Books-Misc: 2005年5月アーカイブ

・[最新版] IT・ネット業界地図
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■業界を鳥瞰する会社四季報図解シリーズ

これは新入社員向けの本なのだと思うけれど、業界にドップリな人は逆に大きな地図を忘れていたりもする。各分野のベスト3の会社名と規模感をすぐに確認できるのがうれしい。

国内編25業界、海外10業界の全体像が解説されている。

・国内編25業界

1 インターネット
eコマース、ネット広告、ネット金融、音楽配信、ポータル(検索サイト)

2 IT・コンピュータ
パソコン、コンピュータ、ITコンサルティング、ITサービス、半導体

3 通信・ブロードバンド
移動体通信、固定電話、ブロードバンド、ブロードバンド映像配信、携帯電話端末

4 エレクトロニクス
薄型テレビ、デジタルカメラ、DVDレコーダー、プリンタ、複写機

5 コンテンツ
映画、音楽、放送、アニメ、ゲーム

・海外編10業界

eコマース、ポータルサイト(検索サイト)、コンピュータ(PC、サーバーなど)、ソフトウェア(OS、アプリなど)、通信、携帯電話端末、デジタルオーディオプレーヤー、プリンタ、複写機、映画、メディアコングロマット

カラーの円グラフや棒グラフや関係図を多用して、各市場の規模、市場シェア、ランキングが収録されている。企画書に引用して使えそうな数字がたくさん。市場の成長予測(A〜Eの5段階評価)で業界の有望度がつけられているのも、予想の確度はともかく知らない分野では参考になる。

■時価総額と企業の存在感、影響力

巻末につけられているIT・ネット業界の時価総額ランキング(主に2004年度の数字)も興味深い。上位を項目抜粋、引用させてもらうと以下のとおり。

   会社名    時価総額  予想売上高 連結従業員数
1位 NTTドコモ   8兆8千億円 4兆8千億円 2万1千人
2位 日本電信電話 7兆4千億円 10兆8千億円 20万5千人
3位 キヤノン   5兆1千億円 3兆6千億円 10万8千人
4位 ソニー    3兆9千億円 7兆1千億円 16万2千人
5位 松下電器産業 3兆9千億円 8兆8千億円 29万人
6位 ヤフー    3兆6千億円 1164億円  994人

11位 ソフトバンク 1兆5千億円 8千3百億円 1万人

ヤフーなどネット企業は時価総額では他の企業と肩を並べているものの、売上高と連結従業員数の少なさが目立つ。やはりネット企業の株価は高いのだ。ただ社会にとっての重要性や影響力はまだその株価評価に追いついていないとも感じた。販売しているモノ(サービス)が違うという要素もあるが、売り上げや従業員数の背後には、関連会社、取引会社の数や給与を得て生活している従業員の生活がある。存在感の違いが以前より、漠然と気になっていたが、この数字で分かった気がした。

実際、上位5位までが突然、倒産してしまうと具体的に私の生活やビジネスには支障がでると思われる。電話や携帯が使えなくなったり、テレビやプリンタの故障が直せなくなったり、来月の大きな入金予定が消えてしまったりする。ネット企業の場合、ヤフーやソフトバンクや楽天やアマゾンが突然消えると大変、寂しい気はするが、たぶん、生活はなんとかなるだろう。生活や人生への浸透度という点では、旧勢力企業は、時価総額とは違った重みが感じられる。

もちろん、年々、ネットのサービスも生活に欠かせない要素として成立し始めている。10年後、このランキング上でネット企業の存在感はどう変化しているだろうか。

・ネット株価情報
http://netindex.jp/
ネット企業の株価が一覧できる秀逸なサイト。

・これから情報・通信市場で何が起こるのか IT市場ナビゲーター
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003069.html

・著作権とは何か―文化と創造のゆくえ
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■文化の発展と著作権

