Books-Misc: 2011年3月アーカイブ
原子力発電所の最悪のシナリオを超えて、核爆弾爆発の最悪を研究した本。
著者は広島大学原爆放射線医科学研究所助教授を経て札幌医科大学教授となった被爆の専門家。9.11同時多発テロがきっかけで核テロ攻撃に対する被害のシミュレーションや、核爆発被害に対する防災・防護の研究に取り組んでいる。
広島で原爆が投下されたとき、直下にいても生き残って、ちゃんと長生きできた人がいる。ビキニ環礁での核実験を生き延びた住民がいる。被爆した第5福竜丸の乗組員たちのその後の健康状態は?。核爆発による被爆で生死を分けたのは何だったか。そのとき我々はどう行動したらよいのか。核爆発で放射能に汚染された都市はどうなってしまうのか。万が一の核爆発に対するガイドラインが書かれている。
永田町の上空600メートルで20キロトンの核爆弾が爆発すると、直後に直径220メートルの火球が都心上空に出現し、核爆発災害で東京都心は壊滅する。2キロ以内の建造物は99%が再利用不能なレベルに破壊される。品川や上野や池袋も39%の建築物が再利用不能の損傷を受ける。50万人が犠牲になる。負傷者数は300万人から700万人に及ぶと計算されている。多くのテレビ局は一瞬で無能化するが、都心から離れたフジテレビは生き残る可能性が強い。東京タワーが倒壊する可能性が高いから電波は届かないかもしれないそうだ(もうすぐスカイツリーはできますが...)。
核爆発が起きると猛烈な衝撃波、熱線(光)、初期核放射線、電磁パルス、残留核放射線という5つの危険が住民を襲う。多くの人間は瞬時に死亡するが、広島でも爆心地数100メートルで生き延びた人が結構いる。生き延びるには瞬時に伏せること、地下にいることが有効みたいだ。爆発の直下でさえ地下街(高層ビルの直下はだめ)と地下鉄路線は安全であることがわかっており、広島でも地下室にいて助かった人の報告が紹介されている。
衝撃波と熱線を回避したら次は核放射線を避けねばならない。車が横転していたら爆心地に近いのですぐに退避しなければならないが、建築物のガラスが割れていなければ爆心地5キロ以遠なのでとりあえず屋内退避すべき、など、具体的な防護態勢が解説されている。
放射線を浴びてしまった場合は、嘔吐と下痢が重症のサインとなるらしい。放射線を浴びて急性放射線障害を発症した生存者は、被災後2~10年後に白血病の発症リスク、5~10年後にその他の固形がん発症リスクがあるという。だが、全員が発症するわけでもない。実際、広島でもビキニ環礁でも第5福竜丸でも、被爆後に普通に長生きした人も多いのである。広島・長崎で2.5キロメートル圏内生存者での白血病発生率は0.18%だったという。懸念されがちな奇形など遺伝的障害の証拠はみつかっていない。
日本人は原爆被害を2度も被っているのに、現代の私たちは、被爆の被害のことをよく知らない。震災による原発事故によって、放射線被害に怯えているわけだが、微細なレベルでは絶望する必要はないみたいである。
「1000分の1シーベルトの全身被爆のリスクは、10万人の公衆がこの被爆を受けた場合、そのうち5人が将来致死がんを発症する確率になる。このリスクを他の種類のリスクと比べてみよう。タバコ50本の喫煙による将来の致死がんの発症や、自動車で5000キロメートル走行して交通事故で死亡する確率と、この線量のリスクが等しいと考えられている。毎日20本のタバコの喫煙を30年間続けると、22万本の喫煙となり、放射線換算で4.3シーベルトの半致死線量に相当する。」
むしろタバコ怖いなと...。
広島・長崎での原爆投下、チェルノブイリやスリーマイルの事故、米国やロシアの核実験による被害など、これまでの核爆発と放射線被害を幅広く検証しており、危機管理を再考する上で大変に勉強になる内容。
原子力発電所の危険性。今思えば先見の明はいくつもあったのでした。
『日出処の天子』、『アラベスク』、『妖精王』などで知られる少女漫画家 山岸凉子の自選作品集。
冒頭収録作の『パエトーン』は1988年に少女漫画雑誌に掲載された異色作。
原発の危険性を直接的に問題提起している。発表時期はチェルノブイリ原発の事故から二年後。広瀬隆の『危険な話』を読んで原発問題に関心を持った漫画家が、情報を調べて、とてもわかりやすく具体的に、事故の怖さを読者に訴えかけていた。
ギリシア神話の半神パエトーンは神の子であることを仲間に見せつけたいために、太陽神にしか御すことができない日輪の馬車を走らせた結果、暴走させる。制御を失った炎の車が世界を焼き尽くしてしまう。人間にとって、原子力はまだ操ることがゆるされないものなのだ、即時停止すべきです、というメッセージ。
原子炉の仕組み、放射能とは何か、原発事故が起きた際の放射能汚染について、用語解説と図解を多用して説明している。ギリシア神話の寓話を描いた冒頭8ページ以降は、少女漫画のスタイルを大きく破っており、山岸涼子っぽさがまったくない。まるでいまテレビでやっている解説みたいである。当時これを雑誌に掲載するのは勇気がいったのではないか、よほどこのメッセージを世に問いたかったのだろうなあ。
