Books-Misc: 2009年1月アーカイブ

巨人譚

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・巨人譚
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私が一番好きな漫画家 諸星大二郎の新刊。

巨人がキーワードになる神話や伝承をベースにした過去作品に、新たに書き下ろしたギルガメシュ叙事詩をテーマとした作品を加えた作品集。初出は1979年から2008年の30年に渡り「西遊妖猿伝、海神記と並ぶもう一つの野心的なライフワーク」と帯にうたわれているのだが、巨人が登場しない作品や中国伝奇モノまで含まれており、ひとつのシリーズとしては寄せ集め感が漂う。

だがでっちあげシリーズとはいえ、神話伝承を得意とする作家なので、個々の作品はもちろん面白い。スケールが壮大。タッシリナジェールの壁画「白い巨人」が描かれた一本の短剣が共通して登場する。短剣はギルガメシュやテーセウス、オデュセウスら各文明の英雄達の手によってメソポタミアからクレタへ、リビア、サハラ砂漠へと人類の歴史の黎明期を漂っていく。

やはりプリミティブな世界を描くと諸星大二郎の持ち味がいきるなあと思う。諸星作品の中でも、妖怪ハンターシリーズ、暗黒神話・孔子暗黒伝、マッドメン、海神記など古代神話系が好きな私としては、栞と紙魚子のようなコメディ路線だけでは欲求不満だったが、2007年頃から連続して過去作品の新装復刊、西遊妖猿伝の再開など諸星大二郎ブームの再燃がみえてきているのが嬉しい。

ときどき実現されるドラマ化、映画化作品の中には、沢田研二主演、塚本晋也監督「ヒルコ 妖怪ハンター」のようなトンデモ作品もあるが、私は2005年公開「奇談」が好きだ。これは原作の雰囲気をかなり忠実に再現しているように思う。だが、原作にこだわったが故に一般には余り人気がでなかったようだ。カルトをメジャー化させるのは本当に難しい。


・奇談
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・私の好きな漫画家たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/2003/12/post-46.html

・未来歳時記・バイオの黙示録
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-830.html

・栞と紙魚子の百物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/post-791.html

・トゥルーデおばさん眠れぬ夜の奇妙な話
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/04/post-377.html

・「私家版魚類図譜」「私家版鳥類図譜」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/04/post-554.html

・インドへ馬鹿がやって来た
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56歳、仕事がなくて困った漫画家が、突如思い立ってインドで漫画を売ることを思い立つ。友人の漫画家の作品を翻訳して、現地で印刷して販売すれば儲かるのじゃないかというアイデアだ。海外に出たことは一度もなく、英語もヒンディー語も全然できないのに、現地で部屋を借り、人を雇い、印刷所と契約し、自分で露天を出して、漫画を叩き売る。

売ることに決めた作品は、表現の問題で40年以上も封印されていたという平田 弘史 のカルト作品「血だるま剣法」。日本でだって売るのが大変なクセのある作品を選んでしまったところから、無理な話であった。

・血だるま剣法・おのれらに告ぐ
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「遂に復刊成る! 1962年夏、大阪日の丸文庫から貸本店向け描き下しマンガ単行本として発行された「血だるま剣法」は、なぜ40年以上に渡り封印され続けたのか? マンガ史のみならず戦後の出版史を考えるうえで避けることのできない本作の意味を再検証。リメイク版「おのれらに告ぐ」併録。監修及び解説:呉智英。 」

著者は売れる物を作るマーケティング能力がゼロなのだが、起業家に必要なゼロからどうにかするバイタリティだけは強烈に持っていた。だから、ビジネス的には大失敗なのだけれど、過程を描いたこの漫画はとても面白いドキュメンタリになった。

怪しいインド人にしょっちゅうだまされる日々だが、全体として殺伐とした雰囲気にならないのは、どこか根底で人間を信じている著者の人柄のせいなのだろう。普通の日本人が入り込まないスラム街へも果敢にアルバイト探しに出かけていく。周囲のインド人達も謎の日本人の行動に戸惑いながら、いつのまにか著者の行動につきあわされている感じがある。

相当に低レベルとはいえ、インドと対等に渡り合ってきた日本人の敗戦記。負けたけれどもとことん健闘した内容は読みどころたっぷり。

・この世でいちばん大事な「カネ」の話
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なんだか感動しちゃったなあ。

西原理恵子の毎日かあさんは隠れファンで全巻読んでいる。

・毎日かあさん4 出戻り編
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基本はお気楽のほほん路線だが「毎日かあさん4 出戻り編」の、元夫との別れのあまりの切なさには涙した。ちょっと昔のフツーの日本の家族模様を描かせたら右に出るモノがいないのじゃないか。おなじほのぼの系でも、すべてが満ち足りたサザエさんではなく、何か欠けている毎日かあさん一家の方がリアリティを感じる。

本書は漫画家 西原理恵子の自伝である。貧乏に泣かされ、大人の無理解で高校中退させられた少女時代。どん底の暮らしから漫画家になって這い上がるも、ギャンブルにはまった話。若い頃の稼ぎや借金の話などカネにまつわる話ばかりで構成している。

西原が「自分で「カネ」を稼ぐということは、自由を手に入れるということだった。」というように、カネに縛られないためにはカネを稼ぐしかないのである。そういう他の人が言わない真理をガツンガツンと繰り出してくる。自分探しもカネで答えはでる。

「自分は何に向いているのか。
 自分はいったい、何がしたいのか。
 深い迷いで身動きできなくなっているキミを、
 「カネ」が外の世界へと案内してくれる。」

職業選択においては、何がしたいかというより、カネを稼げるコトに適性や能力があるのだから、そういうコトをみつけなさいという論法。なるほど感銘。著者自身が貧乏から独力で成り上がる過程で身につけた金銭教育の本なのでもある。

「カネについて口にするのははしたない」という教えも、ある意味、「金銭教育」だと思う。でも、子どもが小さいときからそういった「教え」を刷り込むことで、得をする誰かがいるんだろうか?いる、とわたしは思う。従業員が、従順で、欲の張らない人たちばっかりだと、会社の経営者は喜ぶよね。」

サブプライム崩壊であっさり破綻した「金持ち父さん」式とはまったく逆を行く毎日かあさんのしたたかな金銭道。この本は自分の息子が中学あたりで"中二病"にかかったら読ませたい本である。

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