Culture: 2013年2月アーカイブ
・おおかみこどもの雨と雪 BD(本編1枚+特典ディスク1枚) [Blu-ray]
ブルーレイで「おおかみこどもの雨と雪」をみた。予想外の内容で感動した。大人向けアニメの傑作と思いました。「私が好きになった人は、"おおかみおとこ"でした。」。だから、オオカミの道と、人間の道、どちらも選べるように、子供を育てた母の物語。
親と子の成長の普遍的な姿を描きながら、説教臭くなく、甘くもなく、本物の出汁の味で、大人ならわかるみたいな味付けにしびれました。ジブリ作品にありがちな伝統的な価値観、倫理観の押しつけがましさみたいなものがなくて、私はこの方が好き。
「しっかり生きて」という主題歌も素晴らしい。
男の子の生き方、女の子の生き方の違いというのもうまく描き出していたと思う。
★★★★★。
でも、これ子供と映画館に行った家族もいたでしょうね。子供にはちんぷかんぷんであったでしょうね。いや大人でも相当に感想がわかれそうな作品ではあります。年代や子育ての有無、段階によってまた感じ方が違ってくるはず。公開時も評価が微妙で、大ヒットとはならなかったのがうなずける名作なのでした。
「おおかみこどもの雨と雪」
http://www.ookamikodomo.jp/index.html
今年もNTT R&Dフォーラムに参加してきた。
GOOラボの今回のワークショップのファシリテーターはなんと現代(サブ)カルチャー分析の天才 濱野智史氏。テーマは「ネット社会における生活空間の変容と未来」。
いきなり、就職も恋愛もない『漏れ落ちた人々』というキーワードが提示された。このネガティブにも響く言葉は、ここではいわゆる格差デバイドとは違った意識で扱われている。
濱野さんの連れて来た頭良さそうな「漏れ落ちた」アイドルオタクの若者たちとともに、NTTの先端技術でAKBのライブや握手会議をエンハンスするイメージを検討するところからセッション開始。
3D立体映像音響でAKBと話したり、生体信号センサーでAKBと総選挙のドキドキを心拍数で共有したり。。。莫大な研究開発投資が、アイドル萌え消費に収束するアイデアが連発。まあ、ソーシャルゲームもソーシャルネットワークも、ある意味、幸せに漏れ落ちる技術なのではないか。必要を満たす以上の発想が求められる。サービスデザインとしては面白い領域。
これまでのテクノロジーは人間の能力の拡張志向だと思う。できなかったことができるようになるとか、競争に勝つための技術を追求するリア充系技術だったと思う。しかしネット社会が成熟してくると、ネットに埋もれて案外幸せに完結して暮らす人たちが現れてきて、それがしっかりマーケットとして、カルチャーとして育ってきている。時の過ぎゆくままに、墜ちていくのも幸せだよと、本気で思ったり。
それでグローバルコンペティションは厳然としてあるわけだが、そこでは日本の下流は世界の中の上くらいの位置であるととらえることもでき、「漏れ落ちた」とはいったって、アフリカの飢餓に苦しむ難民とは違う。だったらオタクの楽しさに未来を見ても良いのじゃないか。その先に新しい社会や経済を夢見るのも、ひとつのあり方なのではないか、と。
便利、安心、使いやすいという否定できない共通項を追い求めても限界がきており、オタクの楽しさみたいなニッチに対して次々にサービスを打ち出すということも重要なのではないか。
漏れ落ちたがキーワードのこのワークショップは、同じ時間帯に行われているNTT社長の"バリューパートナー"がテーマの基調講演とは、たぶん逆のことをいっているのだろう。両面の真理を扱っているのが、このフォーラムの懐の深さというか、レベルの深さだと思う。カルチャーの側面からテクノロジーを探究したこのセッション、本当に面白かった。濱野さん天才。
セッションにはグラフィックファシリテーターのやまざきゆにこ氏が参加して、みんなの議論をリアルタイムに絵にしていった。発言内容がみるみるうちに大きな絵に描かれていく。とりとめもなく話しても明解なイラストで可視化される。この職人技は何度みても感動してしまう。で、絵にした人が一番がわかっていたということで、セッションの詳しい内容は、下記のブログエントリがおすすめ。
・市場を動かすアイドルヲタ(←!)のハート@gooラボイベント
http://www.graphic-facilitation.jp/cp-bin/blog/index.php?eid=226
このブログでは、原作の小説を、「もうすぐ映画化」される作品として7年前に紹介している。その後、製作が二転三転し、結局『グリーン・ディスティニー』『ブロークバックマウンテン』のアン・リーが監督やっと完成、公開となった。
待っただけのことはあって、もうすぐ発表のアカデミー賞を『レ・ミゼラブル』とで二分するのではないかというくらいの名作になった。原作とおなじくらい素晴らしい。
インドで動物園を経営する一家がカナダへ動物たちと引っ越すために貨物船に乗る。船は波にのまれて沈没し、唯一の生存者である少年のパイは、救命ボートに乗り合わせたトラとにらみ合いながら227日間の漂流を始める。
カナダ人の原作に、インド人の俳優が出演して、台湾人の監督が撮った。主人公の少年は3つの宗教を信じている。作中で沈む船は日本船籍。ハリウッド映画なのだが、エキゾチックな感性に彩られていて新しいと思った。主人公と漂流するベンガルトラをはじめとする動物たちや海の映像の美しさは特筆に値する。IMAX3Dで観るのがおすすめ。
どうやってトラを演技させたのだろう?と謎だったが、Webをみたらナルニア国物語のCGを担当した会社が、監督の「あのライオンよりもリアルに」という要望に応えて、ほぼフルCGでリアルなベンガルトラをつくりだしたとのこと。本物にしかみえない。
・ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日
http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/
・原作小説『パイの物語』
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/09/fpfcoee.html