Books-Religion: 2004年12月アーカイブ

・フィールド 響き合う生命・意識・宇宙
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よく売れているようで気になったので読んだ。一応トンデモ本と認定。でも、よく書けていて楽しめたので紹介。欧米ではベストセラーであるとのこと。

■ゼロポイントフィールド(ZPF)で万物はつながっている

この本の中心テーマであるゼロポイントフィールド(ZPF)とは量子力学レベルにある「モノとモノのあいだの空間における微細な振動の海」のこと。著者はあらゆる存在は、時空を超えてZPFでつながっている、とする。

量子世界では最小単位の粒子は確率論的な振る舞いをする。通常のニュートン力学世界では、コインを投げれば表が出るか、裏が出るか、どちらか一方の状態しかとりえないのに対して、量子力学の世界では、コインは表であると同時に裏であることができる。人間が観測したときに状態が確定する。この微細なレベルではその観測行為が結果に影響を及ぼすため、観測する前の状態は2分の1が表であり裏であると考えるのが正しいことになる。

確率論的な存在であるということは、すべての状態が同時に存在しているということだ。聖書のヨハネ黙示録でキリスト教の神は「私はアルファでありオメガである」と言った。神は人間が考えうる限りのすべてであるという意味だろう。この存在の仕方は量子世界の存在の仕方に似ている。私たちの日常感覚とは違った存在の仕方が、原子より下のミクロのレベルには隠れている。

ここまでは量子力学の常識で十分に科学なのだが、ここからこの本は独自の理論に飛躍していく。著者は、確率論的振る舞いの意味を拡大して、過去に起きたことも未来に起きうることも、すべての情報がZPFの中にあるということだと解釈している。そして量子真空であるZPFはエネルギー的にはゼロであるが、量子世界のゆらぎによって、内部では粒子の生成と消滅がくりかえされる。その運動は波動を持つ。波動は共鳴効果を生み、万物がその共鳴でつながっているというのである。

私たちの身体もすべての物質も、根源的には量子力学レベルの微細な粒子が織り成す原子で構成されている。意識もまた原子でできた脳細胞のはたらきだから、ZPFとつながっていることにされる。こうして精神世界と物質世界のすべてが、ZPFという超越的空間の粒子の振る舞いの産物だということになる。

■ホメオパシー、乱数実験、遠隔透視

さあ、すべてがつながってしまった。イエール、スタンフォード、バークレー、プリンストン、MIT。世界の一流研究機関やノーベル賞受賞の科学者たちが実名で登場し、彼らの研究や実験が、ZPFの正当性の根拠として、次々にならべられていく。どれも常識を覆す話ばかりで、ファンタジーとしては楽しめる。

いくつかを以下に紹介する。

【ホメオパシーと水の記憶】

ホメオパシー治療は科学的には実証されていないが、比較的知られた代替医療のひとつである。ホメオパシーとは病気や痛みの原因となる物質を、希釈して、極めて少量だけ投与すると、逆に病気や痛みが治癒するという未解明の理論にもとづく。

物質を薄めるには水を使う。奇妙なのは、原因物質の分子が理論的にはひとつも観測できなくなるレベルまで、大量の水で希釈しても、その効果が持続してしまう現象の報告である。科学者パンヴェニストの理論によると、分子は遠く離れても固有の周波数の振動で共鳴するという。英国の生物学者ルパード・シェルドレイクの形態形成場、形態共鳴も似た理論である。同じ形態の分子は共鳴現象を通じて、地球の裏側であろうと何万光年先の宇宙であろうと、影響しあっているという。

だから、原因物質を大量の水で希釈すると、組成的には単なる水であっても、以前混入していた物質の波動は残っている。それを飲んだ患者は痛みや病気が治癒する。実験の報告では、プラシーボ効果の可能性は排除した結果であるとされている。

