Books-Trivia: 2004年12月アーカイブ

・タブーの漢字学
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■男女の性器、性交を表す意外な漢字

いきなりだが、この本によると武士の「士」、先祖の「祖」の原字は「且」。この「且」は3千年前の甲骨文字に由来し、その形は屹立する男性シンボルだそうである。一人前の男性を表すために性器をかたどった文字が作られた。性に関する漢字で衝撃的だったのは「色」。面白いので原文を引用すると、


「色」は、ひざまずいた女性を男性が後ろから抱き、背後からおおいかぶさってまじわっているさま、すなわち「後背位」というラーゲ、いわゆるバックからの性交のさまをかたどった漢字である。

30へ〜程度あげたくなるトリビアであった。では女性性器を表す漢字はなんだったのか?。答えがこの本に出ていたが、意外にも、私の名前にも入っていて、日本では一般的に男性の名前に使われる「也」だという説があるそうだ。中国の漢字の原典「説文解字」にそのような定義が書かれているという。

ところが「也」は中国でも歴代の立派な書物にも今でも、断定の意味で頻出する字である。西暦100年成立の原典に定義があるからといっても、後世の中国人学者でさえ、納得がいかない定義だったらしい。「也」が女性性器の意味で使われたことは日本では一度もなく、中国でも長い間ないそうだ。良かった。私の名前が危うく「大きな女陰」という意味になるところだった(笑)。

■書いたら死刑の避諱の漢字

「丘、玄、�Y、胤、弘、暦」という漢字を書くだけで死刑になった人が18世紀の中国に実在した。これらの漢字は歴代皇帝の名前に使われていたため、後世の人々は一切使ってはならなかったそうだ。例えば唐の第2代皇帝の本名は李世民であったので、当時、世と民は使用がご法度であった。既に名前に世や民と入っていた人は、世→代に、民→人と意味の似た漢字に改名したそうだ。どうしても禁じられた漢字を書かねばならない場合は、欠筆といって、その漢字の線を一本抜くことで、書いたけれども書いていないことにしたらしい。

避諱という掟があって、皇帝の名前はその死後も使ってはならなかったそうだ。国家が編纂する漢字の辞書からも抜かされてしまう。そんなことをしていたら、使えない漢字だらけになってしまうではないか?と思うわけだが、別にそれで問題なかったらしい。さすがに10万種近くある漢字ならではの慣習だ。アルファベットでAもBもCもダメと禁じていたら、数世代で破綻してしまっただろう。漢字なら100や200欠けても代わりがいくらでもあるわけだ。

その避諱の掟を破り、字義の由来本を出版しようとした学者は、欠筆にせず、そのものずばりを書いてしまったので、前述の通り死刑になってしまったそうだ。皇帝だけでなく、一般の家庭でも先祖の名前の漢字を子孫が使わないことが多かったという。使うことは惧れを知らず不遜な行為だった。それだけでなく子孫がその同じ漢字を使う役職につくことさえ禁じられたりしていた。例えば、「安」という字が入っている祖先を持つ人は都、長安の役人にはなれなかった。折角難しい科挙試験に合格したのに、進士という役職の「進」と同じ読みの「晋」の字を持つ親がいたせいで、不合格にされた人もいたという。私の大也という名前だと私の子孫は大臣や大佐にはなれなかったわけだ。

先祖の一字を子供につけることの多い現代とはまるで逆の習慣が古代中国にはあった。それだけ言葉や文字は霊性の宿るものとして感じられてきたということだろう。日本の言霊思想にもこの中国文化は影響を与えているのだろう。

■タブーの文字を使わない工夫

この本は中国や日本の古典研究から、漢字に隠された性や死、排泄や穢れなどの意味を暴露していく。最も面白いのはそうしたタブーの文字を避けるために、さまざまな言い換えの工夫と努力がなされてきたかの事例解説。

女性言葉で今でもお目にかかるを「お目もじする」ということがあるが、もじとは文字のことだそうである。「あいつにホの字」と同じような婉曲表現で、異性に会うことをそのまま表現してははしたないとか、惚れたと直接言うのは恥ずかしいという心理の結果であるという。しゃもじは本来杓子が正式名称だったが、食べ物にまつわることもはしたないので、しゃもじになったらしい。なんと奥ゆかしい。

今でも、結婚式のスピーチでは「重ね重ね」「またまた」「たびたび」などの繰り返し言葉は避けられていたり、休憩室はどちら?と言ってトイレの所在を聞いたりする。英語でも「pay a call 〔婉曲〕 トイレに行く」という表現があるそうだ。

デジタルの世界にはこうしたタブーが見当たらない。この単語をリンク文字列に使うのは不吉、だとか、メールのサブジェクトにこの単語は汚らわしいという話は聞かない。サーバダウンは不吉だから、サーバがお隠れになるとか、ハードディスクがおめでたくなられたとか言わない。山の仕事、海の仕事には神を畏れて避ける言葉があるものだが、端末室にはやはり神不在ということか。

ところで日本のネットといえば2ちゃんねる管理人のあのお方。いつもひらがなで呼ばれているのは、やっぱり神だからでいらっしゃるのだろうか?。

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