この本の題材になるのは、近年のソルトレイクオリンピック、ミュンヘンオリンピック、、シドニーオリンピック、日韓ワールドカップ、日本のセ・パ両リーグ野球、米国のNBAバスケットボール、米国のベースボールなど。誤審の例を紹介するだけでなく、誤審がうまれる構造を暴き出そうとしている。
第1章 末続慎吾はなぜスタートで注意されたのか?
第2章 シドニーで篠原信一が銀に終わった本当の理由
第3章 日韓共催W杯が遺したもの
第4章 ソルトレイクの密約
第5章 ヤンキース王朝は誤審から始まった
第6章 ミュンヘン、男子バスケットボール大逆転の謎
第7章 マイノリティの悲哀―ラグビーにおける誤審
第8章 日本の誤審は偏見から生まれるのか?
第9章 誤審の傾向と対策
・テレビブログ トリノオリンピック 人間ドラマ
http://www.tvblog.jp/torino/
編集長生活もあとわずか。
・黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語
黄金比を作図してみた。線分A点とB点の間にC点がある。AC間は322ピクセル、CB間は200ピクセルで、CB:ACがほぼ1:1.61803398...の黄金比率で分割されている。ユークリッドはこの分割に外中比という名前を与えた。
「線分全体と長い切片との比が長い切片と短い切片との比になる場合、線分は外中比に切り分けられたという。」
つまり、上の図のACとCBの長さの比が、ABとACの長さの比に等しい場合を外中比と呼ぶ。そして外中比こそ黄金比のことである。厳密には1:1.61803398...で一方の数字は小数点以下無限に続く無理数となる。数学では、この数はφ(ファイ)とも呼ばれる。
黄金比を好むデザイナーがいる。たとえばWebページの本文部の領域の横幅:メニュー部の横幅に、黄金比を用いてデザインを行う。すると、不思議とちょうどいい感じがするというわけだ。古今東西の有名画家も名画を描く際に黄金比を画面構成に適用していたと教えている先生もいる。人間の美的センスに訴えかける神秘的なはたらきがこの比にあるというのだ。
古代エジプトのピラミッドや、古代ギリシアのパルテノン神殿にも黄金比が隠れていると言う説がある。バッハやモーツアルトの音楽の小節や音符の分布にも黄金比があるという人もいる。また、人間がつくるものだけではなく、オウムガイの殻の巻き具合やひまわりのタネの配列、銀河の渦巻きといった自然の造形に黄金比を発見したものもいる。ついには株価の変動具合の中にも黄金比が見つかると言う経済学者も現れる。
本当に黄金比はすべてを美しくするのだろうか?。黄金比は宇宙を作り出す際に、神の設計図に使われた神秘の比率なのだろうか?。本書は過去のさまざまな黄金比をめぐる研究を徹底検証する。
結論としては美の秘密が黄金比にあるというのは俗説に過ぎず、ほとんどの名画や音楽の作者は黄金比を使ってはいなかった。多くのケースで研究者が、作品の中にある無数の線分から恣意的に(あるいは無意識のうちに)黄金比らしいものを発明してしまう結果、黄金比=美の基本と言う誤った結論に至っていたことがわかる。
黄金比を信奉するデザイナーには残念なことに、人間が無意識のうちに黄金比を美しいだとか心地いいと思う事実はないようだ。複数の多様な長方形群からタテヨコが黄金比の長方形を被験者が好んだなどという、一部の心理学実験があるが、著者はそういった実験の内実を調べて、その結論は疑わしいと否定している。
「
さまざまな美術作品や楽曲や詩のなかに(本物や偽者の)黄金比を見つけ出そうとするのは、結局、理想の美の規範が存在し、それは実際の作品によって説明できるという思いこみがあるからだ。
」
一方で自然の造形に無数の黄金比φが現れるのは事実である。φはフィボナッチ数列と深い関係にある。フィボナッチ数列とは、整数を前の数の和に足したときにできる数列のこと。1+0は1、1+1は2、2+1は3、3+2は5、5+3は8...。
フィボナッチ数列は、
1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,377,610.987...
と無限に続く。
このうち隣接する二つの数字の比を計算すると、4番目の3と3番目の2では1.5だが、6番目の8と5番目の5では1.6になり、987と610のあたりでは、1.618033となる。数が大きくなればなるほど黄金比φに近づいていく性質を持つ。だからフィボナッチ数列は黄金比の数論的表現であり、ほぼ同じものなのだ。
フィボナッチ数列にある種の自己相似性があることは直感的にもよくわかる。そして、自己相似性が自然界を広く支配する法であることは周知のとおりである。この本にもたくさんの自然界におけるφが紹介される。植物の葉の生え方や貝の渦巻きパターンといった生物のかたち、銀河の渦巻き、ハヤブサが獲物に接近する際の螺旋軌道など数え上げるときりがないほど普遍的にφがある。
そして驚くべきは、株価の変動や無作為に選び出した数字の表(何かの統計年鑑でもいいし、企業の会計表でもいい)の中にも普遍的にφが現れる。森羅万象をφという数学原理で理解することが可能になる。なぜそうなるのかは今も謎のままだが、この謎について著者は問題を一般化し、深い哲学的な考察を加える。
なぜ数学はこの宇宙をここまで見事に説明するのか?
歴史的にはおおきく二つの考え方がある。
1 数学は人間の思考と関係なく客観的実在として存在し人間はそれを発見するから
2 数学は人間の発明品で、観測と合うものが自然選択によって残ったから
そして最後に、対立するふたつの考え方を結びつけて、一次元高いレベルで数学と世界の関係を説明している部分は本書の最大の読みどころ。
著者は本書で国際ピタゴラス賞とペアノ賞を受賞している。
・フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004192.html
・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html
・ヴォイニッチ写本の謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004123.html
・四色問題
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004223.html
・黄金比を使ったデザインを探す
・黄金比を計測し、黄金比を作るための特殊文房具 黄金比デバイダー
http://www.wada-denki.co.jp/bunguho/ctlg0760.html
・Video DVD Maker
http://www.videodvdmaker.com/
手元にあるビデオ(ファイル)をDVDにするにはどうしたらいいんだっけ?
