Books-Misc: 2011年1月アーカイブ

・空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
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本物は面白い。

現代において未踏の地に挑む冒険はまだ可能なのだと証明した2002年と2009年の探検記。男のロマンで、現代の早稲田の四畳半から単身でチベットの秘境に向かう。現代の装備をもってしても何度も死の恐怖を味わうことになる。

元早稲田大学探検部の著者が、新聞社への就職前に向かったのが、チベットのツアンポー渓谷。単独行で挑むのは長さ5マイル(8キロ)の前人未踏の空白地帯。長い間伝説といわれてきた幻の滝や洞窟を発見していく。

自身の冒険譚に重ねて、

1924年に同渓谷を探検したフランク・キングドン=ウォード
1993年にツアンポ川でカヌー事故でなくなった同じく早稲田大学 武井義隆
90年代のイアン・ベイカーらによる「第二次ツアンポー・ブーム」

など、20世紀からのツアンポー探検の歴史を丁寧に語ることで自身の冒険の意味づけもはっきりしてくる。元新聞記者だけあって安定感のある文章。読ませる。

"グーグルアース"の記述もあったので、早速ツアンポーで検索したら一発でそれらしき地図が出てきた。写真も結構いっぱいアップされていて驚いた。

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地球上が探検されつくしてしまい、前人未踏はわずか5マイル(8キロ)という猫の額みたいな土地というがいかにも現代的な話だなあ。

第8回開高健ノンフィクション賞受賞作

ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/11/z-1.html
怪獣記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-655.html

・ビジネス書大バカ事典
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「「もどき本」を読んでみると、こんな本がまじめな顔をして世の中に公然と流通していることに、しかもその多くがベストセラーになっていることに、まあ、びっくりする。」

いかがわしいビジネス書「もどき」作家としてやりだまにあげられるのは、勝間和代、苫米地英人、神田昌典、石井裕之、本田健、本田直之、斉藤一人、小林正観など、よく売れているビジネス書の著者たち。具体的に書名を挙げながら、数々のご都合主義や矛盾した記述をあげつらう。その語り口が面白い。いちゃもん芸の本である。

それぞれの著者のイタい所を的確にとらえて狙い撃ちしており、いまどきのビジネス書を広く読んでいる人は笑いながら読める本である。でも、ちょっとめくじら立てすぎじゃないかなというのが素直な感想。

著者の批判としては、誇大広告、不当表示論だという主張が多いわけだが、ビジネス書って読者にとってクスリというよりやる気を燃やすための燃料なのだと思う。少なくとも読者としての私は、ここに挙げられたようなビジネス書を、燃料として消費してきた。効いた本もあった。

現実のビジネスの秘訣って、実のところ、今やるべきことを一生懸命にやる、という、およそ当たり前のことであることが多い。難しいことや奇抜なことではない。ドラッカーの名言に「想像力や知識は成果の限界を設定するのみで成果をあげることとは関係がない。成果をあげるためには仕事をやり遂げる能力をもつこと」というのがある。ポジティブな意欲を持ってやり遂げることが、ビジネスでは一番重要なのだ。多少の間違いはやっているうちに修正される。

そもそもビジネス書を買う読者だって、ある程度割り切って読んでいるはずなのだ。それに勝間和代が嫌いな人は勝間本を読まないでしょう。勝間和代が大好きな人が読むからパワーになる。信じていない人が教典を読んで、ちゃんちゃらおかしいとか、わけらからんという方がおかしいということじゃないだろうか。あれ、なに反論をしているんだろう、私は。

この本に対してめくじら立てるのも野暮なのだ。聞いて笑えるいちゃもんが楽しい本だ。
たとえば、少量の努力で最大の効果をうたう著者について「それよりもわたしは、本田が本を年400冊も読むと知って、なんだ超人的な努力をしているではないか、全然「レバレッジ」がかかってないじゃないか、と思ったものである。」と言ったり、「人に好かれる六原則」で、「誠実な関心を寄せる」「笑顔を忘れない」「心からほめる」なんてテクニックが書いてあるが、成功するために「誠実」になるのは無理だし、それじゃ作り「笑顔」だし、「心から」が嘘になるだろうという。このパターンって確かに自己啓発系にありがちな内容である。人間、なんにでも「感謝」できるものではない。

