Books-Media: 2010年1月アーカイブ
"新潮文庫の100冊"というキャンペーンは文庫本マーケティング史上、もっとも成功した宣伝文句ではないだろうか。10冊でなく、1000冊でもなく、100冊というのがよかった。よりぬきの名著をお手軽に探すなら新潮文庫の100冊(毎年入れ替わるようだが)を当たればいいという感じがするし、全部読破に挑戦する気になる絶妙な数だから(何度か学生時代に挑戦して挫折した記憶が...)。
・新潮文庫の100冊サイト
http://100satsu.com/
この本はその新潮文庫の100冊で20世紀を振り返る。
1901年(明治34年)から2000年(平成12年)まで、新潮文庫になった本から毎年1冊ずつその年の代表作を選出し、あらすじと内容解説、世の中の動きデータを見開きにおさめた。100冊は編集部討議で選び、本書の著者が全部読み直して、内容解説を書いた。この解説文はもともとは「20世紀の100冊」特別カバーに印刷されたものだそうだ。
20世紀の名著選び。これに異論はいくらでもあるだろうが、新潮文庫化されたというフィルターがかかることで、それなりに納得感のある100冊になっている。やっぱり読んでおこうというのが、いくつか見つかったのが収穫。
あくまで100年間を21世紀現在から振り返る企画だ。歴史的な観点から価値の高い100冊とみていいだろう。仮に100年間、その年の1冊を選び続けたら100冊のラインナップはどんなだったのか気になる。
このブログで取り上げた本は2冊あった。朗読者はちょうど映画化されたところ。
・朗読者 ベルンハルト・シュリンク 2000年の1冊
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/post-818.html
かつて愛し合った男女が一度もことばを交わすことなくプラトニックな関係を何十年間も続ける。別の人生を歩んだ二人だが、そこには切ることの出来ない絆があった。その関係性は「恋愛」とか「友情」のような、わかりやすい既成の言葉に収まらないものだ。読者の年齢や経験によって多様な解釈が生まれそうだ。
・孔子 井上靖 1989年の1冊
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/11/post-168.html
主人公は孔子ではなく、架空の愛弟子。孔子没後数十年が経過して、孔子の研究会が盛んな時期に、師の教えを弟子が回想する独白形式で小説は進んでいきます。この研究会の成果がやがて「論語」として出版されることになるわけです。執筆時、井上靖は80歳。主人公の弟子が語る孔子観や、孔子の言葉の解釈は、著者自身の解釈でもあるのでしょう。
なお、この「新潮文庫20世紀の100冊」は新潮文庫ではなくてなぜか新潮新書である。