真正面からいこうとするとこの作業、実は結構、面倒な変換が必要になる。
Video DVD Maker Freeを使うと、手っ取り早く3クリックで、DVビデオやダウンロードしたビデオをDVDメディアに焼くことができる。(厳密には3クリックではないのだけれど)。
・1クリック キャプチャ
DVビデオ、テレビキャプチャカード、Webカメラなどの外部入力から映像をキャプチャしてファイル保存する。既にファイルとして持っている場合にはこのプロセスは不要。
・2クリック 変換
映像ファイルをDVD形式に変換する。
・3クリック 焼付け
DVDメディアに焼き付ける。
簡単なのが特徴。その代わりDVDのメニュー作成など凝ったことはできない。
入力に対応するファイル形式は、AVI, DIVX, XVID, MP4, MPG, WMV, ASF, MOV、他と多彩。たとえばWebで見つけた面白い映像を、まとめてこのソフトにドラッグすれば、テレビで見られるDVDを簡単に作成できる。
VideoCD対応、静止画スライドショウ、DVDメニュー、ジャケットデザインなどに対応したPro版(30日の試用可)もある。
・uBrowser
http://ubrowser.com/
このソフトはサンプルを目で見たほうが早い。
つまり、こういうWebブラウザー。3次元空間にWebの表示をマッピングする。表示はマウスでの回転、移動、縮小に対応している。
・テレビブログ トリノオリンピック 人間ドラマ
http://www.tvblog.jp/torino/
サンプルで表示しているのは上記のサイト。
以下のサンプル画像はクリックすると拡大。
1 Webページを立体にマッピング
2 Webページを球体にマッピング
View image
3 Webページを旗状の面にマッピングしヒラヒラ波状アニメ
View image
開発しているのは、ネットワーク対応の3D仮想空間ゲームSecondLifeのメンバー。3Dの情報表示の研究の一環のようだ。
・Second Life: Your World. Your Imagination.
http://secondlife.com/
このゲーム、オモシロそう。あとでゆっくり研究しよう。
3Dデスクトップや3Dブラウザーは以前にもいくつかこのブログで紹介している。実用性という点ではまだよくわからない。私たち3次元空間の人間にとっては、2次元ブラウザーのほうが使いやすい気がしてしまう。
ということは、ハッ!
このソフトの真のマーケットは4次元の人たちの世界にある?。
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http://www.protama.net/interview/08/1.html
貨幣に媒介されてあらゆるものが流通してしまう現代。芸術、学術、性愛、そして人間の生命でさえも値段が算出されて売り買いの対象になってしまう。この社会では「市場で取引の対象になり得ること」と「社会的に価値が認められていること」は密接に結びついている。売れないものは価値がないし、売れるものを作れない人間は半人前という扱いになる。
ビジネス社会では、市場で売れるものは良いものであり、儲かることは正しいことだと私たちはしばしば錯覚してしまう。この論理を敷衍すると市場において流通することが、社会的正義であることにもなる。戦争を推進する正義もしばしば、経済的下部構造の得失原理に突き動かされる。
この本では、貨幣の強い影響力についてマルクスの資本論の一節が引用されている。
「
物はそれ自身としては人間に対して外的なものである。したがってまた譲渡しうるものである。この譲渡が相互的であるためには、人間はただ暗黙の間に、かの譲渡さるべき物の私的所有者として、またまさにこのことによって、相互に相独立せる個人として、対することが必要であるだけである。だが、このような相互に分離している関係は、一つの自然発生的な共同体の成員にとっては存しない。それがいま家父長的家族の形態を取ろうと、古代インドの村やインカ国等々の形態をとろうと、同じことである。商品交換は、共同体の終わるところに、すなわち共同体が他の共同体または他の共同体の成員と接触する点に始まる。しかしながら、物はひとたび共同体の対外生活において商品となると、ただちに、また反作用をおよぼして、共同体の内部生活においても商品となる(『資本論(一』))
」
貨幣経済は本来は共同体の境界での内外の取引に使われるものであった。だから、親密な家族関係においては物の売り買いは本来は存在しないはずだが、対外関係で発生した貨幣の強い影響力は共同体内部にさえも浸透していく。親子や恋人の間にも貨幣を媒介した物の流通が意識されるようになる。愛や恋にも値段がつけられる。
芸術や学術のように「すぐには金に換算できない」知的な営みの価値も、実際には「すぐには」がポイントなのだと著者は言う。すぐには換算できない価値も残っていてほしいと願うから人々はそれに投資するが、まったく貨幣に変換する見込みがゼロならば、そもそも社会的関心とならないだろうという。
表現者は現在の経済価値と無縁な「ものめずらしい」物を作り出そうとする。だが、市場経済では、多様な関心を持つ人間がいるので、そのものめずらしさに経済的価値を認める人たちがでてくる。いや、私はまったく稼ぐことに関心がないという表現者は、その実、余剰で生きていられる人なわけだ。食べないと死んでしまうわけだから。
結局、人間の営みはどうやっても貨幣価値から逃れることができないということになる。
すべてを飲み込んでしまう貨幣の魔力を著者は「ファンタスマゴリー」効果と呼んでいる。これは、人間が作り出した「商品」が逆に人間の振る舞いを支配するようになる現象を形容するための隠喩として、マルクスが資本論の中で使った言葉だ。語の由来は、物に光を当てたときにできる影を観客の前に大きく写す幻灯装置のことである。人間の欲望という光によって、貨幣の影絵はすべてを包み込む。
ファンタスマゴリーから逃れることができないのであれば、正義も貨幣を媒介して実現するしか方法はないのだと著者はお金と正しさの関係について結論している。ファンタスマゴリーを否定して「人間ひとりの命は地球より重い」というのは詭弁だともあとがきに書いている。