【意識が現実に影響する】

プリンストン大学の変則現象研究(PEAR)の研究はこの本に何度も引用される。乱数発生装置をつくり、0から1までのランダムな数を大量に発生させる。その間、被験者は、0よりも1に近い高い数値が出るように念じる。そして何千回、何万回の乱数発生の記録を分析する。

当然、結果はグラフにプロットすれば、中央値を頂点とする正規分布曲線が描かれるはずである。だが、この実験結果の偏差は微妙にずれている。1または0に近い数字がでる期待値はどちらも50%のはずが、どちらかが51%に近い数字になってしまう。12年間、250万回の乱数発生実験を総合すると、52%という報告もある。被験者によっては狙ったのと逆に偏る傾向もあるそうだ。これは乱数発生器の回路に、ZPFを通じて、意識が作用した結果だと説明される。

【FBIやソ連が研究した遠隔透視】

互いに連絡のない被験者AとB。数百マイルの遠距離にいる被験者Aの観ている風景を、Bに向けて念じる実験を繰り返し行う。その結果、3分の2近くが偶然で説明できるよりもずっと正確な一致をみせたという。


このほか、

・ DNAが放つ生物光子(バイオフォトン)が、健康の鍵を握る。
・ 生き物同士は、光子の吸収・放出によるコミュニケーションを行っている。
・ 水は分子の周波数を伝え、増幅する「記憶メディア」である。
・ 意識とは量子コヒーレントな光であり、細胞内の微小管を介して共鳴する。
・ 未来や過去は「根源瞬間(シードモーメント)」の確率としてある。
・ 記憶は脳の「外」にもあり、巨大な時空の記憶庫に保存されている。
・ 私たちの願いや思いは、世界を変えることができる。
・ 集団や場所のエネルギーがあり、個人の意識・健康にも影響する。

などといった話が出てくる。

どれも突っ込みどころ満載の実験結果であるが、ノーベル科学者だとか宇宙飛行士だとか、学会の世界的権威も多数含まれているのが興味深い。著者が権威を捻じ曲げて引用した部分もありそうだが、こうした驚愕の結果を真面目に語っている立派な科学者も多いようだ。この本には登場しなかったが、心理学者ユングが晩年に提唱した「シンクロニシティ」も似ている。まっとうな大科学者も、ときどき奇妙な実験を本流の合間に行っていることがあるようだ。偉大な勘違い集として価値がありそう。

■境界線上でのひらめき、発想の元として

この本を非科学として批判するのは簡単である。まず量子力学レベルの法則を、ニュートン力学レベルの世界に、恣意的に持ち込んでしまっている。再現性のなさそうな実験を、著名な研究者や研究機関の成果だからという理由で正当化しようとしている。

ただ、この本は比較的、理性的、良心的に書かれている。ニューサイエンス系の本は、無根拠な前提や神秘主義が多すぎて、途中で読むのを放棄してしまうことが多いのだが、最後までいっきに読みきることができた。各事例について結局は肯定するものの、一応、著者も疑っている面があるからだ。非常識な研究の中に、将来解明される真実のヒントのひとつかふたつは隠れているのかもしれない。

量子レベルの科学だとか、脳のプロトコルだとか、創発系だとか、通常科学の考え方の外に踏み出さないと説明ができないことも、先端にはよく登場する。サイエンスとニューサイエンスの境界線上で遊ぶ心が、サイエンスの世界での偉大なひらめきにつながる。

またこうした新奇な発想は次世代のコンセプトを先取りすることもある。PCネットワークに使われているイーサネット(Ethernet)の語源は、アリストテレスが発案し、19世紀以前の物理学で、空間に充満していると仮想されていた物質「エーテル」だそうである。ZPFネットワークだとか、波動コンピューティングなんて言葉が近未来の私たちの情報処理システムに登場するかもしれない。

とりあえずアーサー・C・クラークは大絶賛している。オンライン書店でも大人気。

・Passion For The Future: 科学を捨て、神秘へと向かう理性
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002634.html

