Books-Psychology: 2008年10月アーカイブ
もうすぐ今年も11月だ。子供の頃はあんなに1年が長かったのに今はあっという間だ。
大人になると子供の頃に比べて時が経つのが早くなる。これは万国共通の実感のようだ。実験室でも検証されている。数十秒から数時間という経過時間を被験者に評価させると、加齢に従い短い時間を報告するという事実があるという。なぜ年を取ると時が経つのが速いのか、なぜ楽しい時間は退屈な時間よりも短く感じるのか。実験心理学を専門とする著者はこの時間の知覚の謎に迫った。
時間評価に影響を及ぼす主な要因としては次の4つが挙げられていた。
・身体の代謝
代謝が高まると時間をゆっくりに感じる。1日の内でも代謝の関係で午前がゆっくりで午後が速く感じられるものだそうだ。代謝は加齢に伴い低下する。年を取るほど時間経過を速く感じる一因。
・心的活性度
緊張や興奮によって時間経過は速く感じられる。実験ではクモ恐怖症の人をクモと一緒の空間に閉じこめると時間が長く感じられたそうだ(凄い実験だ)。
・時間経過への注意
時間を気にすると長く感じられる。時間経過への注意が時間を分節化してしまい、分節化された時間帯の数を多く感じることで、長いと感じるのではないかという仮説がある。
・他の知覚様相の状態
広い空間では時間はゆっくり。刺激が多い時間は速い。受け取る情報に脈絡やまとまりを感じていると速く感じる。
著者は視覚や聴覚の錯覚を研究している。この本にも興味深い事例が多数掲載されている。目や耳で感じる印象と物理的実在のずれは案外に大きいことがわかる。そして時間感覚のずれも錯覚の一種としてとらえようとしている。今後、研究が進んでいけば、錯視パターンのように、人間の時間経過を操作する技術が発見できるのかもしれない。
それからとても気になったのは人間には心地よいと思える「精神テンポ」が備わっているという話。個人差があって0.4秒から0.9秒の間にあり、歩くペースや会話の間合いなどと正の相関があるという。私は歩くのも話すのも速い方なのだが、やっぱり、せっかちということなんだろうか。
この本は読書時間が短く感じられた。つまり面白い本だった。
・5秒スタジアム
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/5-7.html
・マインド・タイム 脳と意識の時間
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005226.html
・「時間」を哲学する―過去はどこへ行ったのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/07/post-110.html