ところで、漫画の中で解説されているのですが、東京電力のロゴは核分裂を表しているって知っていましたか。東京電力は事故対応が落ち着いたら、ロゴも変えるべきでしょうね。
他の収録作品は女性の心の揺れを描く一般的な少女漫画作品。
淫らな血縁関係を描いた『星の素白き花束の』や、何かに化かされて歩いても、歩いても帰宅できないホラー『化野の・・・』など読み応えのある作品がある。
元の状態のもどすのが復旧、新たな質と水準を加えるのが復興。
「東京の銀座、新宿二丁目、大阪の北新地、横浜の関内、函館西部の坂道、川越や高岡の蔵のまちなどは明治・大正期に復興計画が実施されていた場所であると指摘されると、本当ですか、と反応する人が多いに違いない。城崎温泉、山中温泉はいったん壊滅し、復興計画で現在の情緒ある姿が再生されたこと、静岡大火、鳥取大火の復興計画があった事実さえ、地元を除けば、まったく知られていない。戦災復興事業が仙台のケヤキ並木道、広島の河岸緑地をはじめとして全国各地ですばらしい成果を生んだことは、一部の都市を除いて、郷土史、学校教育、市立博物館でもほとんど取り上げられていない。」
忘れられやすい復興の歴史を振り返り、その復興計画が日本の都市をどのように変えてきたかを明らかにする。
幕末・明治の大火復興
関東大震災と帝都復興 戦災復興院(省と同格)による 後藤新平の活躍
1930年代の各地大火の復興
第二次大戦戦災の復興
阪神淡路大震災の復興
などが各一章を割かれている。
災害や戦災によって都市が破壊されたときに、平時では合意できなかった効率的で安全な街づくりが可能になる。たとえば関東大震災後の帝都復興事業では、消失区域の約9割に相当する区域で区画整理が行われた。危険な木造密集地域を整理し、大通りを通し、駅前広場を整備し、緑地や公園を配置することができた。繁栄する国際都市東京のレイアウトはこの時期にいっきに近代化した。。
「当初計画より縮小されたとはいえ、戦災復興事業は1600年前後に建設された我が国の近世城下町、宿場町の都市形態を一新し、戦後の高度成長を支える中心市街地のインフラをつくりあげた。日本の歴史の中で、全国一斉に都市が計画的に建設されたのは、安土桃山・江戸初期の城下町建設とこの戦災復興事業の二度のみである。」
こうしてつくられた景観は今や歴史的な重みも感じられる場所になっている。復興によって、よりよいものになりうる。著者はこうした復興計画は大変重要だが、その計画を示すのは、災害後、早い方がいいと提言している。
「災害復興に際しては、まず、都市計画と住宅に絞ってビジョンと方針を早急に、一か月以内に、荒削りであっても素案の形で公表し、それと同時に、建築制限を行い、住民の理解、議会と世論の反応を踏まえながら成案としていくやり方が望ましかった。」
たとえば関東大震災の翌日に、後藤新平は内務大臣として、東京復興の基本方針を発表し、矢継ぎ早に手を打つことで、成果をあげた。まだ復興の話なんて早いというのは、間違いかもしれないのである。
実はこの本は大地震が起きたから読んだのではなくて、たまたま私の個人的な、吉村昭作品通読活動の一環で1月ごろに読んでいた。ブログで紹介しようか、この1週間、相当迷ったが、地震についての何らかの情報提供になると思うので書く。
三陸海岸は昔から何度も大津波に襲われている。記録にあるだけでも、西暦869年から2011年までで21回に及ぶ。1千年以上にわたっておよそ50年おきに被害をこうむってきたことになる。本書では作家 吉村昭が、直近の明治29年、昭和8年、昭和35年の大津波について、綿密な取材をもとに、その全容を綴ったドキュメンタリ作品。初版は昭和45年6月。
明治の三陸大津波はとりわけ巨大だった。今回の津波は15メートル程度と言われているが、明治三陸では高さ50メートルに達したという。当時、8メートルの防潮堤を築いた村もあり、専門家は「それで十分」としていたという。歴史は繰り返してしまった。(津波の高さを正確に測るのは難しいとも吉村は書いている)
前例を見ないマグロの大漁、深い井戸の濁り、鰻の大量出現、狐火など、前兆が毎回記録されている。そしてドーンという大音響とともにやってくる大津波。被災の悲惨な模様が津波を経験した人々の語りやこどもたちの作文から伝わってくる。今回も大被害を受けたとしてテレビ報道される田老村は、過去においても、津波被害が最も激甚だった地区として本書に何度も登場する。
「津波は、自然現象である。ということは、今後も果てしなく反復されることを意味している。海底地震の頻発する場所を沖にひかえ、しかも南米大陸の地震津波の余波を受ける位置にある三陸海岸は、リアス式海岸という津波を受けるのに最も適した地形をしていて、本質的に津波の最大災害地としての条件を十分すぎるほど備えているといっていい。津波は今後も三陸沿岸を襲い、その都度災害被害をあたえるにちがいない。」
吉村昭はむすびで、三陸海岸の人々が地震に対する知識を持ち、備えをするようになったことで、
明治29年 死者数26360名
昭和 8年 死者数 2995名
昭和35年 死者数 105名
と死者数が激減してきたことを高く評価していた。昭和43年の十勝沖地震の津波では人的被害がでなかった。しかし、いつか明治三陸のような10メートルを超える津波が来れば防潮堤を越すだろうとも、40年前に書いていた。悲しいことに作家の推測が的中してしまった。
