Books-Philosophy: 2008年8月アーカイブ

・愛するということ
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ドイツの思想家エーリッヒ・フロムによる愛の理論の古典。

初版は1950年代だが、すでに恋愛の資本主義化と人間疎外を批判している。

(現代社会では)「いずれにせよ、ふつう恋心を抱けるような相手は、自分自身と交換することが可能な範囲の「商品」に限られる。私は「お買い得品」を探す。相手は、社会的価値という観点から望ましい物でなければならないし、同時にその相手は、私の長所や可能性を表にあらわれた部分も隠された部分もひっくるめて見極めたうえで、私を欲しがっていなければならない。このように二人の人間は、自分の交換価値を考慮したうえで、市場で手に入る最良の商品を見つけたと思ったときに、恋に落ちる。」

「人格のパッケージ」をできるだけ高い値段で売る投資ゲームでは、その取引が劇的に成功すると、性的な関係も盛り上がって、お互いに夢中になる。「だが、じつはそれは、それまで二人がどれほど孤独であったかを示しているにすぎないかもしれないのだ」とフロムはいう。

フロムは、愛とは孤立の経験とそれによって生じる孤独を克服したいという欲求であると定義している。その欲求を一時的に満たすだけならば、市場で手頃な「対象」を見つけられればよい。しかし、「対象」と安定した愛を育み、互いを高めあう関係を築き、その関係が社会の発展にも調和していくような状態を実現するには、愛するという「能力」の習熟が求められる。

「ところが、ここ数世代の間に、ロマンティック・ラブという概念が西洋社会に広く浸透した。アメリカでは因習的な配慮がまったくなくなったわけではないが、ほとんどの人が「ロマンティック・ラブ」、すなわち結婚に結びつくような個人的体験としての愛を追い求めている。この自由な愛という新しい概念によって、能力よりも対象の重要性のほうがはるかに大きくなったにちがいない」

前半部「愛の理論」は、愛とは何かの原理を説く。そして兄弟愛、母性愛、異性愛、自己愛、神への愛の5つに分類し、愛の対象の違いによる特徴、それぞれの個人と社会にとっての重要性を語る。本来あるべき愛の姿と、現代社会における愛の不在を批判する。

後半部「愛の修練」はお互いの人格を発展させ、生産的な社会関係を発達させていくための愛の技術を解説する。規律、集中、忍耐、関心の鍛錬やナルシシズムの克服など、技能としての愛の上達法が語られている。

愛についての名言が多い(結婚式のスピーチの素材にもつかえそうだ(笑))。

「人は意識のうえでは愛されないことを恐れているが、ほんとうは無意識のなかで、愛することを恐れている。 愛するということは、なんの保証もないのに行動を起こすことであり、こちらが愛せばきっと相手の心にも愛が生まれるだろうという希望に、全面的に自分をゆだねることである。愛とは信念の行為であり、わずかな信念しかもっていない人は、わずかしか愛することができない」。

愛とは何かに真正面から取り組んで、完成度の高い答えを提示した本だ。

・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html

・人はなぜ恋に落ちるのか?―恋と愛情と性欲の脳科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003812.html

・チャット恋愛学 ネットは人格を変える?
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003653.html

・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html

・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html

・オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002189.html

・気前の良い人類―「良い人」だけが生きのびることをめぐる科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002095.html