Books-Media: 2008年3月アーカイブ
毎日新聞社が戦後まで保管していた第二次世界大戦中の報道「不許可写真」が2冊の本になったもの。軍部の検閲により写真には「検閲済」「不許可」などのハンコや赤ペンでの修正指示がびっしり書き込まれている。「検閲済」は新聞掲載がOKという意味で、不許可はダメということである。
実はこれらの不許可写真の多くは物凄い秘密が写っているわけではない。そこに写っているのは戦争の日常で、戦闘シーンだけでなく休息する兵士たちのようなのどかな写真も含まれる。
検閲には明文化された規則があって、全文が掲載されているが、要約すると
・飛行機や飛行機事故の写真
・旅団長(少将)以上の写真
・軍旗が写った写真
・多数の幕僚の集合写真
・司令部、本部名などの名称がわかる写真
・装甲車や戦車、艦船や戦闘機の写真
・輸送・移動の様子がわかってしまう写真
・捕虜や敵兵を逮捕尋問している写真
・死体の写真
などがダメだった。現場の検閲官の裁量で微妙な判定が行われるケースもある。
修正すれば可というのもある。たとえば山の稜線が写っている写真は場所の特定に結びつくのでそこを削るように指示される。肩章が映った兵士の写真は肩章部分を修正で消すように指示される。
何百枚もの写真と検閲理由の解説を見ていくと、読者の眼は当時の検閲官の眼になる。途中からは9割くらい、次の写真が許可なのか不許可なのか、修正を入れるとしたらどこに指示をするかが、わかるようになってしまう。
テリー伊藤が解説で面白いことを書いている。「不許可にした写真でも、軍はネガを没収しなかったというのは、多分、「お役所」なんですね。許可をしない、掲載しない、というお役所仕事だったから、ネガを没収するというのは別の「仕事」なんですよ。」。検閲するほうも、されるほうも、なんだかんだいって同じ民族だから信用していたのではないかという。
当時の新聞社は軍の検閲を受けて、この写真は不許可という指示を与えられていたが、この写真を使えとは言われていなかった。民間企業として残された新聞社は、軍の検閲と馴れ合いながらも、軟禁状態の言論機関として情報を発信していた。国家のプロパガンダ機関として徹底しなかったのが日本の情報統制の弱さだったという指摘があった。
なにか歴史をひっくり返すような中身があるわけではないのだが、戦時中の検閲そのものを体験できる貴重な写真集であると思う。