Books-Trivia: 2010年12月アーカイブ

リアル公務員

| | トラックバック(0)

・リアル公務員
51DxxKLeDXL__SL500_AA300_.jpg

「多くの人に、わかりやすく伝える。 現実をデフォルメしたマンガが公務員を取り巻く世界の「おかしさ」「哀しさ」「ややこしさ」を伝えてくれればと願っています。」

面白い。

公務員歴10余年の著者が、エッセイと漫画(かたぎりもとこ 画)で職業としての「お役所仕事」のウラオモテを伝える。新卒1年目の純粋で熱意に燃える公務員の水野くんに、ベテラン職員の吉田係長が、公務員としての歩き方を教える。

真面目で9時~5時のツマラナイ仕事だが一生安泰で結婚相手に困らない。「一度決まったことだから」「法律に書いてありますから」「1のリスクに100の準備」で融通がきかない、というのが典型的な公務員のイメージ。確かにそういう面があるけれども、中の人も、実はいろいろと考えてやっているのだということが、しみじみと伝わってくる内容。

国、都道府県、市町村の職員の仕事内容の違い。厳然たる序列の階級社会のルール。なにかと玉虫色のアウトプットになる原因。わかりやすく整理されていて腑に落ちるページが多数。公務員の対極のようなベンチャービジネスの私にとっても、この本はお役所攻略に役立ちそうな情報もいっぱい見つかって役立つ本でもあった。

公務員の内側から見た公務員への改革提言もエッセイには書かれている。多くは民間企業では当たり前の考え方だが、「一度決まったことだから」なかなか難しいのだろうなあ。やっぱり。

・大魔神の精神史
41e2q5PkCL_.jpg

怪獣ブームの直前、ガメラ第1作が作られた1966年に『大魔神』『大魔神怒る』『大魔神逆襲』の3作は連続で公開された。興行的にはマイナーな作品のはずなのに、怒る巨像のイメージは観客に強烈な印象を与えて、21世紀になっても大魔神は、知る人ぞ知る的な存在感を示す。大魔神が日本人の記憶に深く刻み込まれたのには理由があるというのが、この研究書である。

著者はこの三部作は「日本」博物館だという。

まず大魔神は国宝の埴輪「桂甲の武人」や仏像「伐折羅大将」が主なモデルである。

古代(埴輪、古墳、仏像)×中世(戦国時代の砦、刀剣や甲冑)×現代(特撮映画)

という日本文化のイメージの集積として、この映画がつくられていることを指摘する。民話的な世界観の中に、ダイダラ坊、平家の落人、スサノオの神話、貴人流離譚など、多くの日本の文化が埋め込まれている。この著者は、モスラの精神史と同じように、特撮映画ひとつでここまで日本文化を広く語ってしまうかと、思い入れに圧倒される。

その熱に感化されて私も改めて見直した。

この映画が名作になった理由ははっきりしているように思える。主役の大魔神がなかなか出てこないことだ。埴輪の石像としての大魔神は、冒頭から画面に映っているのだが、乙女の涙をうけて、開眼して動き出すまでに、物語の4分の3くらい(測っていない、イメージ値)まで進んでしまう。必然的に物語の大部分は人間だけの時代劇ドラマになる。

村人たちが悪人に散々いじめられた挙句に、それなりにシリアスな犠牲を出したところで、絶対的な力が登場して悪を制圧してこらしめる。この構成は45分で印籠を見せる水戸黄門だよなあと思う。なかなか出てこないがポイントなのだ。それなりの制作予算で前半の民話的世界が丁寧に描かれていることも、好印象。

日本人の精神性を重層的に織り込んだ映画だったから、半世紀過ぎても記憶されているということがよくわかる本だ。90年代のはじめ、筒井康隆の原作で日米合作制作費用30億円の第4作が予定され、脚本までは作られていたという。現代のSFXでよみがえらせたら、ブーム再燃もありそうだなあ。

・大魔神 デジタル・リマスター版 [DVD]
516lRLfOWvL._SL500_AA300_.jpg