うーん、真理である。

それと自己啓発の本を科学の本と勘違いして読むなよ、というメッセージは正しいと思う。

・マグナム・マグナム コンパクトバージョン(完全日本語版)
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写真美術館に行くような写真好きにおすすめ。じっくり家で作品鑑賞できる。

1947年にロバート・キャパの発案で、アンリ・カルティエ= ブレッソン、ジョージ・ロジャー、デビッド・ シーモアらが創設した国際的な写真家集団マグナム・フォト。正会員になるには厳しい現会員の審査があり、選り抜きの世界の超一流が50名所属している。「世界最高の写真家集団」と呼ばれる。

・マグナム・フォトス
http://www.magnumphotos.co.jp/

マグナム創設六十周年記念として刊行された豪華写真集が「マグナム・マグナム」で、これは"コンパクトバージョン"だそうだが十分に大型本である。400枚以上の写真がカラー(白黒写真は当然白黒)で収録されている。ざっと見るだけでも3時間くらいかかった。

マグナムの会員69名の代表作各6枚を、会員が厳選した上で、会員が解説を加えている。超一流同士が互いの写真を評論し合っている。マグナムの伝統でドキュメンタリ写真や批判精神を持ったアート写真が多い。きれいに撮るのではなく、意味に満ちた写真を撮る集団だということがよくわかる。しかしそのメッセージは決しておしつけがましくなくて、どれもスタイリッシュに洗練された絵である。

好きな写真家をみつけるのにいい本だと思う。私はアントワン・ダガタが気になった。


・吉永マサユキ 写真集 若き日本人の肖像
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1091.html

・Learning to love you more
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/learning-to-love-you-more.html

・若き日本人の肖像 吉永マサユキ 写真集
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1091.html

・たのしい写真―よい子のための写真教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1053.html

・写真論 スーザン・ソンタグ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1052.html

・明るい部屋 写真についての覚書
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1038.html

・撮る自由―肖像権の霧を晴らす
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1048.html

・植田正治 小さい伝記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-726.html

・写真家の引き出し
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-728.html

・心霊写真―メディアとスピリチュアル
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1016.html

・いま、ここからの映像術 近未来ヴィジュアルの予感
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-952.html

・植田正治の世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-717.html

・不許可写真―毎日新聞秘蔵
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-724.html

・写真批評
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005242.html

・土門拳の写真撮影入門―入魂のシャッター二十二条
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004954.html

・東京人生SINCE1962
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005034.html

・遠野物語 森山大道
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005029.html

・木村伊兵衛の眼―スナップショットはこう撮れ!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004923.html

・Henri Cartier-Bresson (Masters of Photography Series)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004931.html

・The Photography Bookとエリオット・アーウィット
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004958.html

・岡本太郎 神秘
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004986.html

・マイケル・ケンナ写真集 レトロスペクティヴ2
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005007.html

すごい虫131―大昆虫博公式ガイドブック
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/10/131.html

進撃の巨人

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・進撃の巨人
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この漫画は評判どおりかなり面白い。3巻までで累計150万部突破。

100年前、人類を捕食する謎の巨人が大量に出現して、人類は絶滅の危機を迎えた。なんとか生き延びた人々は、三重の高い壁を築き、その内側に住むことで再び安定を取り戻した。しかし5年前に身長50メートルを超える超巨人が、一番外側の壁を壊したことで、人類社会は再び大混乱に陥る。訓練兵団を卒業した少年少女たちは残された壁を守るために戦いの前線へと向かう。

・進撃の巨人(2)
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ビル5階建てくらいの大きさの、筋肉むき出し人体模型みたいな巨人の造形。3重構造の壁に囲まれた城塞都市。高圧ガスでワイアーを射出して移動攻撃に用いる立体機動装置。コンセプト的にも、ビジュアル的にも、とてもオリジナリティの高い(クセのある)作品。荒削りな絵が世紀末的世界観とマッチしている。

・進撃の巨人(3)
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連載中で単行本3巻まで出ているが、相当長編の大構想の序盤なのではないかという印象。巨人の正体は謎に包まれている。精神性、メッセージ性が高さを感じる作品だが、まだ何を語りたいのか明確には伝わってこない。意味深な伏線を多数張っているので、これらがこれからどういう解決をするのか、興味津津である。大傑作になるかもしれない。

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