Books-Sociology: 2011年8月アーカイブ
歴史を振り返ると人はつねに「いまは大変な時代だ」と言い続けてきた。現在意識は常に大変だということを自覚しないとなにか間違うよ、と指摘する堀井憲一郎(落語論、ずんずん調査、ディズニーリゾート便利帖などウィット効きすぎなエッセイスト)の論考集。
つねに「大変な時代」になってしまう理由がいくつも挙げられているが、たとえばひとつは自分が大切という意識だ。
「私たちは、とにかく「自分が特別だ」とおもいたいのである。ほかはともかく自分だけは別だ。これが、いまの私たちのとても大事な支えである。アイデンティティと言ってもいい。その延長上として、「特別な自分が生きているいま」は特別であってもらわないと困るのです。」
確かに我々は同時代を歴史の大きな転換期とみなしたがる。顕著に大きな変化がない場合には「過渡期」なんて言葉に言い換えたりする。この特別だと思いたい人々の心理をうまく操るのが政治家であったりもするから気をつけないといけないのだ。
そして、著者はこんなこともいっている。これも共感した。
「日常生活は、ふつう、自分やその周辺のことだけで手一杯になってしまう。でも、社会とつながっていたくない、と言うわけにはいかず、自分も社会の一員だということを示そうとするとき、手っ取り早いのが「いまは大変な時代ですね」という言葉なのだ。日常を維持して、毎日を過ごしていくためには、いまは大変な時代だ、と考えていたほうがラクなのである。それは生きて行く活力としてとても必要なものなのだ。 ただ、それを「じっくりとものを考えるとき」にスライドしないほうがいい、という話でもある。」
大変な時代と言うのは掛け声に過ぎないのに、本当に状況を大変だと認知してしまうと、客観的な見方ができなくなってしまう。経済恐慌が起きようが、原発が爆発しようが、まあそういうこともあるだろうくらいに構えて、メディアや為政者に踊らされない余裕を、3.11後の私たちは身につけるべきなのかもしれない。
現代を客観化、相対化して、批判的に読み解くエッセイ集。ムーミンでいうならスナフキンみたいな人だ。
・落語論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1050.html
・東京ディズニーリゾート便利帖
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/ix.html