Books-Psychology: 2006年6月アーカイブ

・科学は臨死体験をどこまで説明できるか
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臨死体験の頻度に関する調査としては、1982年にギャラップ社がアメリカで行った世論調査が最も優れている。この調査は、アメリカ人の4%に相当する約800万人が臨死体験をしていると結論づけた。

その内容とはどのようなものであろうか?。

米国の精神科医であるヴァージニア大学教授のグレイソンは、74人の臨死体験者のインタビューにもとづき、報告によく見られた16の要素からなる、評価スケールを作成した。臨死体験研究者は、これを点数化して、一定水準以上の体験を臨死体験とみなしている。

・グレイソン・スケール

1 時間の流れ方が変わる
2 思考の加速
3 人生の回顧
4 突然すべてが理解できたという感じ
5 安らぎ
6 歓喜
7 宇宙との一体感
8 光を見る、または、光に包まれる
9 鮮明な感覚
10 超越的知覚
11 幻視
12 肉体からの離脱
13 超自然的な場所
14 神秘的な存在との交流
15 死者や宗教的な人物との邂逅
16 後戻りできなくなる点の認識


臨死体験は古くから世界中で報告されており、年齢を問わず、あらゆる性格の人に見られる。ボッシュの絵に描かれているような明るい光、トンネル、光の存在との出会い、死んだ親戚との再会、肉体からの離脱などの決まった要素がある反面、まったく同じ体験をする人はいない。体験者は、死に瀕している間も意識は明晰で、秩序だった思考ができたと主張し、そのときのことを長く記憶している。

九死に一生を得た人たちが「走馬灯のように人生の思い出が駆け巡った」などと話すのを聞く。光のトンネルをくぐっただとか、お花畑と川が見えたなどという人もいる。こうした話は細部は違えど世界中の臨死体験者が似た話をするそうだ。宗教や文化が違うと、それが三途の川の話、最後の審判の話などにアレンジされ、意味づけられたりもする。だが、私たちが死に臨む際に、似たような原型を持つイメージを体験している可能性は高そうだ。

興味深いのは、脳の機能が停止し意識のはたらきが不可能であると、検査データが示していた状況で、患者がそうした体験をしていることである。著者はそれが臨死状態の前後ではなく最中に体験されたことを証明しようとする。中には幽体離脱して、自分の手術の様子を上から見下ろしていたと話す人もいる。著者は、町中の病院の天井に、下からは読めないメッセージを書いたパネルを取り付けて、それを読む臨死体験者が現れるのを待つ実験もした。おかげでマスメディアに面白おかしく取り上げられ、図らずも有名になってしまったりもした。

著者は救急救命医で基本姿勢は科学者なのだが、今は非科学とされている「魂」の存在を、科学的手法で立証しようとしている真っ最中である。心が脳とは関係なく存在できる可能性や、幽体離脱を科学で説明しようとしているのである。トンデモな部分が2割、科学が8割くらいの内容。


私は、神学的または哲学的なものも含めたすべての問題は、究極的には科学によって客観的に研究できると信じている。われわれの研究から、生命の終わりに心や意識が脳とは独立に存在しうるという結論が出たら、それが神学的および哲学的な「死後の生」を裏づけるものであり、科学者が「意識」と呼ぶものが古くから「魂」と呼ばれてきたものと同一のものであると断定してよいと考えている。どのような言葉で呼ぶかは問題ではない。その過程を科学的に調べることが大切なのだ
」と語る。

死後の世界に興味はあるけれど、宗教やニューサイエンス系のノリは敬遠したいという人が手に取ると、とても面白く読める。それに脳についてはともかく、心については現代科学はまだ何も解明していないも同然である。著者の研究がまったく新しい事実の解明の糸口になる可能性もあるような気がする。


・フィールド 響き合う生命・意識・宇宙
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002668.html

・科学を捨て、神秘へと向かう理性
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002634.html

・人類はなぜUFOと遭遇するのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002440.html

・脳はいかにして“神”を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000134.html

・霊はあるか―科学の視点から
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002003.html