昨年賛否両論だった、「ホワイトバンド」キャンペンは貨幣と正しさについて考えさせられるいい機会だった。。
・ほっとけない 世界のまずしさ
http://www.hottokenai.jp/
この運動の背景にある営利企業サニーサイドアップは上手にファンタスマゴリーを正義と結びつけるころで儲ける、したたかな会社であるようだ。
・さて次の企画は
http://d.hatena.ne.jp/otokinoki/20050911
このほっとけない運動に対するアンチとしてこんなサイトもみつけた。
・ほっときたい 世界のまずしさ
http://www.hottokitai.jp/
・FrontPage - ホワイトバンドの問題点
http://whiteband.sakura.ne.jp/
実のところ、ホワイトバンド運動の本質はマネーなのかラブなのかよくわからない。
結局、貨幣もまた刃物と同じで、それを使うものの意図次第ということなのだろう。これは「会社は誰のものか」という本で「志の高い人のものであるべき」とした結論とも通じるものがあるなあとおもう。主語をテクノロジーと変えても同じことが言えるだろう。
・会社は誰のものか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003567.html
貨幣も会社も技術も、ネットワークを通じてファンタズマゴリーの効果で、自己増殖し、過去にないほどに大きな影響力を持つようになっている。「正しさ」を「神」にも「聖なるもの」にも依拠できなくなった現代。この本を読んでおもったのは、最も大切なのは、したたかに貨幣のファンタスマゴリーを利用して、公共性のあるビジョンを実現するリーダーであるような気がした。。
昨年度のベストセラー。出版時、絶賛する書評が多すぎて、天邪鬼な私は今頃読んでしまった。
やはり、凄まじい本だった。
著者は佐藤優 元外務省主席分析官。「鈴木宗男事件」で背任と偽計業務妨害容疑で東京拘置所に512日間拘留され、第一審判決は懲役2年6ヶ月、執行猶予4年。事件当時「巨悪のムネオ」の右腕としてマスメディアに大々的に取り上げられた人物。政敵田中真紀子がいう「伏魔殿」の「ラスプーチン」である。
政治・官僚ドキュメンタリとして近年まれに見る極めて面白い本だ。
もちろん、この本の内容は控訴中の人間の弁明であるから、何が真実なのかは分からないが、「政治の闇」に深く切り込んだ一冊であることは間違いないように思える。著者の容疑内容(背任であって贈収賄ではない)や逮捕前後の行動からも、私心のなさはうかがえる。この本における自らの行動と経緯の説明も一貫した理念にもとづくものとして説得力がある。
登場するのは政治家と官僚、検察の頭脳明晰なエリートたち。ある意味、この全員が確信犯なのであり、著者の言う「国家の罠」を組織的に作り出す構成員たちである。だが、いくら優秀な才能とはいえ感情のある人間である。必死の攻防の中にドラマが生まれる。
連日の担当検察官の取調べとその中で生まれる著者との奇妙な友情は感動的でさえある。互いの知力の限りを尽くして、逮捕された官僚と、追い込みをかける検察官は、静かな戦いを繰り広げる。検察官自ら、これは「国策捜査」だと宣言し、無罪はありえないので落としどころを共に探る提案を出す。
「
被告が実刑になるような事件はよい国策捜査じゃないんだよ。うまく執行猶予をつけなくてはならない。判決は小さい扱いで、少し経てばみんな国策捜査で摘発された人々のことは忘れてしまうというのが、いい形なんだ。国策捜査で捕まる人たちはみんなたいへんな能力があるので、今後もそれを社会で生かしてもらわなければならない。うまい形で再出発できるように配慮するのが特捜検事の仕事なんだよ。だからいたずらに実刑判決を追及するのはよくない国策捜査なんだ
」
国家組織を円滑に運営していくには、時代の変化に対応して、古い部分を切り捨てなければならない。著者は時代の変化を、内政におけるケインズ型公平配分路線からハイエク型傾斜配分路線への転換、外交における地政学的国際協調主義から排外主義的ナショナリズムへの転換と分析している。二つの路線が交錯する場所に鈴木宗男がいて、時代のけじめのために、我々は犠牲になるのだという認識がある。
著者が弁護団に依頼した弁護方針は
1 国益を重視し日本外交に実害がないようにすること
2 特殊情報(外交上国家機密に関わるようなこと)の話が表に出ないようにすること
3 鈴木宗男との利害が対立した場合は、鈴木氏の利益を優先すること
であった。
飽くまで外交官のロマンに殉じる覚悟の表明であった。
こんな著者の心意気とプライドを認めた担当検察官は、取調べの密室の中で著者の言い分の最大の理解者になっていく。しかし、お互いの利益は相反している。やるべき仕事がある。完全に気を許すことはできない。二人は最後まで握手をすることはなかった。だが、国家の罠の対岸で互いの立場を尊重しあう深い絆を形成していたように思える。その過程が本書の最大の読みどころである。
読み終わって私は著者に90%共感したのだが、10%疑念もある。結局のところ、この本を書いている人も、出てくる人も、共に一般人からは「魑魅魍魎」の一員である。とにかく情報戦を得意とする著者であるから、出版も完成度の高い弁明作戦の一環と思えなくもない。政治の世界からは手を引くような記述はあるのだが...。
そういえば、
・鈴木宗男氏
http://www.muneo.gr.jp/html/flash_index.html
復活してすっかり元気なようである。
「大怪我で入院して帰ってきた人気悪役プロレスラー」みたいな印象で、今度は外務省の汚職を追求する方に回っている。歯切れのいいコメントにうっかり、好感を抱いてしまったりする。そこらへんが魑魅魍魎政治家やらラスプーチンの怖さなのである。
・劇団四季 オペラ座の怪人
http://www.shiki.gr.jp/applause/operaza/index.html