著作物の定義は以下のとおりで、

「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第二条第一項第一号)」

ある作品が著作物であるとき、著作権が生じる。

著作権者はその利用を禁止してコントロールすることができる権利=著作権を持つことになる。その権利の内容は多様で、複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権・翻案件、二次的著作物の利用権などがあるとされている。

そもそもなぜ著作権という法律があるのか。それに対して著者は、


著作権の最大の存在理由(少なくともそのひとつ)は芸術文化活動が活発におこなわれるための土壌を作ることだと筆者は考えています

と述べている。これは著作権法の条文を解釈したもの。原文は以下のとおり。

・著作権法
http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html

第一章 総則

第一節 通則
(目的)
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

(昭六一法六四・一部改正)

本来は経済の発展のためではなくて文化の発展のために作られた法律である。もしもコントロールを認めることで文化や芸術の発展が阻害されるようなことがあれば、著作権法を見直すことが必要だというのがこの本の結論。

著作権の基本から、チーズはどこへ消えた、プリティウーマン、脱ゴーマニズム宣言、どこまでも行こう、ライオンキングとジャングル大帝、NapsterとWinnyなど最近の裁判の事例を挙げて、丁寧に今の問題点を指摘している。

実は、この本を読んだ動機があった。

■テレビ録画と著作権

先日、池田信夫氏が主宰する情報通信政策フォーラムのセミナーに参加してきた。「録画ネット」の問題である。大変、テンポラリなテーマで会場、参加者討論にも有名な論者が多数登場して白熱していた。

・情報通信政策フォーラム ウェブサイト: 第2回「ハードディスク録画サービスと著作権」
http://www.icpf.jp/archives/2005-04-22-1939.html

録画ネットは、海外にいるユーザから預かったPCを社内に置き、インターネットに接続することで、持ち主だけが海外から日本のテレビを録画視聴できるようにしたサービス。テレビ局の提訴を受けて、裁判所はサービス停止の仮処分を下した。

インプレスのインターネットウォッチが簡潔に状況をまとめているので長めだが引用させてもらう。

・テレビ番組録画サービス「録画ネット」を巡る法的議論
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2005/05/20/7690.html

録画ネットのサービス内容は、当初の形態ではユーザーがエフエービジョンから録画用のPCを購入し、そのPCをエフエービジョンの用意した事務所(千葉県松戸市)内に設置(ハウジング)するという、売買契約と寄託契約がセットになった形態を取っていた。その上で、ユーザーは自分が購入したPCにインターネット経由でログインして録画予約を行ない、保存された録画データを自分のPCにダウンロードもしくはストリーミングの形で視聴する、というのが基本的な利用形態となっていた。また、各PCはユーザーが自由に利用できるため、いわゆるインターネットストレージとしての利用や、Webサーバー等を動かすことも可能となっている。

 各ユーザーのPCに対しては、エフエービジョン側で用意した共同アンテナからアンテナ線を分岐させることでテレビ信号を分配。またログインの認証はエフエービジョン側で用意したサーバーで一括して行ない、その際にサーバー側では不正ユーザーでないことを確認すると同時に、複数の人間がIDを共用することを防ぐため、同一IDでセッションが張られている場合はそのセッションを切断する形になっていたという。

 この録画ネットのサービスに対して、NHKと在京の民放5局は2004年7月、サービスの停止を求めて東京地裁に仮処分を申請した。

これ、基本的には自分の自宅や実家にテレビ録画PCを置いて、自分が海外から見ている場合問題にはならないらしい。どこにPCを置いているかの違いに過ぎない。そもそもソニーは堂々と、外出先(海外含む)から国内においた自分のPCを通じてテレビを視聴するマシンを販売している。またそのサービスを有料パックとして7月から開始する。

・ソニー、ワイド7V型液晶付属の「ロケーションフリーテレビ」
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050201/sony1.htm
「有線LAN環境と無線LAN環境での利用が可能で、外出先からテレビや家電製品の映像をリアルタイムで視聴できる「NetAV」機能も搭載する。新たに無線LAN経由での利用が可能となり、ベースステーションを自宅に待機させたまま、ディスプレイ部を持ち出し、外出先で無線LAN/Ethernet経由でブロードバンド環境に接続すると、ベースステーションのテレビチューナや、ベースステーションと接続したハイブリッドレコーダなど外部機器の映像をインターネット経由で視聴できる。」