科学を捨て、神秘へと向かう理性
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ベストセラー「科学の終焉」を書いた科学ジャーナリスト、ジョン・ホーガンの最新作。今回のテーマは科学と神秘主義。有名な神秘主義者、禅僧、脳科学、薬科学、心理学の研究者にインタビューを行ったり、自ら機械や薬物によるトリップ体験を試みながら、神秘主義のベールを暴く。神秘主義の可能性を求めながらも、終始、科学合理主義の視点で書かれているので、安心して読むことができる面白い本。

■神秘体験の組み込まれた脳

古今東西の文化に神秘体験は記録されている。万物とひとつになる感覚(ワンネス)や超越的存在の声を聴く体験は人類に普遍的に共有されている。修道女や禅僧の脳を調べると深い瞑想時に、似たような脳波のパターンが描かれる。変性意識状態(オルタードステイツ、この映画もよかった)は、脳神経の特定の電気・化学的状態であることが解明されつつある。

進化の過程で変性意識状態が生き残りに有利だったが故に脳にその発生装置が組み込まれたのではないかという考えがこの本で紹介されている。性のオルガスムスと神秘的恍惚が似ている部分があることが示唆される。

ある研究者は、脳の左半球に損傷があると神の声が聞こえ、その体験は愉快で恍惚状態につながる。逆に右脳の損傷があると、体験は恐ろしいものになり、凶悪な幽霊や悪魔にとりつかれたと感じる、という臨床例を報告している。脳の中に天使と悪魔が同居。これが正しいかどうかはまったく証明されていないが、他の脳化学の研究からも、脳の左右の半球の統合部分が破壊されると、片方の脳のはたらきが別人格の声として聞こえる可能性はあるようだ。

こうした変性意識は、神の啓示を聞いて力強く社会を導く宗教的リーダーを生んだり、人々が深い悲しみから立ち直るためのスピリチュアルなビジョンを提供したりする。人間にとって良い影響を与える側面があるから、自然淘汰の過程でそうした回路が形成された可能性が論じられている。

■神の機械、幻覚剤

変性意識状態を作り出すには脳への電磁的刺激、幻覚剤、瞑想、過呼吸、激しいダンス、ヨーガなどの人為的方法がある。

著者はカナダの心理学者マイケル・パージンガーの「神の機械」を試しにでかける。この機械は蛸のように伸びた電極を頭部に巻きつけ、側頭葉に電磁刺激を与えることで、被験者の40%に「ある存在を感知」させる。神の声を聴いたり、何か見えないものが見えたりするのだそうだ。

著者は残念ながら何も感じることができなかったそうだが、側頭葉への電磁刺激が天才的な計算能力や創造性を発現させる研究は別の科学者も研究している。現在の脳の観察装置は脳の大局的状態を測ることしかできないため、脳細胞同士のニューロンの通信言語を解明できていない。神の機械は脳の大きなレベルでの活性化や不活性化にしか関与できないため、この方法がどこまで有効なのかは議論が分かれているようだ。

著者はこの本のハイライト部分でアヤワスカという幻覚剤を合法的に試す実験も試みた。そして今度ははっきりと幻覚を体験した。幻覚剤の影響を綴った数ページは特に引き込まれる。苦しい吐き気との戦いの中で、冷静さを失わずに、見えないはずのものが見えてくる。

このように外部の電磁刺激や幻覚剤を使ったインスタントな変性意識状態と、禅僧や修道女の長い瞑想トレーニングによる深い変性意識状態が同じものなのかどうかはわかっていない。ただ、こうした変性意識状態で得た天の声を、後の偉大な業績を実現する力にした人物は数多い。手軽で安全に実現できる手法が開発されれば、ひらめきを作り出す創造支援ツールとして役立つ日がくるのかもしれない。

