Books-Sociology: 2009年6月アーカイブ

・日本の女が好きである。
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『美人論』の井上章一による美人とそうでない人の研究。

著者は、外国人に日本の政治や社会を批判されても反感がおこらないが、日本の女はぶさいくだと言われれば立腹してしまう自分に気がついたという。「日本の政治や社会は、すこし愛していない。ああ、おれが心から愛しているのは、日本の女だったのか」。美人をめぐる社会学の論考集である。

著者は相変わらず美人の変遷を追いかけている。ここでは古墳時代から中世まで遡って考えたとき「高松塚美人も樹下美人も、みな下ぶくれにえがかれている。源氏物語絵巻も、その点はかわらない。みな、おむすび顔になっている。だが、どうだろう。あんな顔面をもった人間は、ほんとうにいたのだろうか。」と問題提起する。

そして絵画類から美人史を復元する試みは、「セーラームーン」の絵を見て20世紀には顔の二割を占めるような大きい目が美人の条件だったとするのと同じだと指摘している。写実的でない絵画からは、こういう図柄が美人を表すという約束が読み取れるに過ぎない。下ぶくれ美人なんていなかったかもしれないのである。青銅器は出来たばかりは黄金に輝いていたという事実を知ったのと似た驚きがあった。

時代は降って容貌の美醜による行動の違いを分析するというのは、現代ではタブーである。美人群とブス群とで同じ実験をやって結果を比べるなんてわけにはいかない。ところが、戦前であれば結構ありだったらしく、著者は興味深い研究記録を過去から発掘してくる。

たとえばある研究では女性の囚人260人を美しさで5段階に分類した。姦通罪をおかした女性を調べると平均以下の不美人に集中していたという。不倫をするのは不美人が多いのはなぜか。それは美人妻は浮気をしても夫から訴えられない傾向があるからだなどという凄い結論が出ていたりする。

女学校の卒業生の追跡調査も生々しい。こちらでも女学生の美醜を複数の人間が見て5段階にレイティングした後、10年後の結婚状況を調べた。すると最も美人と最も不美人の層が結婚できていたのである。

「容貌5段階の最上五点のものと最下点一点のものとは全部結婚して結婚率100%である。然るに中間の四点及び三点のところでは結婚率50%......二点のところでは僅かに20%。」という結果になった。これは美人は早く結婚できて当然だが、最も不美人な層は容貌に自惚れがなく結婚申し込みがあれば喜んで応じたためだろうと解釈されている。

客観的な意味で美人、不美人は多数の評価を平均すれば厳然とあるものだろうし、その条件が女性の個人の人生に極めて大きな影響を及ぼすことも事実だろう。タブーにしないで、もっと研究する価値のあるテーマであるように思える。

このほか美人を巡るテーマは多彩。雑誌連載ベースのソフトな読み物。

・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html

・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-482.html

・刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-807.html

・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html

・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html