Books-Media: 2010年8月アーカイブ
アメリカの新聞の凋落ぶりは日本の比ではないということがよくわかる本だ。
NYタイムズは3年間で社員の3分の1をリストラ、サンフランシスコ・クロニクルも社員の半数を解雇、シカゴトリビューンは破産、ワシントン・ポストは全支局を閉鎖...。2009年だけでアメリカの日刊紙は50紙が廃刊してしまったそうだ。紙では採算があわないのでインターネット版での発行へ移行する新聞社が多いが、有料化はうまくいっておらず、従来の高コスト体質では新興ネットメディアにかなわない。未来は相当に厳しいようだ。
米国ではまず中小の地方紙が次々に廃刊に追い込まれている。地域の住民たちは地元の情報が入ってこなくなってしまったと嘆いている。新聞を補完するといわれるブログやツイッター、新興ニュースサイトでは注目が集まらない場所の情報は出てこなくなる。地方行政への影響も懸念されている。
米国の新聞業界事情、収益構造が異なる日本の新聞業界事情、そして米国とアメリカの新聞はどうなっていくのかを、ファクトとデータをもとに、NHK報道局勤務の著者が考察している。新聞の未来を考える最新の材料としておすすめ。
新聞にとっては暗い話題が多いのだが、あとがきに興味深い事実が出ていた。先進国では消滅していく紙の新聞だがブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどでは発行部数が増えているのだ。インド、中国では発行部数が1億部を超えている。人口が多い国での増加傾向を考えれば、実はグローバルではむしろ新聞発行って増えていくのではないか。アメリカや日本ではそろそろ終わりでも、世界規模では新聞がこれからのメディアなのかもしれない。
最近、私の家では紙の新聞を取り始めた。しかも朝日新聞と朝日小学生新聞の2紙。私は90年代から紙の新聞をとっていなかったが、それは皆が読んでいる情報に希少性がないと思っていたからだ。だが、皆が新聞を読まなくなっていくなら(若年層は数パーセントしか読んでいない)、むしろ新聞に書かれている情報は貴重である。1000万部のメディアとして残れなくても、私みたいなアマノジャク読者の市場は、少なくとも今の若年層読者より多いのではないだろうか。日本の新聞は結局100万部くらいのメディアに落ち着くんじゃないかなあ。
次に来るメディアは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/post-1224.html
・版元ドットコム大全〈2010〉―出版社営業ノウハウと版元ドットコム活用術
先日出版した「電子書籍と出版」でお世話になったのが、版元ドットコムの沢辺さんでした。出版社連合体としては第3番目の規模の勢力だそうです。
・版元ドットコム
http://www.hanmoto.com/
版元ドットコムは、163社の版元による、サイトでの本の販売、書誌情報提供や流通改善を追求する団体である。
中小の出版社の連合体が
(1)書誌情報を版元自身がつくって、読者に、出版業界に広く公開する
(2)書誌情報をできるだけ詳細なものにする
(3)出版事業にかんする情報の交換、ノウハウの共同した獲得
という目的を掲げて協力している。
この小冊子はその活動成果、ノウハウの紹介と入会案内である。基本的には一般読者ではなくて出版社向けの内容。
版元ドットコムのデータベースは、書誌の登録点数は33000点と多くはないが、内容はAmazonのデータよりも詳しい本もある。
たとえば先日共著者として出版した「電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア 」では、
・Amazon:電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4780801494/daiya0b-22/
・版元ドットコム:電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7808-0149-1.html
版元ドットコムのほうがかなり詳細であることがわかる。
読み物として、出版業界の専門用語を、版元ドットコムの会員有志で解説した「出版業界辞典」が、業界人にとって大切なポイントをおさえて書かれており、前から知りたかったことがよくわかった。
出版社は国内に4000社くらいあるといわれるが、大半は中小零細規模である。大手出版社に対して、ネットで連合体を作って何ができるか、この団体の可能性に注目している。