Books-Misc: 2009年8月アーカイブ

星守る犬

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・星守る犬
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イヌ好きは泣ける漫画。孤独とイヌの連作。

山中の放置車両に中年の男の遺体が発見された。死後1年は経過している。傍らには比較的新しいとされるイヌの死体が寄り添うように見つかった。かつては真面目に働き、家族を支えてきた男だったが、なぜ放浪の末、孤独に死んでいくことになったのか、の身の上が語られる。

路頭に迷った男とイヌの二人旅は、飼い主とずっと一緒にいられるイヌにとっては案外に幸せなものだった。イヌは健気な表情で「おとうさん」を元気づける。星守る犬とは、決して手に入らない物を物欲しげにずっと眺めている犬のこと。ぐっときてしまう。イヌという動物は人間と一緒に居るようにできている。原始の時代から人間の孤独を癒す存在だったわけだが、イヌの表情に癒しを感じるようにヒト側も共進化してきたのかもしれない。

併録された『日輪草』は『星守る犬』の続編にあたる作品。前作で発見された遺体を弔うことになったケースワーカーのこれまた孤独な人生と寄り添うイヌの話である。10月6日、20日には漫画アクション誌に続編2号が連続掲載されるそうだ。普段買わない雑誌だがとりあえず読まねばと楽しみにしている。

たまたま「おとうさん」と白いイヌの話だが携帯電話のCMは関係がない。孤独な死がテーマだから広告には向かなそうだが、現代的なテーマではあり、ドラマや映画化されそうな予感。

・第1話の冒頭をタダ読みできる Web漫画アクション
http://webaction.jp/title/104.php

・ヘルタースケルター
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ハイリスクな全身整形医療により完璧な美を手に入れて、芸能界で華々しく脚光を浴びる女優でモデルのりりこ。だが、その偽りの美しさを維持するには高額の継続治療が必要であり、危険な副作用に悩まされていた。次々に現れる身体の異常をメイクで隠して、テレビや撮影のハードスケジュールをこなすギリギリの日々。

「あたしはもうすぐ使いものにならなくなる。もっと長くもつかと思ってたけど...。意外と早かったなあ。あたしが売りものにならなくなったら?ママは?あたしを捨てるでしょう。ママだけじゃない。みんな今ちやほやする人たちだって離れていくわ。」

りりこは非情な業界の人間関係への不信感からバランスを崩し、肉体も精神も崩壊させていく。その転落は一蓮托生の周辺の人物たちを巻き込んでいく。人造美女りりこを生み出し「維持費」を投資する事務所の女社長、りりこのわがままに翻弄されながらも魅了され性的にも奉仕するマネージャーとその彼氏、高額美容ビジネスの裏に有力者の腐敗を疑う検察官など、周辺人物の心の深い闇もしっかり描かれている。

2003年度文化庁メディア芸術祭・マンガ部門優秀賞、2004年第8回手塚治虫文化賞・マンガ大賞受賞作。岡崎京子は本作品発表後96年に交通事故にあって入院したまま、いまだ再起していないようだ。続編がありえたかもしれない終わり方なので、いつか復帰して欲しいものだなあ。

ひとりの女の子の落ち方を通して、現代のメディア産業の非人間性や、メディアにとらわれる欲望の果てしなさを描いた。とにかく読み応えのある傑作。

・終わらない夜
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「想像してごらん。誰もいない廊下の奥から不思議な電車がやってきて、あなたを冒険の旅へつれだしてしまう、そんな夜を...。カナダの画家ロブ・ゴンサルヴェスがえがく、眠りとめざめのあいだの時間。想像力にみちたイラストレーションが、見るものを奇妙な世界へさそいこむ。 」

・真昼の夢
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「想像してごらん。本をひらくと音もなくみたこともない風景があなたをまねく、そんな日を...。カナダの画家ロブ・ゴンサルヴェスがえがく、眠りとめざめのあいだの時間。想像力にみちたトラストレーションが、見るものを奇妙な世界へさそいこむ。 」

傑作のだまし絵の絵本を2冊。カナダの画家ロブ・ゴンサルヴェスの絵に、作家セーラ・L・トムソンが詩を添えたシリーズ、昼の部と夜の部。ともにだまし絵を解体する楽しみと、幻想美を味わう楽しみ、両方がたっぷり味わえる。

人間の意識が把握できる範囲というのはすごく狭いんだなと気がついた。部分単位では整合していても、全体では矛盾している不思議。近視眼的に物を見せるのがだましの常套手段だ。

そして色彩や質感が連続させて、構造的に無理のある部分も、自然につながっているように見せるテクニック。小さな物を大きく、大きな物を小さく見せる遠近法の逆用など、この絵はなぜこう見えてしまうんだろう?と推理する時間がとにかく楽しい。

大人にとっても鑑賞価値のあるだまし絵絵本として私はこの2冊がナンバー1だと思う。

・レッド
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山本直樹の問題作。まだ連載中で単行本3巻までだが凄く面白い。理想主義者たちが、無慈悲な人殺しに変わる瞬間が見所だろう(3巻ではまだ予兆)。絶対全部読むつもり。

1969年から72年までの日本という設定で、連合赤軍や浅間山荘事件をモチーフにした過激な学生運動家たちの青春群像劇。若さ故に革命を信じ非合法活動に身を投じた彼らが、やがて行き詰まって仲間と殺し合い、壊滅していく様を描く。

一部の登場人物の頭や肩の上には不可解な数字が描き混まれている。1とか15とか。このナンバリングは一体なんなんだろなあと読み進めていくと、2巻の解説で答えが明かされている。これは警察との戦いや仲間のリンチで殺される順序なのである。ああ、こいつもうすぐ死んじゃうんだというのが生々しく判ってしまうわけだ。

そして各話の最後のコマでは登場人物達の未来がカウントダウンされる演出も物語の緊張感を高めている。

「赤城 この時26歳 群馬県山中で逮捕されるまであと253日 死刑確定まであと7926日」

「安達 この時23歳 群馬県山中で「処刑」されるまであと223日」

「宮浦 この時23歳 吾妻の子を妊娠したまま群馬県の山中で死亡するまであと240日」

といった具合。一見、平穏なアジト生活に見えても、全員が逮捕や処刑というカタストロフへ向かっていることを常に意識させられる。これがなくても十分に傑作だと思うが、死人ナンバリングと運命カウントダウンは画期的な演出であると思う。

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