Books-Presentation: 2004年5月アーカイブ
ベストセラー「分かりやすい説明」の技術、「分かりやすい表現」の技術の著者が書いた「分かりやすい文章」の技術。芸術的名文ではなく、分かりやすくて、目的を達成するための文章術のポイントが、今回も分かりやすく、簡潔にまとめられている。
ソフトウェアエンジニアでもある著者の理想は、プログラムのように論理的で、機能的な文章にあるようだ。重要ポイントを先に書き、要点ファースト、詳細は後、不必要な情報を書くなが基本としている。学校で習う作文では、感じたことを書くのが良いと指導されてきたが、実務文では、主観的な形容詞がだらだらと続くと、意味が理解しにくくなる。
実務文には「斜め読み耐性」をもたせるべきという視点はユニーク。読み手がすべてを読んでくれるとは限らないから、飛ばし読みされても、書き手の意図が伝わるように書けという。最初に予告をすることが大切で、パズルのピースを見せる前に、それをはめ込むパズルのボードをみせてやることが、意図の理解につながるという比ゆは分かりやすい。
分かりやすい文章を書くための5つの技術として、構成、レイアウト、説得、センテンス、推敲が挙げられ、章別に合計18の各テクニックを紹介する。この本の文章が、分かりやすさのお手本のように書かれているので、納得度が高い。
たとえば、読みやすいセンテンスの4つのポイントとして挙げられているのは。
・センテンスを短くする(40字で、「が」の分割など)
・事前分解しておく(読点で意味を確定させる、など)
・曖昧さをなくす(修飾語は近くに、など)
・キーワードを作る(文章に取っ手をつける、とっかかりやすさ、など)
どれも日ごろ文章を書いている人なら、実感できるノウハウのリストになっていると思う。読点の打ち方については、何が正しく効果的なのか、迷っていたので大変参考になった。
ところで、分かりやすい文章を書く機会が、私には毎月一回やってくる。無敵会議の告知文である。ここまでのところ、毎回満員なので、内容理解と誘う効果を持つ文章として成功している例だと思う。
これは、いつも私が下書きを書いて、田口さんが推敲する形で完成させている。田口さんが削って足す操作をする結果、だいたい原文は50%程度残るので、まさに共同作品を作っている感じ。開発手法のひとつ、エクストリームプログラミングのノウハウに、ペアプログラミング(二人でひとつのコードを書く)があるけれど、それに似ている。二人で書くことで、共通了解している部分に集中し、無駄を刈り取ることができる。
来月はこれを参考にさらに分かりやすい文章で告知を書いてみたいなあと思う次第。
取り扱い説明書や、プレスリリースを書くのが仕事の人に特にお薦めの一冊。
・人生を変える黄金のスピーチ〈上〉準備編―自信と勇気、魅力を引き出す「話し方」の極意
学生時代に、スピーチが受けてスタンディングオベーションになったことが一度だけある。日米の学生が合宿する2週間のイベントの、初日のパーティで、緊張しながら、カタコトの英語で話したときのこと。初対面でまだ打ち解けていない会場。みんなの視線がこちらに集まり、静寂の中、冷や汗たらたらでスピーチは中盤まで進んでも何を話したのかわからないような状況。
さあ、このスピーチをどう収拾しようと困りながら咄嗟に思いついた言葉を最後に、ゆっくりと言ってみた。「私たちはこのイベントを通して、言葉や文化の壁を一緒に乗り越えていける。私はそう信じています」。これが大ヒットで、参加者の拍手と笑顔と、「いいスピーチでした」との日本と米国側の仲間からコメントをもらうことができた。
そこに集まった参加者の大半が、これから始まる合宿に、語学力の不安を持っていて、「言葉や文化の壁を越える」というのが、皆の共通のテーマだったのだ。私がたどたどしい英語で話していたから、この最後の締めの言葉が効いたのだと思う。私が本当にそう思っているというのが痛々しいくらい伝わったのだと思う。流暢にしゃべれていたら、定型文のように響いていただろう。
この本は成功哲学で有名なデールカーネギーが、古今の著名人の歴史的名スピーチを題材に、よいスピーチ方法について語る本。登場するのは、ナポレオン、リンカーン、ルーズベルト、チャーチル、ヘンリーフォードなどの歴史上の人物たちが多い。この上巻は準備編で、スピーチの心構えや、内容の準備の術について話される。
準備メモを入念にたくさん作り内容を構成することが推奨されるのだが、本番ではメモに頼るなという部分が特に参考になった。話すことをすべてメモに書いておくと安心はするが、経験的にもそれでうまくいくことがほとんどなかったから。
リンカーンが、ある裁判で、感動的な演説をしたときに使ったメモが紹介されている。数日後に同僚が偶然、発見して、これだけのメモであの名演説ができるのかと、大笑いしたらしい。
「契約書なし、法的奉仕はなし。法外な料金。お金は被告が保持し、原告には渡されない。革命的な戦争。バレーフォージの被害を証明すること。被告の夫。軍隊へと向かう兵士。被告を酷評すること」
こんな風に、伝えたいことの材料や方向性だけを軽くメモしたものが最高のスピーチメモと言えるのかもしれない。カンニングするにしても、長いメモでは読みにくい。スピーチの中で使う固有名詞や数字の暗記法なども、この本ではいくつか紹介されているが、要は、自然に出てくるくらいには、詳しく、熱意のあるテーマで話せということでもあるらしい。
また「極意」として「何を話すか」より「どう話すか」だという。音楽家が同じ曲を演奏しても、まるで評価が異なることがあるように、誰が言ったか、何を言ったか、以上にどのように言ったかが評価を決めるという考え方である。先ほど挙げた私の体験も、どのように言ったか、が重用だったのだなと思った。
デールカーネギー本なので、小手先のテクニックより、精神論に重きが置かれている。スピーチの心構え論としては、かなりよく書かれていると思った。歴史上の英雄のような大演説の機会は、私にはないのだけれど、結婚式や設立パーティなど、ちょっと畏まった場で、話さねばならない時には、参考になりそうなことが多い。続いて下巻を読んでみよう。