Books-Misc: 2009年10月アーカイブ
孔子の生涯を描いた漫画全3巻。人間ドラマ。
孔子の人生を知れば知るほど『論語』が面白くなる。孔子は見方によっては時代の敗北者だからである。不遇の一生を過ごしたが決して世を捨てなかった。孔子の孤高さというのは、隠者としての老子の孤高さとは違うものだ。孔子は最初から最後まで現実の政治で腕をふるうことを追い求めた。そして挫折した。武士は食わねど高楊枝的な、心意気なのである。
なぜ孔子は賢者でありながら仕官の道が開けなかったのだろうか。おそらく孔子自身とその教えがあまりに堅物であったからじゃないだろうか。孔子のような強いポリシーを持つ人間と、毎日一緒に仕事をするのは、きっと窮屈である。
では、なぜ放浪の旅には付き従う人が大勢いたのか。それは放浪の旅の供なら孔子の見ていない場所である程度息抜きができること、とか、世なれていない孔子が一人旅をするのを見ていられないという心理が働いていたのではないだろうか。
論語は死後に弟子によって聖典として編纂されたものだから、多分に美化されたところがあると思う。このマンガは孔子を、弱いところもあるし失敗もする人間として描いていて、リアルに感じられるところがいいなと思う。
・孔子
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002572.html
井上靖著。
・孔子伝
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004804.html
漢学研究の白川静著。
サブカルを追う写真家 吉永マサユキの写真集。
記念写真の構図のみでこんなに面白いことができるなんて驚き。
暴走族、右翼団体、ボクシングジム、矢沢永吉ファン、ホストクラブの黒服、空手道場、地域の祭り、応援団。いかついお兄ちゃんお姉ちゃん達が数十人並んでいる。写真を撮られることを意識してか、一層気合いの入った衣装と表情で、こちらをにらみつけている。威嚇力抜群である。そしてキャバレーホステス、レースクイーン、ガールズクラブ、ストリップ劇場における、女子の淫靡な集合写真もある。この写真集では、男は男らしく、女は女らしくが徹底している。過剰に漂うセックスアピールにむせそう。
その男らしさ、女らしさが強い集団ほど、構成員が似通ったファッションや顔つきに収束していくのが一目瞭然になった。「族」というのは所「属」から生まれるのだなと思う。だが、制服指向の一方で各自がアクセサリー的な個性を発揮して主張もしている。つっぱり高校生が、学ランを同じように改造して髪を染めながらも、一人一人、つけるピアスがちょっと違う、みたいな。そういう細部の個性が味わい深い。
そのほか、ちんどん屋、ウクレレクラブ、大学生のサークル、子供会、花見などの集合が記録されている。最近話題の「ヤンキー文化論」のビジュアル資料というイメージ。
・ヤンキー文化論序説
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-951.html
・ヤンキー進化論 不良文化はなぜ強い
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1019.html
日常じっと見てはいけないものを、写真だから、一方的にじっと見ることができる。路上観察をじっくり家で楽しめる写真集だ。
ぐいぐいひきこまれた。
三大将軍家光の頃。若い男ばかりに伝染する死の病が大流行し、国の男女比は大きく変わっていた。舞台となるのは男性が4人に1人しかいない女ばかりの社会。貴重な男の子は大切に育てられ、すべての労働は女たちが受け持つことになった。貧しい女は結婚することができなくなり、売春宿で男に種づけを求めることで、子供を作っている。あべこべ世界の最高権力者である将軍も女性であり、大奥には3000人の美男子を集めていた。という奇抜な設定で始まる男女逆転の時代劇ドラマ。
女将軍のお成りにざっとひれ伏す若く美しい男たちの逆ハーレム。いかにも女性向きの少女漫画家の作品なのだが、読んでみると中身は案外に男性も楽しめる内容になっている。もともとSF的な設定である上に、主人公の視点が切り替わる物語構造など、飽きが来ない。男と女、男と男の入り乱れた色恋沙汰の背後で進行する権力闘争の政治ドラマ。複雑な時代状況の中で一途に行きようとする主人公。
女性中心の社会。男女逆転にさせることによって、女性って男性が優位多数の場では、こんな風に感じているのかな?と気がつかされるところが多い。大奥の美男子達は将軍の寵愛と出世を求めて競い合い、競争相手に嫉妬する。粘着質の嫉妬という感情は女性っぽさと思いがちだが、これを読むと、女性の特性ではなくて、自分で自分の運命を決められない人間の情動なのかもしれないと思ったりした。
この先どうなるのか楽しみな連載中。第13回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞。
・大奥 出版社の紹介サイト
http://www.hakusensha.co.jp/women/com.html