Books-Misc: 2009年2月アーカイブ
2002年、25歳だった著者は仕事を辞めて東南アジアへ旅に出た。カンボジア、ラオス、タイ、ベトナム、ミャンマー、スリランカ、ネパール、インド。彼は普通のバックパッカーとは異なる旅行目的があった。それは各国にいる障害者の乞食の実態を知るということ。彼らを尋ねて共に暮らしてみるということ。無数の物乞う仏陀と触れあい、語り合った1年数ヶ月のドキュメンタリである。
障害者といってさまざまである。先天性の障害者もいれば後天的なものもいる。カンボジアでは地雷で四肢を吹き飛ばされた人たちが路上で物乞い生活をしていた。タイでは盲目の人間は流しのカラオケ歌手になるという職業選択がある。ミャンマーではハンセン病の乞食の村の悲惨を目にする。スリランカでは障害者が生まれるのは天罰だとして、家族までもが村人に非難される。
著者はアジアの障害者のおかれた悲惨な現実を報告しているが、決して高所から正義や理屈を振りかざそうとはしない。彼らの社会に暮らした体験を淡々と文章にする。人間的な触れあいもあるが、想像を絶する衝撃の事実もある。
インドには手足がない子供の乞食が多い。著者は心を開いたひとりの乞食から衝撃の背景を知ってしまう。
「彼はストリートチルドレンとして育ったという。貧しさから逃れようとしてこの町にでてきたのだそうだ。 初めは何人かの仲間とともに暮らしていた。ところが、十五歳の時、路上で眠っていたら突然数人の男たちにおさえられて、その場で足を切断された。彼はそのまま気を失ってしまった。 目をさますと、病院のベッドの上だった。すでに左足はなかった。数日後、マフィアがやってきてこういったという。 「俺が治療費を肩代わりしてやったんだ。利子を付けて返済してもらう。」」
さらに深入りして調査を進める著者の前にたちはだかるマフィアの影。スリリングな現地潜入レポートにドキドキな章もある。何の後ろ盾もない著者の緊張感が伝わってくる。フリーライターにしかできない価値のある仕事をしている。
昨日「21世紀の歴史――未来の人類から見た世界」という本を紹介したが、世界の最も貧しい人たち、最も弱い立場の人たちがどう生きているか、これもまた21世紀のもうひとつの現実。
面白いドキュメンタリだった。この人の他の著作も読みたくなった。
・石井光太オフィシャルサイト
http://www.kotaism.com/
・現代の若者
http://kotaism.livedoor.biz/
・HEALTH HACKS! ビジネスパーソンのためのサバイバル健康投資術
著者の川田浩志氏は東海大学医学部血液内科/抗加齢ドック准教授、東海大学ライフケアセンター副センター長、早稲田大学客員講師、海老名メディカルサポートセンターアンチエイジングドック顧問、医学博士。そしてブロガー。
・Dr川田浩志のアンチエイジングワールド・リポート
http://ameblo.jp/antiagingworld/
自称「健康オタク」であるこの先生は、世の中にあふれる健康情報を幅広く収集し、自身で体験し、エビデンス(科学的根拠)の有無を論じている。たとえば、水は沢山飲んだ方が良いとか、暗いところで本を読むと目が悪くなるとか、とにかくやせたほうがいい、沖縄県民は長寿だ、無理せず気持ちよく歩け、毛を剃ると剛毛になる、などは俗説でありエビデンスを欠いた眉唾健康情報だと切り捨てる。
この本が取り上げる健康法は、食事、睡眠、運動、サプリメント、長寿、病気予防、美容、脳力維持(認知症予防)、老化防止などオールジャンル。各分野で医学根拠のある健康法ばかりが取り上げられている。中には毎日コーヒーが健康に良いとか、ややツライくらい速歩きするほうがいい、カロリー制限が長寿の有効など、意外なエビデンスありの健康法もあった。
私はサプリメント類が好きなので、45種類のサプリを使い分ける(ほとんど趣味)医師の意見はとても参考になった。今後はビタミンAの代わりにベータカロテンを使ったマルチビタミンに変えよう、イチョウ葉を試したいなと思った。
ジューサーやホームベーカリーを使った健康術など家族単位の健康法も気になる。製品名を含む具体的なアドバイスも多い。紹介されている歯磨き粉や脂取り紙など、いろいろと買い物をしてしまいそうだ。
私はお酒を飲まずやせ型で健康診断では優良児なのだが「やせすぎもダメ」という事実をこの本で知った。肥満は心臓病とがんの死亡率が高いが「やせ」はそれ以外の死亡率が高い。やせていればいいというものではなかったのだ。カロリーは控えめでタンパク質をたくさんとり適度な運動で体重を増やす、今年の目標になった。
