Books-Science: 2009年5月アーカイブ
気鋭の女性科学ジャーナリストによる性科学の最先端レポート。読み応えあり。
テクノロジーで人間のセックスを探究する真面目な科学者達の話だが、実験観察の現場を想像すると可笑しくなる。
「"ドライ・ペニス・スキャン"では、被験者はベッドにうつぶせになり、別途に開いた穴から人工ヴァギナにペニスを挿入します。"ヴァギナ"は(人体に無害な)澱粉のゲルでできています」。
他にも登場する科学者は、セックスしている男女をMRI装置に入れて性器の状態を調べるとか、膣にペニス型カメラを挿入する。形状の異なる男性器と女性器を使い「男性器の亀頭の張り出しは自分の精液を放出する前にライバルの精液を掻き出すためにある」ことを証明する。男性被験者の禁欲的協力で精子は5日ごとに"在庫一掃"が望ましい(1週間で劣化する。毎日では薄くなる)ことがわかったり。
だがそうした苦労の甲斐あってさまざまな事実が判明する。
イカせやすい女性とそうでない女性がいるという研究がある。膣口とクリトリスの距離が近いと男性のピストン運動から快楽が得られやすく、遠いと得られにくいことが実験調査で分かった。身長と外陰部各部位の距離は相関があるので、背の高い女性は「イカせにくい」ことになるらしい。
古典的なパブロフ型条件付けで「ブーツフェチ」を誕生させることに成功した話も凄い。男性の性的嗜好はつくることができるという話だ。
「五人の男性にペニス外径測定装置を着けてもらい、ヌードの女性や挑発的な衣装を次々と見せる合間に、ファーの内張りのついた膝丈の婦人物ブーツの写真も見せた。結果は上場だった。五人の内三人のペニスは、ブーツの写真を目にしただけで、女性の写真を見たときと同じように怒張したのだ。」
ちなみに女性の性器は性行為の映像全般に無差別に反応するが、男性の性器は自分の性的嗜好や興味に沿った映像にのみ反応するそうである。オタクは男性に多いが、性的な部分でも男性はマニアックにできているのだ。
他にも著者が取材した研究事例は、バイアグラの効用や処方箋が必要なバイブレーターの開発、オーガズムの正体の探究、自慰など幅広い。性のあらゆる側面に対する科学的アプローチを紹介している。
定期的オーガズムの経験が寿命を延ばすのだという。週に二度オーガズムを味わう男は一ヶ月に一度の男よりも10年以内死亡率が50%低いそうだ。生命を生むだけでなく死なないためにも性の科学は重要なのである。
・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html
・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html
・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html
・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html
・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html
・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html
・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html
・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html
・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html
・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html