Books-Religion: 2006年10月アーカイブ
映画「アルタード・ステーツ 未知への挑戦」「イルカの日」のモデルになった異端の科学者ジョン・C・リリイ博士の自伝。医学、精神分析学、物理学、生物学を横断して、意識を探究した。いわゆるマッドサイエンティストの典型とされる。
博士はLSDを服用し、あらゆる外部刺激を遮断する隔離タンクに入る。意識が変容する。
「
LSDを服用し、タンクの中に入ると、肉体や、そのなかにあるこころが、知覚できないほど大きくなっていくのを感じた。彼は、その「存在」となった。仲間の「存在」たちと一緒だった。それぞれの「存在」は、宇宙の大きさに等しく、果てしのないネットワークを形成していた。彼が化身した「存在」は少年時代に出会った守護天使とどこか似ていた。」
そして、地球外の高次知性体からのテレパシーを受信する。宇宙には人類の味方であるECCOと、人類を支配しようとするSSIのふたつのグループがいると博士は語る。意識の覚醒レベルを指標化し、最高レベルへあがって、至高のビジョンを見る。
「
ぼくは音楽を聞きながら、天上に昇っていった。ぼくは高い神座に座っている、巨大で、聡明な、いにしえの神を見た。彼は、天使たちのコーラスに囲まれていた。天国でぼくは宗教的恍惚に満たされながら、神を讃え、賢者たちを讃えた。
」
同時にイルカとの異種間コミュニケーションにも熱心に取り組んだ。イルカの発する超音波と人間の音声を可聴音に相互に変換する装置を使って、イルカとことばで会話する。センセーショナルな研究内容と、精神世界の新しい解釈はメディアに取り上げられて、博士は時の人になる。イルカの軍事利用をもくろむ政府や、カルト宗教グループが博士と接近する。
「
解釈や理論は、まさしく、宇宙やこころに対する信念であることに、リリイは気づいていた。特定の信念は、真実であるかもしれないし、真実ではないかもしれない。しかし、その特定の信念は、間違いなく、実験者が体験できることを制限してしまう。
」
博士にとって通常の科学なんてどうでもいいことだったのかもしれない。内的リアリティを重視し、変性意識状態での幻覚に真理を見出そうとしている。富豪の父親の遺産もあったため、私欲はなく、純粋に研究に没頭する。その求道者のオーラが周囲をひきつけた。幾度も結婚して離婚する。大物の科学者や思想家が親交を求めた。
数々の伝説を築き上げて博士は2001年に他界。この小説は75歳までの孤高の生涯を丁寧に追っている。理解されようがされまいが、やりたいことをやりたいようにやる、かなり幸せな人だったのではないかと思われる。
科学と非科学の境界に興味のある人におすすめ。