Books-Misc: 2010年8月アーカイブ

・ブルーカラー・ブルース
61WN7Z6f4SL__SL500_AA300_.jpg

労働者の悲哀と呻き。まさにブルース。実体験ベースの劇画。

著者、渾身のデビュー作。

理系大卒で工事の現場監督に送り込まれた主人公(24歳)の悲惨な日常が描かれる。

慢性的な睡眠不足、失敗、職人の罵倒、暴力、土下座...。

精神的にも肉体的にもボロボロだが、ひとつの仕事を3年は続けないと転職が難しいと思って、主人公は耐え続ける。なんのために働いているのかわからないから、自分の不遇のなにもかもが、不合理と悪意にみえてくる。

作者の体験がもとになっているだけに、主人公の不安や怒りが生々しく伝わってくる。何度かある修羅場では、読みながら思わず拳を握りしめてしまったほど。主人公は安易な気持ちで就職活動をしていた自分をくやむ。

だが、この漫画は『蟹工船』のような資本家に対する抵抗のプロレタリアート文学ではない。自分が変われば、世界が変わるという自己改革思想の作品である。主人公は悪戦苦闘の末に、自分なりの働き方、生き方をみつける。後半の転職活動の展開は、ブラックな職場に入って出口が見えなくなっている人に希望を与えるものでもある。

ブルーカラーにせよホワイトカラーにせよ、内発的な動機で働かない限り、どんな仕事もブルースだ。逆にいえば、かなりの逆境でも人はそれを糧にして成長、成功できるということでもある。この著者が凄いのは、過酷な体験を、漫画作品に昇華して、人々に支持され、賞を取ったことだ。(第一回ネクストコミック大賞の期待賞を受賞)。

期待賞。まさに次回作に大変、期待してしまう。この著者ならば、まだ描くネタを使い果たしてはいないはずだと厚みを感じる。

グルメの嘘

| | トラックバック(0)

・グルメの嘘
5178twWaJ2BL__SL500_AA300_.jpg

「飲食店を取り上げるマスコミに、ジャーナリズム精神は皆無」

超辛口のグルメ業界批判本。メッタギリしていて著者が訴えられないか心配。

だが、グルメ記事の読み方がよくわかる。とても勉強になった。

・店主が毎朝ネタを仕入れに築地に行く鮨屋
・一人でも多くの人に自分の料理を、といって支店を出すオーナーシェフ
・ワインを出す鮨屋、・ビールを置かないフレンチやイタリアン
・丸ビルや六本木ヒルズやミッドタウン等再開発ビルの店
・大間の鮪を出すというそこらへんの店

にはろくな店がないぞという。なぜダメなのか、素人にはなかなかわからない業界事情の説明がある。「飲食店業界にはびこる悪しき慣習や癒着、そして偽りに対してメスを入れていく」激辛モード。

著者いわく、まっとうな評論は儲からない。ヨイショライターを徹底的に叩いている。

著者が特に許せないとするのが料理評論家やジャーナリストと名乗る人たちの店との癒着。「もっと許せないのは、自分が関与した店を自分が連載頁を持っている週刊誌や月刊誌で意識的に何回も取り上げて絶賛することです。これは一般読者への背信行為以外の何物でもありません。雑誌の原稿料や本の印税だけでは足りないと、金儲けのためにコンサルタント業やプロデュース業へ奔るようですが、それなら評論家やジャーナリストの看板を下ろしてからにしろと私は言いたい」と手厳しい。

有名評論家たちの「お食事会」「プロデュース」「特別待遇」といった慣れ合い慣行がいかに評価をねじまげているか暴露する。

そして、著者いわく、評論家だけでなく、まっとうな飲食店も大儲けできない。拡大志向やメディア志向の飲食店は劣化するのみとして徹底的にやり玉にあげている。出版業界や放送業界とのもたれ合いも糾弾する。

著者のストイックなまでの評論家としての誠実さ追求姿勢は素晴らしい。だが、ミシュランブームにせよ、B級グルメブームにせよ、一般人が外食に興味を持つきっかけは、プロデューサが飲食店と仕組んでつくりだすものが多い気もする。すべてを欺瞞だといって封じてしまうと、業界全体がシュリンクしてしまうのではなかろうか、とも思う。もちろん著者のように本物を厳然と判別する人は絶対必要であると思うが...。

放送作家や業界人が絶賛して集まるのは、ただ高級食材を濃い味付けで出すだけの店ばかり、というのは、私も行ってみてがっかりしたことが何度かあるので、納得だなあ。

・ラーメン屋の行列を横目にまぼろしの味を求めて歩く
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/post-1218.html

・世にも微妙なグルメの本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-416.html

大ぐるめ―おとなの週末全力投球!悪魔のような激旨101店128品
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/101128.html

このアーカイブについて

このページには、2010年8月以降に書かれたブログ記事のうちBooks-Miscカテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブはBooks-Misc: 2010年7月です。

次のアーカイブはBooks-Misc: 2010年9月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1