Books-Sociology: 2010年12月アーカイブ

・リスクに背を向ける日本人
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社会学者 山岸俊夫氏と、日本通のハーバード大学社会学部長メアリー・C・ブリントンによる日本社会論。日米を代表する研究者が、両国民のリスクへの向き合い方の比較を通して、現代の日本社会が抱える問題を読み解く。労働市場、教育、少子化、セーフティネット、男女平等などの観点から、行き詰った現状の突破口を見出そうとする対話。

1 何かを得ることに向かって行動する加点主義のプロモーション志向
2 何かを失うことを避けるように行動する減点主義のプリベンション志向

調査からもアメリカ人には後者が多くて日本人には後者が多い(世界一という結果も)ことがわかっている。日本人は自分の力で状況を変えるために積極的にリスクをとりにいくことが苦手である。リスク回避志向で、自分で決められず、周りの目を気にする。だが、二人はそれを単純な心の問題、気のもちようとは見ない。

「アメリカに住んでアメリカで暮らしているのなら、「ほかの人がどう思うかを気にするのはやめにしましょう」と言うのは簡単です。アメリカに住んでいなくても、いざというときには日本を脱出できると思っている人にとっても、そう言うのは簡単です。だけど、そういうオプションを持たない人にとって、それがどれほど大変なことか。」

日本では今の職場にしがみつくことも、新しい職場を見つけることも難しい。セカンドチャンス、オプションがない社会では、リスクをとれないのが当然なのだ。だから、集団主義的な秩序が与えてくれる安心感に頼って無難な選択をする。

「山岸 どうしたらいいのかはっきりしていないときとか、どちらにするかを真剣に考える必要がないときには、一番無難なやり方をとるのが日本社会での賢い生き方なんだと思う。ぼくは文化による行動の違いの多くは、こうしたデフォルト戦略の違いとして理解することができると考えている。言い換えれば、無難な行動をどんなときにデフォルトでとるかが文化によって違っているんだって。」

適正なリスクをとることが賢明な世の中、再チャレンジが可能な社会にするための方策を二人の学者は対話の中で考察する。海外との比較によって日本の特殊性をあぶりだす。精神論の問題ではなくて、社会のしくみの問題だということで二人の意見は一致している。

それにしても2009年にハーバード大学に在籍する日本人留学生数がたった5人しかいないという話は驚いた。日本はエリート層の若者までもがひきこもり内向き志向に染まっている。果敢に失敗した者には、何もしなかったものよりも、魅力的なセカンドチャンスが待っているような状況が、社会のあるべき姿ということだと思う。