Books-Misc: 2008年6月アーカイブ
表紙の印象だけの勘で買ったら、大当たりの掘り出し物だった。福島聡の漫画はほかの作品も読んでみようと思った。
第一話。小学生の女の子と友達の兄弟二人組が遊んでいる。女の子は、ふざけたはずみで兄の方を突き飛ばし古井戸に落としてしまう。転落した兄は死ぬ。事故とはいえど友人の兄を殺してしまった女の子は、心に重い十字架を背負いながら多感な少女時代を生きていく。微妙な同級生の弟との関係。そして彼女が考えた責任の取り方とは?。
こんな話もある。日常生活の中で唐突に「宇宙パンダ」が現れた。怪しいパンダは3つの願いをかなえてくれるという。そんなわけないと思いながらも、願いを伝えると、パンダは必死になって依頼者の願いをかなえようと努力する。その行動スタイルがなにか人間社会のルールとズレているがとても情熱的。このパンダ何者?。
すべて少年少女が主役の物語。ときどき連作がある(第1話の少女や宇宙パンダは何度か出てくる)オムニバス作品集。全4巻。舞台は第二次世界大戦中のヨーロッパもあれば、未来の日本や、場所の不明な並行世界のような回もある。
宣伝文句的には「生きる不思議、死ぬ不思議」ということらしいが、つまりは「存在の揺らぎ」がテーマということかなと思う。少年少女が主役なのは現代の彼らが揺らぐ存在の象徴だから、だろう。第一話の女の子の行為のように、ほんの少しのぶれが生死をわけるくらい危うい。浅野 いにおに通じる部分も感じる。
・福島聡のホームページ
http://members3.jcom.home.ne.jp/breton
著者のWebサイト
・浅野 いにお 「おやすみプンプン」「素晴らしい世界 」「ひかりのまち」「ソラニン」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/01/post-691.html
これが好きな人はこれもおすすめ。
・怪しい少年少女博物館
http://ayashii.pandora.nu/
伊豆高原にあるらしい。ぜひ行ってみたい。この紹介作品とは何の関係もない。
「百頭女」「慈善週間または七大元素」はシュルレアリスムの代表的画家のひとり、マックス・エルンストの代表作。古い挿絵、博物図鑑、商品カタログなどから、図柄を切り抜いて貼り合わせるコラージュ絵画による物語。「二十世紀の生んだ最大の奇書のひとつ」とも評される。
「百頭女」ではすべての絵にキャプション(詩?)がつけられていて、謎めいたストーリーが展開しているが、あまりに謎めき過ぎていて理性的に筋を追いかけることは難しい。むしろ、一枚一枚の強烈な奇想イメージを連続して体験するのが本来意図された鑑賞スタイルのようだ。
不安をかき立てるような、不吉なイメージの数々。書き手も読み手も亡くなっている時代の古い書物から切り出してきた挿絵は、宗教的で時代がかった古めかしいものが多い。あとがきで、澁澤龍彦、赤瀬川源平、埴谷雄高など7人の濃い面子がマックス・エルンストの芸術について熱く語っているのだが、澁澤龍彦はこの古めかしさと不安不吉な印象の関係を、こう説明している。
「シュルレアリストたちは、細部の平俗をおそれなかった。博物学の書物の挿絵や広告写真のような平俗なトリヴィアリズムを恐れなかった。なぜかと言えば、私たちを最も不安や驚異の情緒で満たすものは、神の行うような無からの創造ではなく、かえって既知のものの上に加えられた一つの変形、一つの歪曲であるということを、彼らは直感によって知っていたからである。これがつまり錬金術ということだ。 だからエルンストのコラージュに、十九世紀のオールド・ファッションの亡霊たちが出没するのも、偶然ではない。不安や驚異をもたらす使者たちは、多かれ少なかれ、古めかしい相貌を呈しているものだ。」
「慈善週間または七大元素」にはエルンスト自身のシュルレアリスム論がついている。そこには潜在意識の解放による新しい芸術を目指したことが、端的にまとめられている。
「西欧文化の世界には、最後の迷信として、また創造神話のあわれな残滓として、芸術家の創造能力という風説が残っていた。シュルレアリスムのおこなった最初の革命的行為のひとつは、客観的な手段によって、もっとも痛烈なかたちでこの神話に攻撃をしかけることであり、そしてもちろん、この神話を永遠にうちくだいてしまうことであった。それと同時にシュルレアリスムは、詩的霊感のメカニズムにおいて「作者」の役割が純粋に受動的であることをつよく主張し、それとは反対の、理性による、道徳による、あらゆる美的配慮による「能動的な」コントロールのすべてを告発していた。」
魂(潜在意識)の表現という点では最近、話題のアウトサイダーアートにもつながる部分があるように感じた。
・アウトサイダー・アート - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-739.html
マックス・エルンストの影響を受けている作家にエドワード・ゴーリーがいる。ダークでシュールな大人向けの絵本作家だ。ウエスト・ウイングはどこの西棟ともわからぬ建物の中に、不気味な影や魑魅魍魎が見え隠れする。説明は一切なく、すべての解釈は読む者にゆだねられている。余計に怖い。
エルンストのコラージュそっくりであるが、時代が近い分だけ、幾分かわかりやすい。
今、エルンストやゴーリーの世界観をゲームや仮想空間で再現したら、面白そうに思うなあ。