劇団四季の「オペラ座の怪人」を観た。四季は初めてだったが絢爛豪華な舞台と迫力のある歌曲に感動して、周囲に触れ回ったら、会社の経営パートナーは既に5回くらい観ていたとのこと。そういうものですか。演劇初心者なもので...。
CDも購入。
・オペラ座の怪人(日本語キャスト): 音楽: 劇団四季ロングラン10周年記念キャスト
・エンジェル・オブ・ミュージック
・オペラ座の怪人
・マスカレード
の3曲が印象的。同じ作曲家アンドルー・ロイド・ウェバーのてがける四季「エビータ」も映画が好きだったので、次に観てみたい。
そして最近の映画版のDVDを観る。頭の中にテーマ曲がリフレインする毎日。
なお四季はついにこの3月で千秋楽とのこと。気になっていた人は絶対に見に行くといいと思います。感動です。おすすめです。
「メール道」の著者で、人間として尊敬する師匠、久米信行さんが、今度はブログの本を出版された。その名も「ブログ道」。ブログの道に生きる者にとっての作法と心得が説かれている。
・メール道
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001854.html
メール道と久米社長については過去に紹介している。
この本の出版記念パーティで私は久米さんの対談相手にご指名いただいた。
パーティの報告:
・テレビブログとブログテレビ:好きな番組+好きな仲間+好きな時空で:IT Pro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20060207/228755/
・橋本大也さんとの対談でテレビブログを知…
http://plaza.rakuten.co.jp/enginekimyo/diary/200601300000/
・[4k]shikeの日記 - パーティご来場有難うございました
http://d.hatena.ne.jp/shike/20060204
業界のキーパーソンが多数集まる賑やかな会合だったので、壇上では本の詳細に立ち入りお話をするには至らなかったのですが、この場を借りて、この本で感銘を受けた箇所を少し長く引用させていただく。
「
やがてブログを続けるうちに、書くこと自体が面白くなり、仲間の目を気にしなくても続くようになります。そしてある日、ブログを一緒に始めた仲間の何人かを見ると、いつしかそれぞれの山を目指して黙々と進んでいるかもしれません。目指す山が違えば、すなわちブログのテーマや表現方法が違えば、もはや競争相手ではなく、「道を歩む同志」だと感じられることでしょう。かつてほど共に過ごす時間はなくとも、共感と尊敬は逆に深まっているかもしれません。
また、道の途中で見知らぬ人たちと意気投合することもあるでしょう。見晴らしの良い場所に出て眺めれば、別の山でこちらを見つめる人と目が合い、心が通うかもしれません。また道が重なって出会うときもあるでしょう。そして、一緒に何かを創造することもあるでしょう。
やがて、群れるより、一人で歩む方が快くなるでしょう。時には一人で登り続ける辛さも痛感するでしょうが、そんな時は互いの歩みをブログで確かめ合うことができるはずです。今もどこかで縁者が共に歩んでいることにおおいに勇気づけられるのです。わが道を恐れず歩む人たちが、ブログの絆で結ばれながら、いつしか新しい世界を、曼荼羅を描いていくことになるでしょう。
」
ブログ縁者のあるべき関係を、見事にいい表わしている名文だと思った。それと同時に、私が深く共感するのは、久米さんの縁者の考え方は、ベンチャー経営者同志の精神的つながりに似ていると思っているからだ。ブログも企業経営も、お互いに良いときもあれば悪いときもある。市場では競合の関係もあるし、戦略上敵対しないといけないこともある。だが、精神的な絆で結ばれた同志は、浮世のことはどうあれ、求道者として深い部分ではつながっている。手段がアナログでもデジタルでも変わらない人間同士の絆のことを説明しているのだと思う。
この本のタイトルは、ブログ術ではなくブログ道である。円熟したオンラインコミュニケーションの作法と心得がまとめられている。
「コメント・トラックバックは「群れず・悩まず・争わず」」
「ブログを独立自創×共創共栄のメディアにする」
「縁を育むお礼と賞賛のコメント・トラックバック」
ときどき、ネットの世界では、「メールには署名を入れないといけない」「他人のブログに無断リンクはいけない」「引用していないのにトラックバックするのは失礼」などなど、形式的マナー論が盛り上がっているときがある。久米さんが教えてくれるのは、形式じゃなくて思いやりのこころこそ大切だという当たり前の事実。
道の本だが、術の話もある。たとえば、ブログの記事にも署名を入れるといいというアドバイスは、はじめて聞いた。作法的にも、SEO的にも、確かにその通り、効果的かもしれない。久米さんは自らのブログで署名を実践している。
・3/3「ブログ道」出版記念パーティがわり…
http://plaza.rakuten.co.jp/enginekimyo/diary/200602090000/
署名のある記事の例
ブログを道と考え日々研鑽したい人たちのための教典。
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1992”N “~ ƒAƒ‹ƒx�[ƒ‹ƒrƒ‹
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1994”N “~ ƒŠƒŒƒnƒ“ƒ�ƒ‹ �‚‹´�^—œŽq —y‚©‚È�l‚Ö
1996”N ‰Ä ƒAƒgƒ‰ƒ“ƒ^ ‘å�•–€‹G ”M‚‚È‚ê
1998”N “~ ’·–ì F-BLOOD Shooting Star
2000”N ‰Ä ƒVƒhƒj�[ ZARD Get U're Dream
2002”N “~ ƒ\ƒ‹ƒgƒŒ�[ƒNƒVƒeƒB MISIA ‰Ê‚Ä‚È‚‘±‚ƒXƒg�[ƒŠ�[
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http://www.tvblog.jp/torino/archives/2006/02/nbcolympicscom.html
・Balloo!
