Books-Sociology: 2004年1月アーカイブ
1999年の本。でも、本質は今もほとんど変っていない気がする。
この本は現代日本をVIS社会と定義している。VISとは、多様化(Variety-Orientation)」「情報化(Information-Orientation)」「社会の変化の速さ(SocialSpeed-Orientation)」の頭文字をとったもの。このプロジェクトでは、VIS化の進んだ高度情報化社会で影響力を持つ層を情報イノベーターと定義した。そして、この新しいオピニオンリーダー層の全貌を明らかにすべく長期間の調査を字視した。
この本は少し古く1999年の出版なので、インターネットは先端的で情報感度の高い層の使うものと想定されていたため、調査対象はネットユーザとなった。YAHOO!JAPANを使った大規模なアンケートとグループインタビュー手法により、情報イノベーターの姿を浮き彫りになる。調査手順を追ったドキュメンタリ風の調査レポートである。
情報イノベーターの度合いを測る指標は3つ定義された。「ネットワーク人間尺度」「情報機器利用尺度」「メディア情報接触尺度」。情報機器を自在に使いこなし、多様なメディアから情報を大量に吸収し、ネットワークの中で積極的にコミュニケーションを行いながら、共に新しいものを創りだしていく(イノベーション)。それができるのが、「情報イノベーター」という説明である。
調査が進むにつれ、情報イノベーターのプロフィールや、行動特性が明らかになって行く。社会性や興味の広さによって、情報イノベーターと「おたく」の分類。イノベーターの中にも5つのタイプがあるとラベル分け。情報イノベーターの消費行動や政治行動や接触メディアの種類と度合い調べ。などなど、どれも興味深い視点の分析と分かりやすい説明が続く。企業は消費者や社員の中の情報イノベーターをどう活用して利益を産むことができるか、の提言もある。
調査から5年が経過したせいもあるのだが、情報イノベーターの姿に予想外の要素は少なかった。調査者も実施時から大枠、結論は想定していたのではないか。ただ、それを実際の調査の数字とグループインタビュー結果で、定量的、定性的に裏づけたことが、この本の価値だと読み終わって感じた。マーケティング会議で使えるデータで一杯の本だ。
読みながら考えたこと。情報イノベーターこそ重要で目指すべきものという考え方がこの本には感じられる。しかし、全員がリーダーである組織や社会はないだろう。リーダーだけでは世の中が動かない。そもそも、リーダーとフォローワーの比率は、いわゆる歴史の方程式=べき乗則に従い、どの時代も不変であるはずと思う。
情報イノベーターの中にも「スーパーイノベーター」がいて、この数は情報イノベーターの20%であり、全消費者の2,3%だそうである。
皆が皆、情報感度が異様に高く、話し好きで、情報機器のエキスパートという社会も不気味である。皆がそれを目指す社会も疲れそうだ。不健康な社会で健康志向が流行るのと同じ気がしてくる。
むしろ、大切なのは軽視されがちな「フォローワー」が、満足しながら能力を発揮し、イノベーターを賢く利用して生活レベルを高めていくか、の方の気がしてならない。フォローワーがいないとリーダーがそもそも存在しえない。次は、リーダーとフォローワーの二つの視点の調査をこのプロジェクトでやってほしいなと思った。フォローワーに積極的なネーミング、ラベリングをしたら、流行るキーワードに、なったりしないだろうか。