Books-Sociology: 2011年9月アーカイブ
「創造的」という言葉と「福祉」という言葉の結婚の先に未来をみる。
著者のこれからの福祉国家、社会保障のあり方の考え方は
1 事後から事前へ 人生前半の社会保障
2 フローからストックへ ストックに関する社会保障
3 「コミュニティ」そのものにさかのぼった対応と政策統合
というものだ。
これまでは退職期、高齢期に集中していた生活上のリスクが就職難で若年層にも及ぶようになった。生計を立てるフローが危ないだけではない。格差を表わすジニ係数をみると、日本人の年間収入では0.308、貯蓄では0.556、住宅・宅地資産では0.573となっているそうだ。だから日本社会はフロー面よりストック面での格差が大きい社会なのだという。福祉政策においては、市場経済からの落伍者への事後的救済策としてではなく、「コミュニティそのものにつないでいく」ことも重要であるとする。
著者は、未来のセーフティネットを、その中で生きていける、いきがいの持てるコミュニティと定義する。そこでは、労働に対する非貨幣的な動機づけ、コミュニティや場所の価値の再発見、そして多様な幸福の追求が可能になる。コミュニティといっても農村モデルへの回帰などではないのが現実的だ。
「したがって、日本社会における根本的な課題は、個人と個人がつながるような「都市型のコミュニティ」ないし関係性をいかに作っていけるか、という点にまず集約される。これについては1 「規範」のあり方(集団を超えた付言的な規範原理)という点が大きな課題となり、また2 日常的なレベルでのちょっとした行動パターン(挨拶、お礼、見知らぬ者同士のコミュニケーション等)や、3 各地におけるNPOなど新たなコミュニティづくりに向けた様々な活動や事業の試みが重要となると考えられる(広井 「2009b」)」
たとえば「日本の大都市では見知らぬ者どうしがちょっとしたことで言葉を交わしたりコミュニケーションをとるということがほぼ全くない。」とか。地域ソーシャルネットワークやソーシャルアパート(ルームシェアの発展形)などの取り組みが、そうした社会の実現に近かったりするかもしれない。
そして少子高齢化社会と環境親和型社会の解として「経済成長を絶対的な目標としなくても十分な『豊かさ』が実現されていく社会」=「定常型社会」という理想を掲げる。これまでは経済成長や生産拡大に寄与する行為や人材が価値あるものとされ「創造性」もまたその枠組みの中で定義されてきた。しかし、幸福や生きる価値に重きを置いた「規範的価値と存在の価値の融合」に寄与する多様な創造性を評価すべきだという。相反するように聞こえる「創造的」と「福祉」という言葉がそこでつながる。