Books-Misc: 2007年3月アーカイブ

・木村伊兵衛の眼―スナップショットはこう撮れ!
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木村伊兵衛(1901〜1974)。20世紀の日本の写真史上、土門拳らと並んで最も有名な写真家の一人である。当時、1台で家が一軒建つといわれたほど高価なライカカメラを片手に、日本と世界の街角でスナップ写真の手法で時代を切り取った。

この本は、木村伊兵衛の代表作品と関係者によるエッセイで構成されている。

「下町育ちで古き良き江戸っ子の粋人ぶりを伝えるエピソードに事欠かない木村のストリートスナップは、「居合術」とも称された。出会い頭にすうっとカメラを構えてパチリ、深追いなしのワンショットである。この人が歩くと、まるで呼び寄せるかのように絶妙のシャッターチャンスが訪れたという伝説もあるほどだ。」

掲載されている代表作は見事である。ページをめくるたびに感嘆する。

有名な街頭スナップだけでなく、女性のポートレートも素晴らしい。

どうやったらこんな表情を撮れるのか?。女優や芸者や祭りの踊り子たちが白黒写真の中から闇の中の真珠のように浮き上がる。艶やかで光を放つ眼が凄い。敢えてぼかされたピント具合が女性の魅力をありえないほど引き出している。

写真家アラーキーのように被写体の女性にこまめに声をかけて雰囲気をつくる人ではなかったようだ。撮影現場にふらっと現れて「なんにもしなくていいです。そこに自然にしてくれればいいです」とだけ伝えて、私どうしたらいいのかしらと戸惑いがちな女性をパチリパチリと撮影したものだという。実はそれが女性の可愛らしさを引き出す極意の術だったのかもしれない。

「相手方から受ける感情を写して行くという内面的なつかみ方と雰囲気をつかんで行って、その中から対象を描き出すという、まわりから入っていく方法」と木村伊兵衛は自身の写真について語っている。

被写体になった人や関係者の証言によると、木村伊兵衛の撮影はあっけないほど短時間に終わってしまうものだったらしい。いつのまにかパチッと撮っているので、撮影されたのを気がつかない人もいたほどである。作為に染まらない自然を写すことを狙ったらしい

この本の面白さのひとつに木村伊兵衛の36枚撮りフィルムのコンタクト(ネガ一覧)が何枚も全部掲載されていること。最終的に作品として木村が選んだ、ひとつかふたつに○がつけられている。その前後に撮影したボツ写真が一緒に見られるのが勉強になる。本当に撮り直しをしない人であったようで、一期一会の居合い斬りに賭ける写真家だったことがわかる。

誰にでもできて奥が深いスナップショットの可能性について知りたい人におすすめである。

・Yahoo!インターネット検定公式テキスト デジカメエキスパート認定試験 合格虎の巻
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004918.html

・地球のすばらしい樹木たち―巨樹・奇樹・神木
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仕事から帰って深夜にひとりでぼおっと見ている本。

英国の貴族で歴史学者トマス パケナム伯爵は1998年に、英国中を旅して巨樹・奇樹・神木を見てまわり、精選したベスト60本の樹木の写真集「Meetings with Remarkable Trees」を出版して絶賛された。これは、その著者が2002年についに世界のベスト60本を選んだ「Remarkable Trees of the World」の日本語版である。大判サイズで重たい、いかにも巨木の本らしい装丁だ。

収録されているのは、どの樹木も味わいぶかい名木である。一本一本が独自のオーラを放っており、特別な樹であることが一目瞭然である。静かに見入っていると風に揺れる木々ざわめきや、朝靄のさわやかさ、太陽のにおいがページの向こうから伝わってくる。

100メートル以上、樹齢何千年、将軍という名の、レッドウッドの巨木に圧倒され、異界に迷い込んだかのような幻想的なバオバブの林に目を奪われる。日本の木も3本ある。日本の老樹は神木である。

写真集だが解説の読み物部分が充実している。それぞれの樹木に伝わる伝説や撮影時のエピソードが見開きの半分を占める。本のサイズが十分に大きいので、片面に解説、片面に写真のレイアウトは正解だと思う。見開き全部を写真に使ってしまうと、中央の綴じ部分が見にくくなってしまうから。最初に写真を心ゆくまで味わい、記事を読んでから、また写真を味わう。じっくりと読みながら長時間、鑑賞できる構成が秀逸。

ここに選ばれたものは老木が多いのだが、半分枯れた樹よりも、力強く生きている樹が魅力があるように思う。樹木が輝くには単体ではだめで、周囲の環境も大切な要素だと知った。中くらいのサイズの樹木に取り囲まれる中で、際立って大きく美しい樹木こそ神々しくみえるものだ。

日本の樹木も神々しさでは上位にあると感じる。屋久島はいつか訪れてみたいと思った。
異彩を放つのは何本も収録されているアフリカのバオバブの樹。著者はバオバブの樹木で別に写真集を出版しているが、この本においても、大きなバオバブの素晴らしさは特筆すべきものがあった。それが立ち並ぶ様は幻想的、人類の原風景といえるものかもしれない。

世界中の選りすぐりの樹木をいつでも大判の写真で鑑賞できる。飽きずに長く楽しめる素晴らしい写真集である。

・WELCOME TO THE TULLYNALLY CASTLE AND GARDENS HOMEPAGE
http://www.tullynallycastle.com/
伯爵である著者の城。

本当に素晴らしい写真集読み物。