Books-Trivia: 2009年6月アーカイブ

・アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ
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2000年前の沈没船から見つかった金属の歯車を持つ構造は、古代ギリシアで作られた世界最古のコンピュータだった。引き上げから100年以上を経て"アンティキテラの機械"の謎が解明されるまでの研究者達の苦闘を描いたドキュメンタリ。アンティキテラは時計の発明より1400年も早い。たったひとつの例外が数学の定理を書き換えるように、古代にあるはずのない構造の発見が科学の歴史を塗り替えた。発見された断片から失われた全体構造を想像し、使われた素材や表面に書いてある文字から、謎の物体の正体を推測していく。

『ムー』愛読者の私としては、アンティキテラの機械は"Oパーツ"の一つとして昔から知っていた。だが、科学者が最近になって本物の古代コンピュータだと認定していたことには驚いた。アンティキテラの存在は、人間の知識の進歩が必ずしも直線的に進んできたわけではないかもしれない可能性を示している。

2000年より長期のスパンでは文明の後戻りや袋小路が結構あったのかもしれない。そもそも進歩というのは後世から見たときに、あれは進歩だったと確定するものである。もし遠い未来に人類が『新世界より』のように科学技術を捨て、超能力を発展させていったとしたら、ここ数世紀の科学文明の進歩などたいした意味を持たないだろう。

古代人にとってもアンティキテラは未来的な最先端のテクノロジーだったのだろうが、その未来の延長線上に現代の技術文明があるわけではないようでもある。

「アンティキテラの機械がなぜ、誰によって作られたかを解明することは、古代のテクノロジーが「原始的」で、現代のテクノロジーは「先進的」という概念を、覆すことでもあった。考えてみれば、現代人が正確に時間を刻む実用的な機械を求めていた同じところで、ギリシア人は知識を獲得し、天界の美を表現し、神々に近づく方法を追究していたのだ。」

こういう"忘れられた科学技術"をもっと探してみたら面白そうだ。実現されなかった未来ベクトルに新たな意味が見いだせるかも知れないから。

科学者達が解読の名誉を求めて繰り広げる熾烈な競争が熱い。

・解読! アルキメデス写本 羊皮紙から甦った天才数学者
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-806.html

・ユダの福音書を追え
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/06/post-405.html

・ヴォイニッチ写本の謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/01/fhfcfjfbfzea.html