Books-Science: 2009年2月アーカイブ
このドラマは何度かみて注目していたのだが、こんな本が出ていたのだな。
・天才数学者の事件ファイル
http://tv.foxjapan.com/fox/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/8
シーズン2を放送中
海外人気ドラマ 「NUMB3RS:天才数学者の事件ファイル」は天才数学者がその知識を使って兄のFBI捜査官を助けて難事件を次々に解決していくという内容。この本はそのドラマの各話に登場する最新数学の手法を一般向けにわかりやすく解説している。
たとえば第1話では連続する複数の事件の発生場所をプロットし、その座標をある数式で分析することで、犯人の住処を特定した。ドラマの内容の総括の後、こうした地理的プロファイリング手法は現実の犯罪捜査でも効果を発揮しているという話が事例を挙げて紹介される。
データマイニング、ニューラルネット、変化点検出、ベイズ理論、暗号理論、ゲーム理論、指紋とDNA、画像解析などたくさんの数学的な分析手法が取り上げられている。ドラマでは簡略化されたり誇張された部分も、現実にはどの程度まで実現されているかがよくわかる。
大量の過去データを分析して変化の予兆を発見する「変化点検出」が個人的には一番興味を持った。たとえば野球の試合データを「シルヤエフ・ロバーツ変化点検出方式」で分析すると、選手のドーピングがわかるなどという話。
「選手が能力向上ドラッグを使いはじめた時期がわかるのだ。野球史上でステロイド剤を使っていた選手の成績や行動を慎重に調べることで、キットナーはステロイド剤を使っていた選手の成績や行動を慎重に調べることで、キットナーはステロイド利用の指標として使える統計がどれかを見極めたのだった。───長打数、攻撃的なプレー(死球など)、かんしゃく(口論、退場処分など)だ。そして数学的な監視システムを作って興味ある選手すべてに関する詳細な統計を見張り、だれかがステロイド剤を使っているかどうか、世間に知られるずっと前に信頼できる形で判定できる。」
薬物疑惑がある日本の相撲やオリンピックでもやったらどうだろうか。発見に成功したら話題になりそうだ(少なくともブログネタにはなるだろう、笑)。変化点検出の現実問題への応用は次のような分野に適用されているという。数学者とビジネスマンの接点には大きなビジネスチャンスがありそうだ。ITビジネスマンにおすすめ。
・医療モニタリング
・軍での利用(通信チャンネルの監視)
・環境保護
・電子観察システム
・犯罪活動容疑の監視
・公衆衛生監視(たとえばバイオテロ防衛)
・テロ防止
どれも人間には監視できないような圧倒的大量のデータの中に隠れた相関を発見して重大なカタストロフを事前に予測するものだ。そして数学者はこうした変化点の検出方法を発明するだけでなく、同時にその限界も数学的に証明したりしている。コンピュータが神の如くすべてを予見できる日は論理的に来ないようで、ほっとする。
巻末の訳者(代表は山形浩生氏)によるあとがきは、単なる訳者の立場を超えた本書の評論であり参考情報もたっぷりで、翻訳本に付加価値を高めている。