Books-Sociology: 2005年3月アーカイブ

・権威主義の正体
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■過度に単純な認知スタイルが権威主義的人格の正体

権威と権威主義は異なるもので社会心理学の定義としては「権威主義とは必ず悪いもの」だとし、その正体を解明する。とても面白い。この先生はそれにしても面白い本が多いなと思ったりするが、そういう気持ちも「属人的」評価で権威主義の一種らしい。

著者は「権威主義的人格とは、複雑な事柄を単純に認知しようとする認知スタイルの個人差から派生している」と述べている。権威主義的人格の行動には「あいまいさへの低耐性」「反応の硬さ」という特徴があるそうだ。物事を多面的、多元的に考えてそのまま受け止めることができない、弱い人間が権威主義に陥る。

状況次第で誰でも権威主義に陥る傾向があることも解明されている。この本では、
・アッシュの同調実験 「どちらの線が長い?」と尋ねる
 サクラの意見に影響されて自分の信念が変わってしまう人が続出した

・ジンバルドの監獄実験 「あなたは看守、あなたは囚人」状況
 役割を与えられた看守役は、囚人役に対して驚くほど残忍に振舞った

・ミルグラムの服従実験 「間違ったら回答者に罰を与えなさい」命令
 命令に従い激しい電気ショックを他人に与え続ける人が多数

など、有名な社会心理科学の実験が紹介される。

権威主義的な人格には服従、同調、同一視という行動特性があるということがわかる。

権威主義の正体は、第2次大戦時のドイツのホロコーストの原因探しという目的で、活発に研究されてきた。ドイツのユダヤ系哲学者で社会学者のアドルノの分類によると、権威主義者は以下の7タイプがあるという。

教条主義的人格 
ファシスト傾向 
因習主義的人格 
反ユダヤ主義 
自己民族中心主義 
右翼的権威主義 
形式主義 

著者はこうした権威主義とタイプは、現代社会、企業組織の中にもはびこっていると次々に実例を挙げてみせる。各タイプの典型的な発言や行動がとても具体的で、「いるなあ、そういう人」と知人の顔を思い浮かべたりしてニヤニヤしていると、次は自分のことを指摘されたのではないかとギクっとするような事例が出ていたりする。誰もが権威主義的な面を持っているのだ。

■権威主義的な本選び

ところで自分を振り返ってみて実に権威主義的だなあと思うのは本の選び方。大抵、本屋の店頭で数冊まとめ買いするのだが、タイトルと目次に満足したら、最終判断は著者プロフィールである。それが有名大学の年配の教授だったりすると即決。マスメディアで活躍している人物、有名企業の役員の本も買いやすい。”ガイジン”の翻訳モノにも弱い傾向がある。

実際に読んでみるとエライ、有名な先生の本が必ずしも優れているわけではないことは、このブログの書評歴でも明らかである。しかし、逆も事実である。無名の著者が小さな出版社で出した本のハズレ率も結構高いのだ。本を読むにはお金や時間のコストがかかる。失敗を避けるために、便宜的に、権威主義的な選択をしてしまう。たぶん、本屋で手に取りながら、棚に戻してしまった隠れた名著もいっぱいあるのだろうなと思う。

もうひとつ別の理由もある。本で得た知識を話す場合、「有名な○○先生が言うには...」で始められると知識の使い勝手が良い。これは相手の権威主義を利用して、自分の説を通す権威主義的な行動だ。この本では悪いこととされているが、ビジネスの現場ではすべてを説明する時間もないわけで、どうしてもやりがちである。

では、どうしたら無名の著者の良い本を探し当てることができるのか?。

最近ではGoogleやライブドア未来検索で書名を検索してみるとうまくいくことがあるなと感じている。検索結果一覧でざっと概要を見るといろいろな立場からの評価が分かることがある。つまりこれも、この本が言うように、多元的に見ることが権威主義の解体につながるということ。

だったりして。

と非権威主義的に書評を終わる。