本書では、何度も何度も大被害にあいながら復興再生を繰り返してきた三陸海岸の地域コミュニティの力強い復活の実績も示されている。津波被害を受けるのは史上22回目、でも絶えることなく三陸海岸は蘇ってきた。また復活してほしいと願います。
ガンダムマンガ本を3冊。
ガンダムの最終決戦地 ア・バオア・クーの攻防戦を、アムロ・シャアではない一兵卒たちの視点を重ねて、映像ドキュメンタリ番組として構成した。ジオン軍と地球連邦軍の元兵士が登場して、インタビューと回想シーンで、ディスカバリチャンネルの歴史モノのようなノリで、現場で何が起きていたのかを語る。
ギレン暗殺の指令室にいたエンジニアの語る真相とか、ホワイトベース崩壊の最期を見届けたジオン学徒兵とか、ザビ家圧制から逃れ連邦に加わった亡命艦隊の隊員とか、ガンダムの話の本流とは関係ないところで起きていた多様なドラマが展開される。ア・バオア・クー戦を立体的に捉えなおしたい人におすすめ。
・機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのメモリーより―
その後、カイ・シデンはジャーナリストになったのですよね。熟年になったカイが「一年戦争記念館」で行われた「WB展」に参加して、遠い昔を回顧する。いまや歴史上の英雄の一人であるカイにアテンドするコンパニオンがカイの言葉を記録する。それがカイ・シデンのメモリー。ガンダム正史に抵触しない範囲で、カイ周辺の逸話を創作している。もちろんアムロらメイン登場人物も多く登場するのだが作画クオリティが高く、違和感がないのがいい。原作の価値を高める外伝になっていると思う。
これはかなり無理やりな設定で、普通のサラリーマン木戸銭寺 淡白が生身のままガンダム化するというギャグ漫画。肉体をむりやりガンダム化して、横暴な上司らをジオンのMSに見立てて戦闘を挑むと言う筋書き。『君のミノフスキー粒子の発射口を俺に見せてくれ!』『意味分かんないけど多分セクハラです、それ!!』など、上記2作と違って、ガンダムの本筋とは何の関係もないが、それを知らないとまったく面白くないパロディ漫画。
愛蔵版 機動戦士ガンダム THE ORIGIN VI 開戦編 と MG 1/100 MS-09R リック・ドム
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/01/vi-mg-1100-ms09r.html
機動戦士ガンダム アッガイ北米横断2250マイル
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/04/-2250.html
・愛蔵版 機動戦士ガンダム THE ORIGIN V シャア・セイラ編
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/-the-origin-v.html
・MG 1/100 ゴッグ MSM-03
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/mg-1100-msm03.html
・ラーメンズ・片桐仁のガンプラ戦士ジンダム
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1007.html
・ザク大事典 All about ZAKU
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/-all-about-zaku.html
・MG 1/100 ズゴック MSM-07と愛蔵版 機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV ジャブロー編
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/mg-1100-msm07-the-origin-iv.html
・HGUC 1/144 MSM-10 ゾックと機動戦士ガンダムTHE ORIGIN
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/hguc-1144-msm10-the-origin.html
・機動戦士ガンダム THE ORIGIN、MGアッガイ、ターゲット イン サイト
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/01/the-originmg.html
・ガンプラ・パッケージアートコレクション
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/post-820.html
・俺たちのガンダム・ビジネス
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/11/post-662.html
・ガンダム・モデル進化論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003091.html