http://balloo.infocity.co.jp/pc/
2ちゃんねるを四六時中見ている暇などないのだけれど、見ていたい人のためのツール
もしくは、
2ちゃんねるを見ていなければならないのだけれど、見るのが億劫な人の支援ツール
指定したスレッドを10秒などの間隔で監視し、更新があれば、書き込みの内容をデスクトップにバルーン表示するソフトウェア。テレビの実況中継板などの速報性が高い板を登録すると効率的にチェックできる。
大事件、大災害の発生時、スポーツの中継時などに威力を発揮しそうだ。
#話題の「ニュー速VIP」の速度についていけない弱者にも優しい。
・使い方
Ballooを起動する。
↓
板とスレッドを選ぶ。
選択画面:
↓
タスクトレイにアイコンが出現。実況開始。
実況画面:
吹きだしをクリックすると、一時的に吹きだしを隠します。
吹きだし右上のアイコンを左クリックすると、スレッド選択画面に戻ります。
吹きだし右上のアイコンを右クリックすると、メッセージの表示方法などを変更するためのメニューが表示されます。
設定画面:
吹きだしのその他の部分やタスクトレイのアイコンを右クリックすると、↑とは別のメニューが表示されます。
・音声認識で4ヶ国語翻訳マシンにPSPが変身 TALKMAN
発売日に買っていながら、今頃レビュー。
付属の小型USBマイクを取り付けると、PSPが音声認識による4ヶ国語翻訳マシンに変身する、エンタテインメントコミュニケーションツール。対応言語は日本語、英語、中国語、ハングルの4ヶ国語。
ゲーム内のキャラクター「マックス」と音声対話を進めることで、各言語の発音テストができたり、語彙チェックができる。3000文の日常会話ゲームが収録されているので初心者向け語学学習ソフトとしても使える。娯楽ゲームとしての要素はあまり強くない。ゲームを遊ぶというよりは、外国人と話す際のコミュニケーションを遊ぶツールだ。
JTBは韓国ツアー参加者向けにTalkManをレンタルするサービスをはじめた。
・SCEJ、JTBの韓国ツアー利用者にPSP本体と「TALKMAN」を無料レンタル
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20060130/talk.htm
音声認識の認識率はかなり高いと感じる。私の英語のカタカナ風の発音でも認識してくれた(私の発音でOKが出るようでは、厳密な認識率としては低いともいえるが...)。英語については中学生レベルの復習的な内容になっている。”ITビジネス”や”ライセンス契約”、”オフショア開発受発注”とかもオプションであると会社の研修用に使えそうだが、どうだろうか。
私の第2外国語はフランス語だったので(喋れるわけではないが(笑))、フランス語も欲しいと思っていたら5月に発売されるらしい。かなりの人気のソフトになったようだ。
・SCEJ、PSP「TALKMAN ヨーロッパ言語版 (仮)」5月に発売。英語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、日本語に対応
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20060112/talkman.htm
先日、紹介した電子辞書の分野では、最近、音声発話機能を備えたものが増えてきた。電子辞書は将来的には携帯翻訳機の役割を担うのだろうと思う。Talkmanはその先駆け的な存在になるかもしれない。
・Passion For The Future: 電車でGO! POCKET 山手線編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003859.html
・Passion For The Future: 実話怪談「新耳袋」一ノ章
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003803.html
・Passion For The Future: PSP対応ネックストラップ・ヘッドホン・ポータブル
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003813.html
・Passion For The Future: 映像ファイルを携帯、PSPで再生する形式へ変換する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002733.html
・Passion For The Future: PSPの第一印象、今年はPSP Hacksが流行する?
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002782.html
臨床発達心理学者によるスキンシップのすすめ。
成人の対人関係について米国で学者がアンケート調査したところ、大きく以下の3分類に分けられた、という米国の研究が紹介されている。
安定型(56%) 他人と親しくなるのがたやすく、人間関係が好き
アンビバレント型(24%) 他人は自分が望むほど親しくしてくれない、と思う
回避型(20%) 他人と親しくするのが嫌い
この3タイプは、そのまま母子関係の母親3タイプに割合に対応していると著者は指摘する。母子関係が成人してからの対人関係につよく影響するというのである。
安定型(60%) 子供の要求にすぐに反応するタイプ
アンビバレント型(19%) なかなか反応しないタイプ
拒否型(21%) 拒否的に反応するタイプ
そして、対人関係は恋愛パターンをも支配しており、その人物が安定した人間関係を築いて幸せに暮らせるかどうかと深い相関関係があるとされる。母子関係(広い意味では父子関係も含む)がいかに子供の人生にとって大切なものか、示唆される。
関係の中でも特に重要なのがスキンシップであった。大学生への調査の結果、母親とのスキンシップが多かった学生は安定型になり、アンビバレント型になりにくかった。そして自分に自信を持ち、他人を信頼する傾向があった。父親とのスキンシップは、少し異なり、回避型になるのを防ぐ傾向があったそうである。
母親とのスキンシップが多いと依存型の、マザコンになるというのは誤解であるとこの本は俗説を否定する。なでなで、くすぐり、添い寝、抱きしめる。スキンシップが、こどもの思いやりを育て、キレない脳をつくるのだと多数のケースで説明がある。
医療の現場でも患部への「手当て」が効果をあげることが報告されている。心臓病の患者の腕に看護婦が手を当てるだけで心拍が下がって安定する。痛みが抑えられる。ストレスが低下する。こうした癒し効果は自分の手で触っても、他人のときほど期待できない。肌にある末梢神経は脳に通じている。他者とのリラックスした触れ合いはこの回路を起動させ、良い効果を挙げるようだ。
