Books-Science: 2006年7月アーカイブ

・生命 最初の30億年―地球に刻まれた進化の足跡
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5億年前のカンブリア紀の進化の大爆発以後を取り上げた生命史の本は数多いが、この本は生命発生からカンブリア紀までの30億年間を取り上げている。哺乳類も恐竜もまだ誕生していない。酸素も十分にない古代の地球の海で、生命が初めて発生した瞬間を追うのが前半の主なテーマ。

著者は古生物学の大物。数十億年前の地層に、微生物の痕跡を見つけては研究している。
無生物から生物がいかに生まれたか。つまり、自然界のエネルギーで単純な分子が結合を繰り返し、複雑な化合物をつくり、ついには自己複製が可能になるシステムを生み出すにはどのような条件が必要であったか、を著者は岩石を顕微鏡で観察することで探るのである。


ここでわれわれは物理的なプロセスで形成できるほど単純でありながら、命ある細胞への進化の土台となる程度には複雑な分子群について考える必要がある。そのような分子には、みずからを複製でき、またいずれは複製の効率を上げる触媒化合物の合成を命じられるだけの情報や構造が備わっていただろう。さらにこの分子は、成長に必要な分子を周囲の環境から取り込むのではなくみずから合成し、化学エネルギーや太陽エネルギーを細胞の活動の燃料にくべ、生命誕生の物理的なプロセスから脱却して進化をたどれるようにした。」

著者はDNAとたんぱく質の間で情報を仲介するRNAが重要な役割を果たした分子なのではないかと考えている。RNAは、現在はDNAの情報転写のメッセンジャーとして脇役的に理解されているが、単体でも情報を蓄え、自己複製することがわかっている。RNAが生命起源なのだとすれば、それを生み出した原始地球の環境はどのようなものであったのか。最新の地質学の知識を使って、生命誕生の瞬間(といっても数百万年、数千万年の期間らしい)が描かれる。

過去の地球に大規模な氷河期と大量絶滅があったとする「スノーボールアース」説や、隕石や火星探査による生命起源の宇宙由来説など、最新の仮説も検討される。最初の30億年は最近の5億年よりも謎に満ちている。無生物から生物が生まれるという過程を科学者の言葉で説明する良書。

・眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004466.html

・へんないきもの
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002635.html

・生物多様性という名の革命
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004501.html

・数学と論理をめぐる不思議な冒険
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論理、無限、確率という数学的思考をめぐるエッセイ集。語られる内容は硬いが、各章が著者の体験の回想だったり、歴史上の数学者の物語風になっていたりと、読み物として読みやすくする工夫がされている。

第一部では「論理的に証明されて正しいことがわかる」という数学の常識について検討している。論理的に証明することと、正しいとわかることは別物である。論理的な証明がなくても正しいと感じることはできる。逆に、想像しがたくても論理的にはありえる体系をつくることができる。では論理的に納得する、正しいと信じるとはどういうことか、をテーマに著者の体験談や古今の哲学者、数学者の思考が、物語的に次々に語られる。ある論理体系は、別の論理体系より、より正しいというのではなくて、世界を理解するために、より便利だから選択されているという考え方もできる。

こんな風に数学についての概念を、ときに哲学的に著者は考察を重ねていく。ユークリッドからゲーデルまで、古今東西の天才数学者や科学者たちの物語もたっぷり織り込まれている。

個人的には医師アンドルー・ワイルの「四つ葉のクローバー探しの名人女性」の話が面白いと思った。アンドルー自身は四つ葉のクローバーをいくら探しても見つけられない。だがこの女性は常に見つける。「この人はクローバーがあるところには、必ず四つ葉のがあってそれが見つかるのを待っていると信じている。見つかるのには、そのことが鍵だということを悟った。そう信じると見つかる可能性が出てくる。そう信じていなければ可能性はない。」。

証明が真かどうかを証明する前から、それが真だと信じていることが、証明を成功させる可能性につながっている。疑うことが大切というだけではなくて、むしろ信じるということが科学者の創造性の源にある。

・ビッグバン宇宙論 (上)
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・ビッグバン宇宙論 (下)
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世界最高のサイエンスライター、サイモン・シンの邦訳最新刊。

・フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004192.html

・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html

上記2冊に次ぐ3冊目である。訳者も同じ青木 薫。前2作はウルトラ級の傑作であり、科学の本なのに目頭が熱くなる体験をした。知識と感動の科学本を生み出すコンビであるから、期待は高まる。予約して発売日に入手した。

世界の神話や聖書の宇宙創造物語から始まって、天動説と地動説、コペルニクスとガリレオ、ニュートンとアインシュタイン、ビッグバン宇宙と静的な宇宙、ビッグバン宇宙と定常宇宙など、ビッグバン宇宙論が科学の世界で確立されるまでの長い歴史を丁寧に追っていく。人間ドラマと学説のわかりやすいサマリーがあるので、難解なテーマも易しく読める。

ビッグバンをめぐる最大の議論は、

「宇宙は過去のある時点で創造されたのか、それとも、永遠の過去から存在していたのか?」

ということであった。始まりがあったということを証明するためには20世紀をまるごと必要とした。宇宙の始まりを証明するという途方もない仕事が、いかにして為されたかを知るためには、アインシュタインの相対性理論その他の理解が必要になる。上巻は20世紀の物理学を振り返り、ビッグバン大論争の理解の準備にあてられている。

この本が扱うのはCMB背景放射の発見(1960年代)と、放射の微小なゆらぎの発見(1992)によって、ビッグバン・モデルが大枠として正しいと確定されるところで終わっている。それ以降の最新理論は出てこない。また科学史や宇宙論が好きな人にとっては、既知の事柄が多いため、フェルマーや暗号のときのようなドキドキは少ない。

あとがきでも訳者が、この本を評して、「エース投手」による「直球ど真ん中」で「王道」の切り口の本と書いている。難解な事柄が絶妙に要約され、わかりやすく頭に入ってきて整理される感覚は相変わらず。宇宙論の入門として傑作であると思う。

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての“超ひも理論”―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html