Books-Misc: 2013年4月アーカイブ
『鈴木先生』でブレイクした武富健治氏が、漫画実話ナックルズやバンブーコミックスなどで描いた実話ベースの漫画作品を16本収録した作品集。第一章 怪談、第二章 都市伝説、第三章 秘境と因習、第四章 死と暴力。掲載誌は読み捨てられる安っぽい大衆誌であるから、作家にとって、これを自分の代表作にするという意気込みはなかったはずだが、だからこその表現の遊びのバリエーションが楽しいと思った。
狐憑き家系と差別を扱った表題作は、昭和まで残っていた因習が引き起こした悲劇を描く。女性を誘拐してレイプして強引に結婚する"おっとい嫁じょ"とか、九州の離島に残るカルト集団"クロ宗"の実態など、秘境と因習の章は特に、取材ベースで強く印象に残るものが多い。
『連続射殺魔死刑囚の最期』は『無知の涙』で知られる殺人犯 永山則夫の晩年を描いた作品。こういう事件が起きたのは、あの頃、俺が無知だったからだ、貧乏だったから無知だったんだ。貧困が原因で罪を犯すことになったという永山と文通を重ねるうちに、獄中結婚する決意をする一般女性がいたという実話。『無知の涙』を読んでみたくなった。
この作品集を読んで、実話系劇画誌というのは、かつての日活ピンク映画市場のような、作家を育てるという面で、一定の役割を果たしているのかもしれないなと思った。(漫画実話ナックルズは休刊してしまったそうだが...。)
ジャーナリスト船橋洋一が文芸春秋から出した福島第一原発事故ドキュメンタリ上下巻。全交流電源喪失から一旦の収束に至るまでを時系列で21章に分けて語る。大作だが、関係者の会話を中心として状況がまとめられているので読みやすい。そして緊迫感がある。
原発事故の前半で最も印象的なのが管首相のイライラ。中途半端に原子力の知識があったために、関係者に怒鳴り散らして、現場をかなり混乱させてしまった。誰しもイライラしていたわけだが一国の首相としては人格的に問題があったのが明らか。
「今、福島第一から撤退すれば、1号機から4号機、5,6号機まで全部爆発する。福島第一原発だけでなく福島第二原発も爆発する。」「日本の領土の半分が消えることになる。日本の国が成り立たなくなる。何としても命がけで、この状況を抑え込まないといけない。」
そして、事故を何度振り返ってもこの逃げられないぞ発言はなんだったんだろうと思う。
「君たちは、当事者なんだぞ。命をかけてくれ。東電は逃げても、絶対に逃げ切れない。金がいくらかかっても構わない。日本がつぶれるかもしれないときに撤退はありえない。撤退したら東電は100%つぶれる......。」
当時は首相の本気を示す言葉だと思っていたが、キョトンとした顔で東電の幹部は首相の一方的な演説を聞いていたという。重要な場で話がかみ合っていなかったのだ。
3月14日の吉田所長のことば。「細野さん、すみません。もうダメかも知れません。2号機に水が入らないんです。原因がわからないんです。このままいくと燃料棒全露出になってしまいます。」。報告を聞いて管首相は「制御不能になったということか」「ダメか...」。
この国がまた緊急事態に陥ったら、決して政府発表を信じてはいけない。まず最悪の事態が裏で進行している可能性を想定して、個人が判断をしなければならないということがはっきりする。
・死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
http://www.ringolab.com/note/daiya/2013/01/post-1757.html
まちづくりマネジメントはこう行え 2011年10月 (仕事学のすすめ)
まちづくりのコンサルタント 西郷真理子の仕事をまとめた小冊子。住民たちがディベロッパーになる、住民参加型のまちづくりには独自のノウハウがある。ステークホルダーがまちづくり会社を設立して、地権者たちは利用権利を委譲する。土地と所有と利用の分離、公共性と事業性の両立というしきりを作ったうえで、徹底的に話し合い合意形成をする。
だから従来の都市デベロッパーにはできないことができる。
人の集うあいまいな共有空間が大事。手法としてクリストファー・アレグザンダーのパターンランゲージ、デザインコードを重視している。真ん中にシンボル的なものを置く。道路の広さと建物の高さの関係(D/H)は1:2くらいだと心地よいが開きすぎるとだめ。ヒューマンスケールをベースに考えることが大切。移動には300メートルくらい歩くくらいがちょうどいい。そういったパターンをもとに、実際の空間をデザインする。
同氏の代表作である高松市丸亀町商店街の例をこの前見てきた。
kame3.jp - 高松丸亀町商店街 - http://www.kame3.jp/
大きなドームを中心にしたメインストリートは明るく近代的な商業モールのようでありながら多数の昭和的な横丁が混在する、有機的な深さを感じる商店街だった。規模もとても大きいがにぎわっていてシャッターを下ろした店もほとんどなく元気な地域をみた気がした。
縁側、テラス = 外でも内でもないあいまいな空間、心地よい遊びのある空間に人は集まるという発想が実際に生かされていた。
「職住一体」という言葉があるけれど、最近では商と住一体というのもあるらしい。米国では
ライフスタイルセンターというコンセプトでショッピングモールの3Fが住居の、アーケードのないオープンモールが注目されている。
街づくりは時代とともに変化する。著者は都市を集約してコンパクトに戻していくべきだという。日本の人口1.28億人は30年後には1億人になる。1970年の人口に戻るのだ。だからこそコンパクトシティの発想が大切になるという。豊かな地域コミュニティ、顔の見える商店街の復活、集団で支えあう街へと古くて新しい価値観への挑戦の事例がこの冊子にはいろいろ書いてあった。