2歳の息子は意思表示がしっかりしてきて、あまりスキンシップを取りすぎていると「パパはあっち(へ行って)」と向こうを指差すようになってしまった。この本を読んでくれるといいのだが、無理か。
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脳科学と哲学の融合。
悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しくなる。楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる。恐怖は身体がこわばるから心が怖いと感じること。心の動きを感情、身体の動きを情動と定義したとき「感情の前に情動がある」とダマシオはいう。
情動と感情の関係は、一般的には逆のように考えられている。内面的な動きが原因となって、外面の動きがあると私たちは考えがちである。だが、進化的には情動が先行して存在し、感情は後からできたものであることは疑いない。人間以外の動物には複雑な感情がないからだ。神経科学や心理学の実験でも、身体の反応(反射)が、意識される感情よりも時間的に早く出てくることがわかっている。
いま身体がどのような状態にあるかを知覚することが感情の主な内容なのだと著者は説明する。脳には身体の感覚マップがあり、そのニューラルパターンが、心的イメージである感情を喚起する。この情動と感情のプロセスを引き起こすのは外的要因だけではなく、人間の場合は記憶が引き金になることもある。悲しい思い出を想起すると、人間はバーチャルに泣くことができ、それは本当の悲しさを感じるときの身体反応を引き起こす。
感じるということが、考えるということよりも本質的な作用ということになる。同じことを17世紀半ばにオランダで考えたのが哲学者のスピノザであった。スピノザは主著「エチカ」のなかで「心は身体の観念からなる」といい、「人間の心は、その身体の変化(刺激状態)の観念によって以外、いかなる物体も現実に存在するものとして知覚しない」と述べた。身体の存在なしには、心はありえないということだ。
「人間の心はひじょうに多くのものごとを知覚することができる。また、その身体がひじょうに多くの影響を受けるとき、それに比例して心が知覚するものも多くなる」とも述べている。刺激の多い場所ほど豊かな思考が成り立つ。
著者もスピノザも、情動→感情プロセスの引き金として外部の刺激だけではなく、過去の記憶や想像が大きな役割を果たすことを認めている。人間はネガティブな感情を意識的にポジティブに変換することができる。情動が感情を支配しているということは自由意志を否定するものであるかのように思えるが、人間は自らの思考でこの過程を制御できる。「理性は道を示し、感情は決断をもたらす」。
有名な脳科学者が書いたこの本、前半は脳科学の研究で、次第にスピノザ哲学と融合し、最後は完全に哲学で終わるという構成になっている。ふたつの世界の架け橋として大変勉強になる一冊だった。
・ユーザーイリュージョン―意識という幻想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001933.html
・脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004066.html
・脳のなかの幽霊
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003130.html
・脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003736.html
・脳のなかのワンダーランド
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002735.html
・マインド・ワイド・オープン―自らの脳を覗く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002400.html
・脳の中の小さな神々
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001921.html
・脳内現象
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001847.html
・快楽の脳科学〜「いい気持ち」はどこから生まれるか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000897.html
・言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000718.html
・脳と仮想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002238.html
20世紀初頭、米国の医師マクデゥーガルは、危篤状態の患者を精密な秤の上に乗せ、死の瞬間の体重の変化を計測した。その瞬間、秤の目盛りはわずかに動き、30グラムだけ軽くなった。「私は重さを量る機械で魂の実体を発見したのでしょうか?私はそうだと思います」と彼は書いている。
この突拍子もない見解は当時も支持されなかったし、現代科学では魂の実体という概念自体が否定されている。この本には、歴史上で「魂の重さを量る」ような同時代的に非常識な理論を提唱し、その後、その正しさや誤りが証明された科学の先駆者たちの物語が7編収録されている。まさにThink Differentな人たちの歴史である。
・重い物体と軽い物体の落下速度は同じだと指摘したガリレオ・ガリレイ
・ニュートンの粒子説に対して光の波動説を唱えたトマス・ヤング
・避雷針の頭は尖ったほうが効果が高いと主張したベンジャミン・フランクリン
・錬金術を批判しながら隠れて研究していた化学者ロバート・ボイル
・電気流体、動物電気説を唱えたルイジ・ガルヴァーニ
・生命体は独特な生命力を持つと考えた生気論者ハンス・ドリーシュ
正しかったにせよ、間違っていたにせよ、科学的に謎を解明しようとした努力は、科学の発展に貢献した。間違っていたにも関わらず、長い間、科学として生き残っていた理論も多いことが興味深い。
いつの時代の科学的な真理も、錬金術や生気論のように、その時点でほんとうだと信じられていることに過ぎないことがよくわかる。今でも根本的にわからないことがある。たとえば「魂の重さ」の重さの正体とは何なのか。重さは質量が重力に引き寄せられることである。では質量とは何か。最新の科学ではヒッグスボソンと呼ばれる粒子が他の粒子をひきつけるときに発生する力ではないかと考えられている。しかし、ヒッグスボソンを単独で探し出す試みはまだ成功していない。
著者はこう述べている。
「
科学理論は決してほんとうに真であると証明されることはない。その理論がどれだけ多くの検証をくぐりぬけてきたか。どれほど困難なテストをパスしてきたかによって、信頼度が大きくなったり、小さくなったりするだけだ。