■科学と神秘主義の境界線上のきわどい知的ダンス

著者は科学主義と神秘主義の境界線上に立ち、科学の立場から両者の関係を論じた。私の感想は、「真実」を決めているのは議論に参加する大多数の人たちが何を信じているか、という問題に過ぎないのではないか、ということ。歴史を振り返ると真実を語る言語は、古くは本能であり、神話や宗教であっただろう。国によっては未だ政治的イデオロギーが真実を創り出しているように思える。現代世界では主に科学が真実を語る超越的言語として君臨している。これを批判しようとすると、科学と別のものの境界線上に立たねばならない。そして、科学信奉者に外の世界の真実を語りかけるには、この本のように、科学の言葉を使って話しかける必要がある。

イデオロギーは権力によって創り出されるものだろう。現代において科学はパワーである。現代において科学は最も強いものだ。それによって敵を倒し、長く生きる健康を維持し、良い生活をすることができる。科学が真実である根拠は今のところ最強だから、という事実に過ぎないのではないか。

宗教はミームプレックスだとする人もいる。この本に登場するスーザンブラックモアの主張は宗教は「知的ウィルスのようなもので、本物だから生き延びたのではなく、複製と感染力に優れているから生き残ったのだという。いいかえれば、宗教は、きわめて成功したチェーンメールにほかならない」というもの。だが、科学もまたそうでないとは誰も言えないだろう。

科学主義(科学こそが現実を理解する最良かつ唯一の手段だとする主張)もひとつのイデオロギーに過ぎないと考えることができる。もっと強いものが現れれば、人類はポスト科学主義者に転向するに違いない。

神秘主義なしに科学はありえないものだっただろう。錬金術や不老不死の研究は、科学の進歩に大きな役割を果たしていた。同時代の科学が不老不死や時間旅行や宇宙の成り立ちの解明は科学的に無理だと証明したからといって、その追及をやめてしまったら、科学は進歩を続けることができなくなる。Think Differentであることは少しだけ神秘主義的でありなさいということに他ならないだろう。

■悟りきってしまった世界は面白いか?

最後の章では神秘主義のパラドクスに著者は言及している。神秘主義は科学とは別の何か究極的理論で世界を説明するが、説明した時点で神秘性が失われてしまうということである。神秘主義者は悟った時点で既に反神秘主義者になってしまう。その後は、陳腐な教祖と信者の集団による、閉鎖的な階層社会を築くくらいの未来しか残されていない。

著者は、


一部の神秘主義に熱狂的に入れ込んだ人たちの究極のファンタジーは、オースティンの言葉を借りれば、ある日、人類が「みんな仏陀のように悟った、人道的存在のオメガ人種」に変容することである。ありうるかどうかはさておき、このような運命は望ましいだろうか?この疑問は次のようにもいいかえられる。神経神学者たちがいつの日か、病理学的副作用のない至福の神秘体験を確実に誘発する神秘主義的技術---超幻覚剤やニューロン特有の言語でわたしたちの脳細胞にささやきかける神の機械や、脳の覚醒物質であるDMTの生産を増大させる遺伝スイッチ---を発見したらどうだろう?。文明はどうなってしまうのか?

と読者に問いかける。そのような技術はいつか遠くない日に開発される可能性があると、インタビューの対象者たちが答えている。この状態は、否定も、怒りも、悲しみも、競争もない至福の状態であるが、同時に変革への強い衝動や創造性を失った種の終焉を意味しているのではないかと問題提起されてこの本は終わる。

科学主義と神秘主義の境界線上の舞踏を踊り終わった著者がたどりついた境地は、神秘は神秘であり続けることで創造性の源になるというビジョンだったと言える。自然や宇宙への畏れは私たちの精神の健康と進化に不可欠な要素ということになる。

やっぱり私の愛読雑誌「ムー」は存在意義があるのだ今月も買おう。

Passion For The Future: 脳はいかにして“神”を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000134.html

Passion For The Future: 霊はあるか―科学の視点から
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002003.html

Passion For The Future: 日本人はなぜ無宗教なのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001937.html

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