Books-Science: 2010年3月アーカイブ
現代のタブーに真っ向勝負。
『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『ビッグバン宇宙論』を著した現代最高の科学ライター サイモン・シンが、次はどんな定理に挑むかと思ったら、意表をついて「代替医療」を斬る本を出してきた。ドイツの代替医療研究の大学教授と組んでの共著。翻訳はサイモン・シンの名訳を生み続けてきた青木薫氏。
まだ「代替医療」という言葉が一般にわかりにくい気がするのだけれど、要は、鍼、ホメオパシー、カイロプラティック、ハーブ治療などを指す。代替医療のほとんどは科学的にはインチキで治療効果はまったくないという事実を科学的に明らかにした本だ。それらを職業や商売にしている人たち(国内でも何十万人もいるだろう)に死刑宣告をしたようなもので、かなりヤバイ本かもしれない。今後、論争が起きそうだ。
やり玉に挙げられるのは、ホメオパシー、鍼、カイロプラティック、ハーブ療法、アロマセラピー、イヤーキャンドル、オステオパシー、結腸洗浄、指圧、スピリチュアル・ヒーリング、デトックス、伝統中国医学、ヒル療法、マグネットセラピー、マッサージ療法、瞑想、リフレクソロジーなど30種類以上。それぞれに科学的な根拠の有無が明らかにされる。わずかに効果を認められたものもあるが、著者らの結論では、ほとんどが科学的には"アウト"だ。
「人びとが代替医療に心惹かれるきっかけは、多くの代替医療の基礎となっている三つの中心原理であることが多い。代替医療は、「自然」で、「伝統的」で、「全体論的」な医療へのアプローチだといわれる。代替医療を擁護する人たちは、代替医療を選択する大きな理由としてこれら三つの中心原理を繰り返し挙げるが、実は良くできたマーケティング戦略にすぎないことが容易に示される。」
自然、伝統的、全体論的であること自体には何の意味もないのに、そう書いてあると人は騙される。
確かに鍼やカイロや指圧で病気が治る人はいる。治療行為や薬に効果はなくても、心理的な効果=プラセボ効果が伴うからだ。しかしプラセボ効果は科学的な医療にも伴うわけで、代替医療の専売特許ではない。代替医療には科学的な医療と比較して多くの危険性があるし、代替医療に切り替えた結果、通常の医療を受けない患者が出てくる。プラセボ効果のみの代替医療では、多くの患者の病気は悪化していくのみである。だから代替医療の酷い実態を世の中に広く知らしめなければならないという使命感で著者らはこの本を書いている。
なぜ人は信じてしまうのか、なぜ効果があるように見えるのか、なぜ代替医療に注意すべきなのか?。サイモン・シンは本書でも、数学の証明の本のときのように、極めて論理的で明解な説明をしている。現代人の多くが多少は代替医療の情報に騙されている。代替医療にかかるのは個人の自由だが、前提として多くの国民が科学的な根拠の有無を知っておくべきだろう。
というわけで、かなり説得力のある本なのだが、代替医療側から論理的な反論の書が出てきたら面白くなるなあ。
・ビッグバン宇宙論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-412.html
・フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/01/post-340.html
・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html
・フィールド情報学入門 ―自然観察,社会参加,イノベーションのための情報学
「本書では、フィールドを「分析的、工学的アプローチが困難で、統制できず、多様なものが共存並立し、予測できない偶発的な出来事が生起し、常に関与することが求められる場(片井 修)と定義する。フィールド情報学はこうしたフィールドで用いられる起源の異なるさまざまな方法を、記述、予測、伝達という情報の視点から集約することを目指している。本書はフィールド情報学を志す初めての教科書である。」
社会科科学のアプローチを使って情報学的に、社会や自然というフィールドを科学する。
・リモートセンシングや地理情報システムで、広域から人々の行動情報を集める
・バイオロギングによって生物の活動を長期的に記録する
・社会をシステムダイナミックスとして記述する
・マルチエージェントシミュレーション
・参加型の観察による分析 エスノグラフィー
など、社会や自然をどう情報としてとらえていくかの研究が多数紹介されています。
ところで私の会社は先週、こんな研究成果のビジネス化の発表をしました。
・Twitter上の「つぶやき」や「プロフィール」からオピニオンリーダーを検知する 『Twitterオピニオンレーダー』を開始
http://www.datasection.co.jp/news/twitter_20100304.pdf
・Twitter上のオピニオンリーダー分析サービス、データセクションが発売(日経ネットマーケティング)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmg/20100304/213157/?ST=nmg_page
今年の私の会社としては、従来の統計と自然言語処理による定量的な分析から、定性的で創造的な「デジタルエスノグラフィー」に取り組むのがテーマです。具体的にはブログやツイッターを分析して、商品開発やプロモーション企画に活かすためのコンサルティングソリューションを展開しています。
こういったテーマに関しての論者として3月9日(火)
情報処理学会創立50周年記念(第72回)全国大会 フィールド情報学セミナー
http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/taikai/72kai/event/17.html
フィールド情報学とは?
http://www.ai.soc.i.kyoto-u.ac.jp/field/
にパネルとして出演することになりました。
橋本 大也(データセクション株式会社 取締役会長)
【パネルにおけるポジション】
データセクションではBlogosphere(ブログ生態系)というフィールドから、データを大規模に収集し、書き手の行動パターンやプロファイルを分析するビジネスインテリジェンスシステムを開発した。日々の書き込みを深く読むことで、消費者のマイクロトレンドを発見したり、オピニオンリーダーの行動を予測することができる。大手広告代理店と連携した"流行創出"事業、保険会社と共同で上場企業の風評リスクを早期に察知する"風評リスク事業"など、フィールド情報分析の事業化に取り組んでいる。
略 歴 1970年生まれ。起業家。データセクション株式会社取締役会長。大学時代にインターネットの可能性に目覚め技術ベンチャーを創業。主な著書に『情報力』『情報考学--WEB時代の羅針盤213冊』『新・データベースメディア戦略。』『アクセスを増やすホームページ革命術』等。(株)早稲田情報技術研究所取締役、(株)日本技芸
取締役、株式会社メタキャスト 取締役、デジタルハリウッド大学准教授、多摩大学大学院経営情報学研究科客員教授等を兼任。
フィールド情報学セミナーではビジネスにおける事例や展望をご紹介する予定です。