」
科学は信仰の一種だということ、しかし、科学的方法論は科学的真理にちかづく唯一の方法であること、が、非常識で素晴らしい科学者たちの歴史から読み取れる。
・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html
・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html
・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html
・トンデモ科学の見破りかた −もしかしたら本当かもしれない9つの奇説
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001621.html
・科学を捨て、神秘へと向かう理性
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002634.html
メーラー、ブラウザにつぐ第3のツールとしてRSSリーダーが注目されている。マイクロソフトの次世代ブラウザ、OSでの採用も予定されており、今年から来年にかけて、いっきにユーザ数を増やすことは間違いない注目の技術である。
「RSSはビジネスとどういう関係があるのか?」。このテーマを、複数の専門家が各章を分担して一冊の本として最新の結論をまとめた。これまでRSSは技術論で語られることが多かったが、ビジネスマンが知りたいのは、それが利益や顧客にどのような影響を持つかということだろう。
著者の一人でRSSの広告ビジネスにいち早く取りんだ田中弦氏(RSS広告社社長)は、不動産ビジネスにたとえて新しい広告モデルの特徴をわかりやすく語っている。RSS広告とは以下の図のように、ブログやニュースサイトのRSSに、関連する広告を差し込むビジネスである。
・RSS広告(RSS広告社のサイトから図引用)
http://www.rssad.jp/
従来のネット広告は主にサイトのトップページへの読者誘導が目的であった。これに対して、RSSは個別記事への誘導を可能にする。「RSS広告はページ単位から記事単位へと土地を細切れにし、それぞれの価値を上げようとするものである」。だから「どこまでコンテンツを小さく区切って地上げすることができるか」というチャレンジだと書いている。
実際にRSS広告はどのように使われているのか。「「待ち」と「トレンド連動」」「集中と分散の両方に対応」というメリットや、周辺市場の未整備による現時点でのデメリットも率直に語られている。
たとえばRSS広告社の事例では、地震が起きると、ブログで地震についての記事が大量に書かれて、地震保険の広告の配信数が多くなった。トレンドというのは多様でこれがくる!とヤマの予想が難しいものだが、あらかじめ話題になりそうなRSS広告をいくつも仕込んでおくことによって、「ユーザの興味が最も喚起されたタイミングで的確にリーチできる」。検索連動型と違ってユーザが知らないキーワードにも対応できるので、新製品や突発的な事件、事故への広告効果が高いようだ。
目次は以下のような構成で、RSSとビジネスの接点を網羅的に語る。
chapter1:ネットビジネスに何が起こっているのか
1-1 「検索」「発信」「受信」の情報革命
1-2 ユーザーの情報消費が変わろうとしている
chapter2:RSSマーケティングの誕生
2-1 RSSのマーケティング利用が始まった
2-2 ますます増加するユーザーとの接点
2-3 マーケティングツールとしての3つの特徴
2-4 RSSマーケティングの実際
2-5 企業マーケティングはRSSでどう変わるのか
chapter3:RSS広告の特徴とその可能性
3-1 ネット広告はどう発展してきたのか
3-2 RSS広告市場の夜明け
3-3 RSS広告のメリット・デメリット
chapter4:RSSがウェブ検索に革命を起こす
4-1 RSSは検索を変えるのか
4-2 RSS検索エンジンが輝くとき
chapter5:口コミはRSSから起こる
5-1 インターネットの口コミ効果
5-2 口コミを促進させる次世代ウェブサービス
chapter6:ウェブサイトはRSSで変わる、変える
6-1 RSSの活用で企業サイトが変わる
6-2 RSSのアクセス解析
chapter7:RSSがメールを超えるとき
7-1 メールが抱えている問題点
7-2 RSSのアクセス解析
chapter8:モバイルRSSマーケティング
8-1 モバイルインターネット市場の現状
8-2 モバイルインターネットにおけるRSS
8-3 RSS普及にあたっての課題
8-4 携帯電話のメディアとしての特徴
8-5 モバイルインターネットにおけるRSSの実際
8-6 モバイルインターネットはRSSでどう変わるのか
chapter9:What is RSS, What is Web 2.0
9-1 Web 2.0とはいったい何なのか
9-2 RSSがWeb 2.0で果たす役割
9-3 Web 2.0はもう始まっている
9-4 Web 2.0で何が変わるのか
付録:主なRSSサービス
索引
まだビジネス事例が僅かな分野であるため、先行者による執筆のこの本で初めて明かされる知見が多い。理屈や予想だけではなく、数字をベースにした現時点での状況要約が大変参考になる。
・SHARP カラー電子辞書 Papyrus PW-N8000
初めて電子辞書を購入。
2歳の息子が、すっかり、「なぜ?なに?」君になっている。
最近は彼の脳も性能が上がってきて、絵本に出てくるもの、会話にでてくる言葉を、高精度で自動認識するようになったため、質問内容は森羅万象に及ぶ。親は万物についての定義と理由を記憶し、即答を求められる。
なぜ系については考えて答えるしかないのだが、なに系については、そのものの絵や写真を見せるのが手っ取り早い。そこでカラー液晶付の電子辞書を購入した。最新機種、数機種の候補から結局これを選んだ。
こどもに見せるには絵がキレイに見えることが大切なので「4.3型高精細カラーASV液晶搭載480×272ドット」はポイントが高い。「ブリタニカ国際大百科事典 画像約6,400点」やカラー地図から引ける「世界遺産100選」というビジュアル資料の充実度も重視。
面白いのは、PW-N8000は外部SDメモリカードに、自分で撮影したデジカメ写真やテキストを入れると、内蔵辞書の本文のキーワードにリンクさせられること。ユーザオリジナルの定義項目を作成できるのである。こどもにこの前見たこれ(写真)のことだよ、と教えることができる。マイホーム事典が作れそうだ。
SDメモリカードに収めた画像をスライドショウ表示したり、Webからダウンロードした電子書籍を表示することもできて、単なる電子辞書にとどまらない使い方が可能である。
別売りのSDメモリ型コンテンツカードも販売されている。挿し込めばコンテンツを追加できる。こども向けにイラストとやさしい言葉で答える追加事典があったら欲しいものだ。
