Books-Psychology: 2008年11月アーカイブ
・アイドルのウエストはなぜ58センチなのか―数のサブリミナル効果
著者の調べによるとアイドル103人のウエストサイズ(プロフィールとして公開されたもの)を集計すると、58センチが突出して多い。前後の57センチと59センチはとても少ない。明らかにサイズ申告時に操作が行われたわけだが、日本人は基本的に8に好印象を持つことと関係があるようだ。スーパーの食料品も198円だとか298円のように8で終わる価格ばかりだ。米国では9.99ドルのように9が多いのに。日本人にとっての8の良さ、それは何か?
こうした数のサブリミナル効果を徹底的に研究した数詞の認知心理学的文化論。数詞のマーケティングに踊らせられたくない人、逆に人々を踊らせたい人にも役立つ知識満載。
・欧米人が円周率を暗記する方法は?
・スポーツの表彰台はなぜ三位までなの?
・ヤマタノオロチの首は本当は何本?
・「四捨五入して40歳」がショックな理由は?
・4択問題で「正解」が多いのは何番なの?
・「千の風になって」が「万の風になって」だったらヒットした?
・いちばん記念日の多い日は何月何日?
・「虹の色が7色」って世界の常識じゃないの?
・大相撲の土俵が女人禁制になった「奇数」な理由って?
勉強になった。子供のころからの疑問が氷解した。
いち に さん し ご ろく しち はち きゅう じゅうという数詞。4は「し」とも「よん」ともいう。7は「なな」とも「しち」ともいえる。このふたつの数字だけ呼び名が2種類あって不便だと思っていた。それに1,2,3とカウントアップするときはどちらの呼び方でもありなのに、カウントダウンするときは必ずじゅう きゅう はち 「なな」 ろく ご 「よん」 さん に いち になる。なぜなのか、という不思議だ。
和語と漢語が混在していることに原因があるのだがさらに追究していくと、和語数詞の音韻体系に隠された巧妙な数学的からくりが幾つも存在している事実がわかってくる。日本語の奥深さにうならされた。詳しく知りたい人は本書を読んでください。
ところで、かなり数字の認知心理を網羅したように思える本書にもない観点を私としては、持ち込んでみると、こういうのもあるよね。
2の乗数に過剰に反応する人がいる。IT業界系の人たちだ(含む私)。われわれは原則的に物事をビット的に考えるせいか、2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024が大好きだ。普通の人たちにとっては100番や1000番が"キリ番"なのだけれど、われわれは128番や1024番も吉している。この文化はコンピュータあるところ世界共通のはずなので、地域に限定された「末広がりの8」や「不吉な13」なんかより、よっぽどユニバーサルな文化なのではないだろうか。整理番号が偶然64だったらニヤッとしちゃう人が世界中に何億人もいるはずなのである。
THE SECRET LIVES OF NUMBERSというサイトがある。Webの検索エンジンで1から10万までを順番に検索して、検索結果数をグラフ化したものだ。人間があらゆるシーンで使う数字の統計である。
・THE SECRET LIVES OF NUMBERS
http://turbulence.org/Works/nums/
やはり1から10までの利用回数はダントツに多い。そして基本的には50、100、1000ようなキリのよい番号が高い山になっている。その間に12と24だとか、95、96、97、98、99まで(西暦の下二桁として利用か?)などの利用頻度の高い数字が散見される。2の乗数を確認してみると、全体の中で突出しているわけではないが、ほぼ確実に前後の数字よりも高くなっているのであった。
心理セラピー手法のひとつ「論理療法」の入門書。
私たちは日常、いやな気分を活性化するイベント(Activating Event) があって結果(Consequence)があると考えがちだ。たとえば、出来事A(失敗・陰口) → 結果C(落ち込み・腹立ち)ということがあると、落ち込みの原因は失敗や陰口のせいだと思いこむ。この思考では原因となる出来事を変えないと結果が変えられない。現実生活ではそれは難しいことが多いから悩むわけだ。
論理療法のABC理論では、この関係を見直す。AとCの間にB(Belief)を挟む。
出来事A → 考え・ビリーフB → 結果としての感情C
「よくない出来事と感情の間に、その出来事に対する受け止め方・考え方というものがあり、それが感情的な反応の違いを生み出している」というとらえ方に変える。だから、自分を落ち込みやすい困った性格から、強くて穏やかな性格に変えれば、いやな気分にはまらなくてすむと考える。
論理療法の創始者エリスは「ねばならない」「であるべきだ」「であってあならない」「はずがない」という非合理な思い込み(イラショナル・ビリーフ)が、不健康な否定的感情につながると指摘している。「絶対にうまくやらねばならない」、「私の人生は完璧であるべきだ」、「こんな不公平があってはならない」という思い込みが、いやな出来事Aをいやな気分に変換してしまうことが問題だとする。
そこで、論理的な対話型セラピーによって、イラショナル・ビリーフを解消していくのが、論理療法である。たとえば「私はまったく無力です」という人には「歩いてここまで来られたのですから、歩行能力があるんですよね?」に始まって、ご飯を食べたのだから咀嚼力も消化力もあるし、目が見えているから視力もあるじゃないですかという風に反論していく。
「人間の心はとてもおもしろいもので、「自分は無力だ」と考えると、無力感が襲ってきます。「微力だとしても、力はある」と考えると、少し力が涌いてきます。そしてよけいな「微」ということばは省略して、「私には力がある!」と言い聞かせると、ふしぎなことに元気が出てきます。」
論理療法には、フロイドやユングの心理学のような無意識・潜在意識の話が出てこない。思い込みの内容を意識して言葉として表出させて、論理的な説得を繰り返すことで、感情の自己コントロールが可能な性格に変えようとする。ポジティブ・シンキングに似ているが、こちらはすべての負の感情を除去しようとするものではない。
以下のような否定的な感情と健康的な感情のリストが掲載されていた。
このうち否定的な感情を取り除いた上で、ポジティブシンキングを取り入れる下地作りをするのがこの心理療法らしい。実際の対話例(ひとりでもできる)がいっぱい掲載されているが、どれも論理的な道筋をたどっていくと、ポジティブに考えることが自分にとって最善の道であるということが、ロジックとして明確になる。
本当にうつの人をこの療法で治せるかはわからないが、ちょっといやな気分になった自分を、どう自身で励ますべきか、わかりやすい考え方を教えてもらった気がする。