・So-net、「ロケーションフリーTV」を外出先で見るパック
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050527/scn.htm
「ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社(SCN)は、同社が運営するプロバイダSo-netにおいて、ソニーの「ロケーションフリーテレビ」(LF-X5/X1)を使って外出先から自宅のテレビや録画済みコンテンツを視聴できる「ロケーションフリーテレビまるごとおまかせパック」を7月1日より提供する。」


池田信夫氏はブログ上で、(著作物という点ではテレビもWebも一緒なので、Webを中継するISPと同じという解釈らしい)、


「インターネットを通じて録画できる事業者が、録画機器を継続的に管理する場合、録画の主体は事業者であり、すべて違法である」

これはウェブ・ホスティングやデータ・センターなどにもそのまま当てはまる。この主張が認められたら、全国のホスティング・サービスはみんな違法ということになるだろう。」

と裁判所の決定に対して批判的に感想を書いている。

「どこでもいつでもテレビが見たいよ」と思うユーザはP2Pアプリケーションのユーザより、ずっと多いはず。なぜいけないの?と思うケースが増えてくると思われる。こうした議論が、著作権の見直しの切り込み役になっていくかもしれないと思った。

・教えること、裏切られること―師弟関係の本質
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考えてみれば、MixiやGreeが可視化している人間関係は、横のつながり、フラットで対等な人間関係がほとんどだ。日常の人間関係を探しても、組織上、制度上の一時的な役割としての、先生と生徒、先輩と後輩、上司と部下という関係はあるわけだけれど、全人格的で永続的な師弟関係というのは、現代では珍しい存在になってしまった。

著者はそうした現象をこう述べている。


戦後五十年を通観すればただちにわかることだが、その人間関係主義の大合唱の中から師弟関係という人生軸が、はじめから徹底的に排除されていたのだ。師弟関係という垂直軸を無視し否定することによって、人間関係という横並びの水平軸がいつも不安定に揺れつづけることになったのである。


その近代の宿命とは何かといえば、ヒトを師とするよりもモノ(文明)を師とする時代がはじまったということではあるまいか。ヒトを師としていると思っているうちに、いつのまにかモノを師と思い込み、モノに師として仕えてしまっていた。この場合モノというのは私の中では、もう一つ「主義」とか「思潮」といった言葉としてイメージされている。」

人としての師が要らなくなったのが近代から現代にかけての時代の変化だととらえられている。

この本では古典的な師弟関係の最後の世代である、近代日本における代表的な師弟関係が例として取り上げられる。

・孤高の僧、藤井日達と私
・弟子を持つの不幸――内村鑑三と斉藤宗次郎
・父なるものへの回帰――夏目漱石と和辻哲郎
・宿命のライヴァル――柳田国男と折口信夫
・究極の「師殺し」――棟方志功と柳宗悦
・師資不相承、ここに極まれり――正岡子規と高浜虚子
・親鸞、弟子捨ての真意
・師の人格をいかに相続するか
・『歎異抄』にこだまする唯円の叫び声

そして、師弟の人間関係軸には3つのパターンがあるという。

1 老子の道
弟子を一切寄せつけない孤高の師

2 孔子の道
弟子とともに生きる師

3 禅の道
乗り越え、殺すべき師

事例に取り上げられているうち最も多いのが、3の弟子が乗り越え、殺す師である。師は弟子を教え、弟子はやがて師を乗り越えて、新しい道を切り拓く。その過程で師は弟子に否定される。裏切られる。殺される宿命にある、という意味だ。のんびりMixiやGreeに登録できるようなぬるい関係ではないのである。

師弟は殺るか殺られるかの緊張関係であってこそ本物だ論。なかなか現代になじみにくいが、これもひとつの究極の教育の形なのだろうなと勉強になった。