Culture: 2008年6月アーカイブ
大変よくできたDVDなので「ワンダーJAPAN」を読んでいるような好事家にはおすすめ。
『 「等身大人形に見られる造形美」
「参加型展示物に見られるユーモア」
「性への純粋な知識」
という3つの要素を備えた遊興空間。これを秘宝館とする。』
昭和に日本各地の観光地に登場した秘宝館は、21世紀に入って次々に姿を消している。上記の定義に合致する秘宝館はもはやこのDVDで取り上げられた6館しか存在しなかった(このうち元祖国際秘宝館は2007年春に閉鎖している)。存続している館もこの調子ではそう長くはあるまい。
冷静に考えてみると、あったりまえだよなあ、と思う。秘宝館は観客層が想定できなくなってしまったのだ。かつては企業の慰安旅行で温泉に行くなんてことが多々あって、これらの施設はその暇つぶしに同僚らとニヤニヤしながら見るもの、であったのだろう。非日常の空間を笑い飛ばして楽しんだ。あるいは不倫のカップルのオヤジの方が妙な下心で女を誘って「もうエッチねえ」なんて会話をするものだった、のかな?。性の情報が少ない時代には童貞学生君たちは真剣に中をのぞいてみたいと、情熱がほとばしっていさえしたかもしれない。ある館には最盛期に1日2000人もの入場者があったひもあったという話が映像の中で出てくるが、とにかく昭和には観客層が存在したのだ。
けれども平成、今や性の情報なんてメディアにあふれている。インターネットには、アダルトサイト群という人類史上最大の24時間営業の秘宝館がオープンしている。もはやへこへこ動く等身大模型を薄暗がりで見る体験は、ナンセンスな笑いとしても成立しえないということなんだろう。かくして、ここ数年は、寂れゆくモノ好きの、サブカルチャーのファン層がかろうじて秘宝館営業を支えてきているのじゃないかと見ている。
このDVDは秘宝館の中身を映像で紹介しながら、昭和の秘宝館文化とは日本の風俗史において何であったのかを説明しようと試みる。東京大学の研究者の論文をベースにしていたりして、記録性と研究生が濃い、案外に真面目なドキュメンタリである。
なかなか訪問のチャンスがない各地の秘宝館をまとめて映像体験できるのが素晴らしい。秘宝館の経営者らのへインタビューも興味深い。設立の背景、ねらっている客層、ビジネスとしての実態、近隣住民の冷たい目線との戦いなどが赤裸々に語られている。
運営者らの話を聞くと、往事は気分転換とガス抜き装置として、秘宝館という非日常は、ある程度は社会的な役割も果たしていたのではないかと思った。こういう大いに馬鹿馬鹿しいものを、大がかりな建築施設として作ってしまう余裕が昭和にあったということでもある。
中央のカルチャーと切り離されて、土俗的でローカルなサブカルチャーが地域で存在していた時代ともいえる。平成の時代では発想が「テーマパーク」「ミュージアム」のカルチャーに回収されてしまう。中央カルチャーでは分類不能だった秘宝館の閉鎖は、多様性、冗長性としての豊かさが失われていく象徴でもあるのだ。(とか、書いてみたが、それほど深刻・重要な話でもなんでもない...。サブカル娯楽映像として、オモシロなのでここまでに出てきたキーワードにビビンと反応した人、ま、見ましょう。よいよ。
・晴れた日は大仏を見に
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-748.html
・奇妙な情熱にかられて―ミニチュア・境界線・贋物・蒐集
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/post-387.html
・昭和聖地巡礼 DVDオフィシャルサイト
http://www.sasatani-chez.com/seichijyunrei/index.html