Books-Psychology: 2005年7月アーカイブ

・間合い上手 メンタルヘルスの心理学から
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■間合い=時間と距離と心理の近さ

この本の理論では、間合いには、

・時間的間合い
・距離的間合い
・心理的間合い

の3つがあり、相互に関与しあっているとされる。

距離的間合いはパーソナルスペースの理論、プロクセミクス(近接学)としてよく知られているが、この著者の理論はそれに距離と心理の近さを複合したものといえる。こうした間合いづくりに失敗すると間が悪い、決まりが悪い、バツが悪い状況になる。

わかりにくいのは心理的間合いだが、社会学者フレンチ、レイブンらの研究によるとこの間合いには6つの社会的勢力が影響しているという。

1 専門性パワー 
  送り手の知識量、受け手の認識による影響力。医師と患者。教師と生徒など。
2 準拠性パワー
  影響の送り手のようになりたいと思わせる力。教祖と信者、親と子など。
3 正統性パワー
  送り手が正当な権利として力を行使し、受け手が認める。上司と部下など。
4 強制性パワー
  服従しないと罰を受けると感じる。処分決定の教師と生徒、人事など。
5 報酬性パワー
  送り手が報酬を与えると受け手が認識している関係。ほめたり小遣いをやる。
6 情報性パワー
  コミュニケーションの内容が情報的価値を持つと認識された相互的関係

これらのパワーが心理に影響した結果、対人認知が形成される。6つの影響のブレンドで人の印象が決まるということだ。認知の仕組みとして、林文俊の「対人認知の基本3次元」が紹介されている。

1 個人的親しみやすさ
  あたたかさ、やさしさ、愛想のよさ、温厚性、明朗、魅力など
2 社会的望ましさ
  誠実性、道徳性、良心性、道徳性、理知性、堅実性、心細さなど
3 力本性(意思の強さ+活動性)
  外向性、社交性、積極性、自信の強さ、意欲性、大胆性、粘着性など

TPOに応じて3つの要素の重視される度合いは異なる。その場にふさわしい特徴や資質は何かを適切に判断し、6つの社会的影響力のバランスを取れる人、それを正しく受け取れる人が、間合いのよい人ということになる。

そこにはテクニックもある。たとえば若者の男女関係において「最初は友達からはじめましょう」は、いきなり恋愛関係を申し込んで断られる予期と心理的ダメージを回避するための間合い取りであると例が出ていた。

また非言語の要素は印象形成に大きな役割を果たしている。表情をうまく制御したり、正しく認知できることは、対人関係の良好さを得るに当たり、重要な能力であるらしい。グループで表情の読み取りテストを行うトレーニングが間合い上手への道として紹介されていた。

■もてない、続かない、結婚できない理由の研究

間合いが下手だと、変わった人、浮いた人、空気が読めない人、鈍感な人という印象を周囲に与えてしまう。それが端的に現れるのは恋愛関係だろう。この本にも多数の恋愛における間合いが、解説されている。

ある研究によると、長続きしない男女関係というのは、次のようなステップを踏んでしまうという。

アイデンティティの恋愛理論

1 相手からの賛美、賞賛を求めたい
2 相手からの評価が気になる
3 しばらくすると呑み込まれる不安を感じる
4 相手の挙動に目が離せなくなる
5 結果として交際が長続きしない

つまり、自分のことばかり考えているとうまくいかないということ。二人のことを考えないと長く続かないということで、芸能人と著名経営者のカップルが離婚するような例はこのパターンなのだろう。

「結婚できない男」も科学されている。心理学者富重健一が女性に結婚できない男性のイメージを尋ね、模式化したところ、、出会いにおいて「話しかけられない男」、恋愛において「親密になれない男」、結婚において「決められない男」が結婚できないという結果が出たそうだ。

たまたま、さきほど聴いたばかりの曲に、こんな歌詞があった。

・四次元 Four Dimensions [MAXI]
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君には従順を 僕には優しさを
互いに演じさせて 疲れてしまうけど
それでも意味はあるかい と思う
今もほしがってくれるかい 僕を
」And I Love You / Mr.Children

これくらい二人関係をメタ認知できないといけないのかもしれない。

■自己効力感が間合い上手の秘訣

そして間合い上手の結論として、対人関係における自己効力感が大きな役割を果たしているのではないかという。こうふるまえばこうなるという結果予期と、そういう関係を作る能力があると信じる効力予期の二つが自己効力感といえる。

