Books-Misc: 2010年7月アーカイブ

・中世民衆の世界――村の生活と掟
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中世日本の村の掟の資料研究。

オキテって言葉は新鮮だ。ホンモノのオキテってどんなものだったのか好奇心がわく。

この本には資料に基づいて本物がいっぱい出てくるのだが、わかりやすくいうと、

おまえら村の掟で違反者を勝手に処刑しないように
根拠不十分で死罪にしちゃった場合は、子供に財産を継がせよ
村に旅人を泊めるのはご法度だが惣堂なら無許可でとまってよろしい
平常時の人身売買は重罪だ
でも飢饉のときだけは金持ちは貧乏人を助ける意味で奴隷にしていいよ
村人は軍役に対しては食料や補償を求めた
山を荒らすものがいたら鎌を没収すべし
百姓は年貢を払ってからならば逃げてもよろしい

などである。細部を見ると、中世の百姓民衆の権利関係や意識がみえてくる。

たとえば、ある地方で地頭が勝手に村を売ってしまい、別の領主がやってきたが、前の領主と村人が結んでいた約束事(祭りの際の村人を饗応すること)を、新領主に引き継いでいなかったため、もめ事になり売却自体が無効化されてしまった事件記録。地頭が村を売ることができたというのも驚きだが、約束が違うと訴え出て、その要求を通してしまえる村人との関係性も意外。

私はこの本を読むまで当時の民衆は「ミミヲソギ、ハナヲソギ」で領主に奴隷のようにこき使われて移動の自由もなくて、活かさず殺さずに置かれていたというイメージが強かった。だが、実際の中世の民衆は必ずしも支配者のいいなりではなくて、自治を守っていたようなのである。

村の力で処刑や追放を行うという厳しい側面もあったらしい。もめ事の解決には、残酷な鉄火起請でさばいたなんて話も出てきて、

・日本神判史 盟神深湯・湯起請・鉄火起請
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1267.html

内容的にこの本とつながります。

・ドキドキしちゃう―岡本太郎の"書"
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岡本太郎のユニークな書道アート。約40点収録。

「そもそも字と絵の表現は一体のものだった。象形文字のいわれや変遷などをたどらなくとも、無心に楽しんで字を書いていると自然に絵になってしまう」。

今にも文字が動き出しそうだ。

文字であると同時に絵である。

燃え上がる炎のような「喜」
女が男を支える「男女」
小さな「む」が大きな「挑」にまさに挑みかかるような「挑む」

"書"とはいっても、岡本太郎の書は黒の墨一色ではない。太陽の塔みたいに、赤、青、黄色と原色の絵具も使って、字形も大胆に崩した文字である。書画というものとも違う。意味だけでなくて、生命が吹き込まれている象形文字のアート。

作品の多くには岡本太郎の詩のような解説がつけられている。これもいいのだが、読む前にまず書だけを自分なりにじっくりと味わってから、二週目で文章を読むというのがさらによい鑑賞方法だと思う。書のイメージ喚起力が凄いから、付加情報がなくても、それだけで自分なりの解釈を楽しめる。

時間を忘れて見入ってしまう作品集である。

・美の呪力
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/01/izo.html

・岡本太郎 神秘
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004986.html

・今日の芸術―時代を創造するものは誰か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005051.html

・岡本太郎の遊ぶ心
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005077.html

・岡本太郎の東北
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005167.html

合葬

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・合葬
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江戸文化の漫画家 杉浦日向子の作品。庶民風俗、町人文化をとりあげた作品が多い中で、これは異色のシリアス路線である。よみごたえがある。

最後の将軍 徳川慶喜の警護を目的として結成され、新政府軍と上野戦争を戦って壊滅した彰義隊。官軍とも賊軍ともつかない曖昧な存在。隊士たちは何のために命をかけて戦うのか。明確な大義をみつけられず迷いを抱えたまま、それぞれの思いを胸に決戦へと突入する。

彰義隊は自らの意思によるボランタリな組織だった。この漫画の3人の少年たちも、どう生きるか迷った末に、戦いに加わることを自ら選ぶ。その心理プロセスがとてもリアルである。杉浦日向子が得意とする江戸の平穏な日常描写があって、少年たちのおかれた鬱屈が伝わってくる。戦いという非日常にどうしてつながっていったのか、よくわかる気がする。

維新期の江戸の混沌と緊張のムードもうまく描写されている。市民革命と言うわけでもないから、戦うのは一部の志士たちのみである。多くの人には関係ないのである。市中では普通に日常生活が営まれている。決戦の日は、上野で飛び交う砲弾の音を、福沢諭吉が三田の慶応義塾で授業をしながら聞いていたという。

時代の流れについていけなかった旧勢力の残党の話といってしまえばそれまでだが、命を賭けた人たちにはそれぞれに熱いドラマがあった。新政府軍は上野戦争で勝利を収めた後、彰義隊の遺体の回収を禁じたらしい。この漫画は消えゆく江戸への著者のレクイエムであり、散って行った志士達を弔う合葬なのだ。

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