この本は超健康法の本ということだが、こうしろという一つのやり方が示されるわけではない。巷に溢れている多くの健康法には無理がある。効果がない、続かない健康法はダメだとした上で、効果がある健康法を分野別に大量に取り上げている。この何百ものTIPSの中から、自分なりに続きそうなものを試していけばいいということだろう。
内容盛りだくさんの健康百科であり、付箋だらけになった。その後、妻と会話も弾んだ。オタク系の人、ビジネス系の人も楽しめる異色の健康本だと思う。
ところで、この本は見出しや図表のいたるところに、ビジネス書づくりのノウハウが活かされている。著者はビジネス書マニアであるらしく、あとがきに「お世話になった書評ブログ」として私のブログを紹介していただいた。医師の書く健康本に、何らかのお役に立つことができたのは大変うれしい。
・現代を読み解く ラブホテル人間学―欲望マーケティングの実態
アベックホテル、ファッションホテル、ブティックホテル、カップルズホテル、レジャーホテル。つまりラブホテルの話。著者は昭和40年代から実に40年以上にわたり1638ものホテルをデザインしてきたラブホテルデザインの第一人者だそうだ。
幼稚園で子どもが好んで座るおまるをデザインしたところからキャリアが始まったというが、「セックスするときは、みんな子どもに戻る」を持論に、回転ベッドや鏡張りの非日常的な空間を次々にプロデュースしていった。その斬新奇抜で話題性のあるデザインはマスコミが連日取り上げて時代の寵児となった。
「余談ですが、私はラブホテルのデザインをするにあたって、利用者の声をあまり取り入れませんでした。というのも、お客さんの好みといっても、セックスはとても個人的なもの。表には出にくいものだからです。取り入れようにも、アンケートをとったって、誰も本心をいうわけはありませんから、意味がないのです。」
ラブホテルは世界的に例がない日本だけの文化だ。著者は「日本人は器で食事をする。外国人はカロリーで食事をする」が持論。淫靡さ、猥雑さ、ドキドキ感を伴うスケベな雰囲気にこだわって、想像力をかき立てる部屋、五感を刺激する空間を演出して一時代を築いた。最近のラブホテルはシティホテルのように清潔で上品になり、活力を失ってしまったと嘆く。
「昭和50年代のラブホテルは一日につき、一部屋四~五回転は当たり前、中には八回転という化け物的な部屋もありました。売上も、一月当たり一部屋100万円が当然で、多くなると180万円というものもありました。しかし、現在、一部屋が稼ぎ出す金額は、平均40万円くらいでといわれています。」
不動産投資コンサルタントの分析によるとラブホテル市場は売上規模で3~4兆円。デジタルコンテンツ市場と同規模なのだという。繁華街型、郊外型、インターチェンジ型などのモデル別経営事情が明かされている。5%程度が平均の不動産投資商品の中で、ラブホテル投資は20%近いリターンがあるケースも多いそうで投資物件として格別の魅力があるという。新市場AIMに上場したラブホテルファンドもあるらしい。
なかなか見ることができないラブホの裏側をじっくり観察できる新書。個性的な著者の話が面白い。欲望マーケティングの実態、よくわかった。
・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html
・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html
・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html
・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html
・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html
・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html
・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html
・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html