心理学者バンデューラによると自己効力感の源は次の4つ。

1 直接的経験による達成
  実際にやってみて学ぶ
2 代理的経験
  他者の経験から学ぶ
3 言語による説得
  ほめることでやる気、できる気にさせる
4 生理的・情緒的喚起
  緊張をほぐす、など

自己効力感の低い人は間合い作りに失敗するとすぐ諦めてしまう。逆に間合いが上手な人というのは、対人関係に自信を持っていて、経験から学んだ調整技術を使いこなせる人だということ。巻末には多数の調整技術の訓練法が示されていて、どれも面白そうなので試してみたくなった。

日本の場合、同質性の高い集団であるから、間合いの微妙なズレに敏感になる傾向があると思う。皆が人間関係を重視すればするほど、一層小さなズレが意識され、「自己コントロールの檻」に囚われてしまう。もっとズレが価値になるような多様性と重層性のある社会こそ、幸福な社会なのではないかなあと思う。

・自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現実
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001129.html

・人と人との快適距離―パーソナル・スペースとは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001278.html

・マンガ・心理分析
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002605.html

・知的好奇心
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この本の初版は1973年とかなり古い。

人間は本来怠け者なのでアメとムチで動機づけしなければ活動的にはならないという人間観を、20世紀の古典的な行動主義心理学は提唱していた。これに対して、人間は本来活動的で、自分の能力を発揮するのを好み、知的好奇心にかられて知的探索をおこなうかたちで学習もしていくという新しい人間観をこの本は打ち出していた。外発的動機よりも内発的動機が本質であり、知的好奇心を育むことが、教育や労働の現場に求められているという内容。

知的好奇心を持たせるには、多様な刺激の量が適切に与えられていることが大切だという。設備が貧弱で人員の少ない劣悪な施設で育てられると、子どもはIQが平均以下になってしまうそうだ。ホスピタリズムと呼ばれるこの悪影響の原因は、愛情を注いでもらえない環境にあるという説もあったが、どうやら愛情そのものが問題ではなく、愛情にもとづく行動のもたらす結果にこそあると著者は述べている。

愛情を持ってこどもを育てる母親は、こどもに積極的に話しかけ、あやし、わらいかけ、スキンシップをする。一緒に遊ぶ。すると、こどもに多様な刺激が入力される。これが知的好奇心の育成に大切なことであるらしい。早親の愛情そのものが不在でも、多様な刺激のある環境におくとIQが高まったこどもの実験例も紹介されていて興味深かった。

多様な刺激が好奇心を育む。そして学習が進むと人は今度は逆に新奇なものを恐れたり、嫌ったりする保守主義の傾向がでてくる。

人間は信念や知識を否定する対象を避けるという事実を証明する面白い実験の話もあった。テープに、喫煙と肺がんの関係を支持している話、支持していない話を6話ほど録音しておく。このテープ再生機には意図的にノイズが入るように設計されている。このノイズはボタンを押せば数秒間解除される。聞きたい話の時には被験者は積極的にボタンを押すはずだ。

この実験を行ったところ、喫煙者は非喫煙者よりも、肺がんと喫煙の関係を認める話の部分でボタンを押す回数が少なかったという。聞きたくないことは聞かないわけだ。キリスト教を攻撃するメッセージを次に録音して、今度は信者とそうでない人たちに聞かせると、同様に信者はキリストを攻撃するメッセージでは、ボタンを押す回数が少なかったという。

しかし、新奇なものを人は好む面もある。これは程度問題で、自分の行動や思想を大幅に修正しなければならないほどの新奇さは、避けようとするが、適度に新しいものにはむしろ積極的に吸収しようとする。ただ新しいということだけで十分に人は好奇心を持つ。サルでも同じで、ごほうびがなくてもパズルを投げ込むと解こうとする実験結果が示されていた。アメとムチ以外にも活発化させる動機が動物にもあるわけだ。

もうひとつ大切なのが向上心。成功する早期教育の例として、著名な音楽教育者のバイオリンをこどもに教えるには?というアドバイスが、小さい子どもの親としては興味深い。最初に習うはずの曲を何も言わずに家でBGMにかけておき、繰り返し聞かせておく。さらにいつも聞いていたその曲を母親や同年代のこどもが演奏している場面を見せる。有能さのお手本を自然に見せることで、多くの子どもが1,2ヵ月後に自分からバイオリンを習いたいといい始めるそうだ。

後半は教育論。知的好奇心をひきおこすには、

こどもの持つ信念や先入見の利用
足がかりになる知識を与える
既存の知識のずれにきづかせる

とよいとまとめられている。

内発的動機の作り方について示唆に富む本で、文章が読みやすい。

・集中力
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001205.html

・学ぶ意欲の心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003134.html