Books-Science: 2012年10月アーカイブ
粘菌を出口に餌を置いた迷路に閉じ込めると、最短距離に近いコースで出口にいたる。繰り返すと学習する。迷いもする。単純な細胞でしかない粘菌が「司令官はなし、各人自律的に動くのみ」という自律分散モデルによって知性を持っているかのようにふるまう。
たくさんある選択肢からどの選択をすべきか。組み合わせ数爆発を招く複雑な問題に対して、生物はすべての可能性を計算して比較するわけにはいかないから、大雑把ではあるがすばやく答えを導く「フィザルムソルバー」という解法モデルをとっていると著者は指摘する。
粘菌の周りに複数の餌場を置くと、粘菌は分裂しながら移動していき、ついには複数の餌場間をつないでしまう。この粘菌が餌探しをする移動経路の評価には3つの指標があり
1 もっとも短いルートを選ぶ最短性= コスト(経済性)
2 すべての2点間の平均距離 = 効率
3 一か所が分断されてもまだつながっている連結保障性 = 保険
であるが、このうち、1のコストと2の保険を同時に最適化かしようとする「多目的最適化」であることを研究者たちは発見している。JRの鉄道ネットワークも粘菌と同じ多目的最適化パターンだそうである。そして単純な粘菌細胞は細胞内の化学反応に内在する濃度の振動を化学的な振り子として使って同期しているという仮説で、粘菌の知性的な動きを説明する。
知性ってなんだろうなと考えさせられる。人類を圧倒的に上回る高次元の知性を持つ宇宙人が、地球を観察した場合、その表面で勢力を拡大している人類の動きも、粘菌みたいに見えるはずである。脳という器官や欲望という機構が発達していて、部分的には我々と似たところもあって下等生物なのにたいしたもんだ、なんて言われているかもしれない。