■43コンテンツ内訳
【国 語 系:7コンテンツ】
「スーパー大辞林」や「逆引きスーパー大辞林」、「漢字源」、「全訳古語辞典 第三版」など7コンテンツを搭載。
【英 語 系:5コンテンツ】
「ジーニアス英和辞典 第3版」や「ジーニアス和英辞典 第2版」、英会話のベストセラー「英会話とっさのひとこと辞典」など5コンテンツを搭載。
【健康:7コンテンツ】
健康管理に役立つ「新 家庭の医学」と「医者からもらった薬がわかる本 2006」の最新版を搭載した。また、体操の手順や動作、ポイントをパラパラアニメで確認できる「NHKためしてガッテン「脱・糖尿病」ものぐさ体操」、「血液サラサラ健康事典」など、7コンテンツを搭載。
【生活:12コンテンツ】
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四色問題
「四色あれば、どんな地図でも隣り合う国々が違う色になるように、塗り分けられることができるのか。」
証明がなくても経験的に、どんな地図でも四色で塗り分けられることはわかっていた。しかし、いざ証明しようとすると、「どんな地図でも」が問題になる。地図のパターンは無限に見えるからだ。証明に至るには150年の歳月がかかった。膨大な計算が必要であり、現代のコンピュータの力を借りる必要があった。
最終証明は100ページの概要と100ページの詳説、700ページの予備的成果、印刷すると高さ1.2メートルに及ぶ1万点の図。その計算をするためのコンピュータの稼働時間は1000時間に及んだ。
四色問題を解くには、塗り分けに五色以上を必要とする地図を仮定し(ないのだが)、そこに描かれている国の数が最も小さいケース=最小反例が存在できないことを証明しなければならない。
この本の本論を読む前に、30分ほどペンと紙を持って考えてみるとよい。私もものすごく考えてみた。まず国の数が4以下では当然四色で塗り分けられるから、国の数は5以上が問題になる。国同士が隣接する方法に有限のパターンがあるはずと直観する。しかし、国の数が増えると、考えられる隣接の組み合わせ量が爆発して直観では、すべて塗りわけられると言い切れなくなっていく。
中心になる国を考え、周囲を異なる二色の国の鎖でつないでいくと、その内部は少なくとも塗りわけられると考えていいのではないか、と思いつく。この本にも鎖のアイデアが実際にでてたので、いい思いつきだったのだと嬉しくなった。国の数は無限に増やせる以上、対象を単純化しなければ、この問題は解けそうにないと思ったところで自力検証はギブアップ。
150年間の数学者たちの試行錯誤が語られている。無限と戦うにはまず単純化である。図形としての要素は、国の数、境界線の数、交点というパラメータに還元できることが示される。実は簡単な図形操作で判明するのだが、四色塗りわけを証明するには、すべての交点で3つの国と交わる地図(三枝地図)だけを考えればよいことが最初にわかる。幾何学の公式が使える問題になってきた。
読み進めていくと、以下のような概念が証明に密接に関わっていることを知る。
・可約配置
「最小反例には含まれないような国々の配置。これを除いた残りの地図が四色で塗り分けられるなら、必要に応じて塗り直しをすることで、四色の塗わけを地図全体に拡張できる部分。」
・不可避集合
「その中の少なくとも一つがすべての地図に現れるような配置の集合。」
・放電法
「ある配置の集合が不可避集合であることを証明する方法。k本の辺を持つ国に6-kの「電荷」を割り当て、総電荷が変わらないように地図中で電荷を移動させる。」
無数にありえる地図のつながり具合を、四色問題の証明に必要な要素だけに単純化し、複雑な国や境界線の隣接方法を抽象化し、塗りわけの可否を検証するための数学的道具を用意したわけだ。異なるように見えても、数学的操作で、実質的に同じ構造の地図であることがわかれば可能性の数が減る。それでも、最小反例の候補群は複雑なものばかり数千件もあるのだが、これらをコンピュータを使って検証にかけた。四色で塗り分けられないものがないことがわかった。QED。
フェルマーの最終定理とはちがって、とてもエレガントとは言いがたい証明方法である。この証明はコンピュータの手を借りなければ証明することができなかった。数名の審査員が一応、機械計算にミスがなかったか、出力をチェックしたようだが、誰か人間が頭で検算できたわけでもない。150年間をかけた四色問題の証明は、数学界にそれまでになかった問題を提起する結果になってしまった。
人間が全部考えることができなくても証明したことになるのか?。
この手の数学問題が好きな人にはおすすめの本である。なぜか訳者はクオリア論で有名な脳科学者で哲学者の茂木健一郎氏。
・フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004192.html
・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html
・ヴォイニッチ写本の謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004123.html
・第3回 テレビとネットの近未来カンファレンス
「20+αの先端事例でディスカッション 2006」
http://www.tvblog.jp/event/archives/2006/02/index.html
悪天候でしたが、たくさんのご来場ありがとうございました。
第一部:テレビを”どこでも視聴”するソフトウェア展望
第二部:テレビ×ブログからトレンド抽出
第三部:テレビ×ネットの先端サービス ベスト20
という3部構成でした。プレゼンテーション資料は、上記告知ページから本日中にはリンクする予定です。報告記事は現在執筆中。少々お待ちください。
まずは私の手元にある第3部の私と神田敏晶氏との対決型プレゼンのファイルを公開します。
この資料はパワーポイントを「いきなりPDF FlashPaperでFlashに変換しています。PDF版はこちら
イベント告知ページは、当日の参加者の方々からトラックバックをいただいております。いくつかご紹介させていただきます。
・END_OF_SCAN - 第3回 テレビとネットの近未来カンファレンス
http://d.hatena.ne.jp/paraselene/20060201/1138806335
当日の詳細な記録があります。ここまで現場でメモできるとは驚きです。参加されなかった方が読むまとめとしておすすめです。
・woodpine:第3回 テレビとネットの近未来カンファレンス
http://blog.livedoor.jp/woodpine/archives/50171504.html
要点をまとめていただいています。こちらはむしろ参加された方におすすめです。
次回は3月中旬に開催予定です。よろしくお願いいたします。