Books-Sociology: 2007年11月アーカイブ

・反転―闇社会の守護神と呼ばれて
41H1Lf1ld2L._AA240_.jpg

苦学して成った特捜の検事から、政財界と裏社会の守護神弁護士への転身、自家用ヘリ(7億円)で故郷へ凱旋し湯水のごとくカネをばらまいたバブル時代の華麗な生活、そして裏社会との濃すぎるつながりは古巣の特捜部ににらまれ、逮捕と実刑判決をくらう。著者の体験した劇的な反転人生を語った自伝。

古巣の体制の腐敗を暴露し日本社会の闇を暴く内容として、佐藤優の名著「国家の罠」に匹敵する大傑作である。

依頼人や交友関係として出てくる人物の名前が凄い。許永中、中岡信栄、末野謙一、卓見勝、阿部新太郎、佐川清、伊藤寿永光、竹下登、阿部新太郎、高橋治則、小谷光浩、渡辺芳則、山口敏夫.......。あの筋、この筋よくここまでつながったものだと関心するが著者いわく「この国は、エスタブリッシュメントとアウトローの双方が見えない部分で絡み合い、動いている」から、こうなったそうである。

権力ににらまれて詐欺罪で立件されての転落は、ポリシーをもって仕事をしてきた結果であると一貫して主張している。弁護士は犯罪者の弁護をすることが仕事であり、自身にやましい部分はないといって現在も上告中である。かつて佐藤優は自分の逮捕は国策捜査だと反論したが、検事出身の著者はこう達観している。

「最近、「国策捜査」という検察批判がよくなされるが、そもそも基本的に検察の捜査方針はすべて国策によるものである。換言すれば、現体制との混乱を避け、ときの権力構造を維持するための捜査ともいえる。だから平和相銀事件や三菱重工CB事件のような中途半端な結末に終わることが多い。本格的に捜査に突入すれば、自民党政権や中曽根派が崩壊したり、日本のトップ企業である三菱重工が傷を負う恐れのあるような事件は、極端に嫌う」。

そこで表も裏もないパワーゲームの世界では中途半端な悪はつぶされるが、勝ち組権力と結びついた巨悪は栄えるという現実を見ることになる。著者はこのゲームに負けた敗軍の将という立場で読者に語りかけている。

検察エリート街道の華々しさ、闇に暗躍したフィクサーたちの素顔、バブル紳士たちの豪遊ぶり、裏社会のトップたちの壮絶な生き様など、まず普通の人生を歩んでいる限りでは、知ることがない世界を生々しい記述で読むことができるのが魅力である。文章もうまいので文字通り私にとって徹夜本になってしまった。

「国家の罠」のファンには特におすすめである。

・国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004269.html

・ステータス症候群―社会格差という病
51nhXqbsJaL._AA240_.jpg

これは抜群に面白い社会学研究。

世界中で社会格差と人々の健康には明らかな相関があることがデータで示されている。貧しい階層よりもお金持ちの階層のほうが病気をせずに長生きする。両極の中間層では階層があがるにつれて確実に健康状態がよくなっていく勾配が見られる。さらに学歴や社会的地位や身長で人々を比べてもほぼ同様の結果になる。高いほど健康なのだ。これがステータス症候群である。

なぜ社会格差は健康格差につながるのかがこの本のテーマである。

所得と健康の関係は一見、当たり前のようにみえる。健康ならば働けるので高所得になりやすい。お金があればよい生活ができて医者にもかかれるから、なおさら健康になる。逆に不健康ならば働くことができず、一層貧しくなる。医者にもかかれないから健康は悪化する。そういうことなのではないか?。実は問題はそう簡単ではなかった。

著者は長年にわたってステータス症候群を研究してきた第一人者。20年に及ぶ英国公務員を対象とする「ホワイトホール研究」などの実績で知られる英国政府のアドバイザ。公務員はヒエラルキーが明確なので分析しやすい対象なのだ。そこで明らかにされた健康格差はシビアなものだった。40-64歳の男性では、職場の階層構造の底辺にいる人は、同じ階層のトップにいる人の4倍も死亡率が高かった。

だがこれは英国の公務員だけの話ではないのだ。私たちの社会の、おどろくほど広範にわたって、階層が上の人と下の人では死亡率がちがうことを示す事例が多数紹介されている。階層が上の人ほど明らかに長生きでき、下の人は癌や心臓病で死にやすいという、厳しい現実が隠れていた。

国際比較をしてみると米国の平均寿命はイスラエル、ギリシア、マルタ、ニュージーランドよりも短い。平均所得では米国はそれらの国よりもずっと上にあるにもかかわらずだ。よく考えてみると、普通の生活ができる以上の所得増が、必ずしも健康改善に直結するとは思えない。すべての階層でまっすぐ上昇する健康度の勾配の原因は、所得の絶対額が問題ではないことがわかる。

著者は科学的な調査の結果、社会階層における相対的地位が健康にとって最も重要な要素であるという事実を発見する。相対的な社会的地位は、自尊心や幸福感に強く影響し、ストレスの量も左右する。「自分自身の人生全般をコントロールできるという意味での自律性があることと、有意義な社会参加への機会があること」が、健康に顕著な影響を与えていると結論する。その改善に必要な施策も提言している。

めずらしく意味のある格差を扱った本と出会った。読み応えたっぷりの内容。