Books-Management: 2011年5月アーカイブ
話すこと、書くこと、伝えることの基本要素を整理する教科書的な新書。感情や意志の伝達の原理と効果的な方法論を教える。
コミュニケーションには効率性と効果性のふたつの面があるという話が面白かった。
「伝達には効率と効果が大事である。ここで効率は量の問題で、これは費用と時間で計られるものである。費用も時間もかからないのが効率的な伝達手段である。たとえば、会いにいって要件を済ますより、メールで済めば費用も時間も少なくて済む。つまり、効率がいい。一方、効果は質の問題で、これは伝達目的がどのように達成されたかで計られるものである。メールで用事が済んでも、相手の感情を害してしまったら、メールでの伝達は効果的ではなかったことになる。」
効率性では電子メディアは最高のメディアである。瞬時に何百人でも何千人にでもメッセージを送り届けることができる。しかし電子化効率化の時代だからこそ、わざわざ訪ねてきてくれるとか、花を送ってくれるとか、会食に招待してくれるとか、非効率なメディアは非効率であればあるほど、感情的に伝わる部分が大きい感覚がある。メールで済むのにわざわざという価値が相対的に上がってきたように思う。時代錯誤の「血判書」で大きな商談を成立させた現代の経営者の話を思いだしたが、非効率で効果的を狙うのもひとつのテクニックである。
話し方では、やっぱりこれだなとしみじみ思ったのが、
これから何を話すかを話す(序論)
内容(中身)を話す(本論)
何を話したかを話す(結論)
という序論、本論、結論の組み立て方。これは私も長年のプレゼン経験で、なにか特別な狙いがない限りはこの方法がベストだと、たどりついた結論と同じだ。序論で本論の目次を予告することで聴衆は長い話を聞く受け入れ態勢ができるし、最後で繰り返すことで、ちゃんと聴いていなかった人も、一応聴いていたことにできる、それって重要である。話す側にしても、最後に何を話して終わるかを悩まなくてもよくなる。
コミュニケーションの要素を棚卸して、何が自分に足りないかを考えるてがかりをくれる一冊。
・パブリックスピーカーの告白 ―効果的な講演、プレゼンテーション、講義への心構えと話し方
元マイクロソフトの開発者で『イノベーションの神話』の著者で、現在はプロの講演家として活躍するスコット・バークンによるプレゼンテーション実践術。特にIT業界にありがちなパワーポイント・プレゼンの改善点がたくさんみつかる。
著者が示した「よい準備」
1 講演のタイトルに対して確かな立場を示す
2 目の前の聴衆について注意深く考える
3 具体的な論点をできるだけ簡潔に表現する
4 知的な専門家の聴衆からのありえそうな反論を知っておく
「何が要点で、聴衆の注意を向けたものからどのような洞察が得られるのかに対して、意識的であってください。」
自戒含めて我が業界でよくあるのが、目の前の聴衆の反応よりも、準備したスライドを消化することを優先してしまう一方的なプレゼンだ。しかもそのテーマがコミュニケーション、インタラクティブ、ネットワークだったりするのだから性が悪い。
偉大なスピーカーはどうしているのかというと「マーク・トウェインやウィンストン・チャーチル、フランクリン・ルーズベルトは皆5つか6つの論点(多くの場合、一つの論点についてほんの二語、三語)を書いた短いアウトラインを備忘録として使い1時間に渡る演説をしていました。あらかじめ充分に考えていれば、あなたの脳が必要とするものは短いリストだけで、話すことのほとんどは自ずから行われていくものなのです。」。キーワードを与えられたら、自動的にひとつのストーリーを話せるくらいには準備をしておくべきだし、専門家ならそれが当たり前だということ。
そして、こんな話もあった。
「スライドや配布資料などの衣装をすべて脱ぎ捨てれば、講演は親密で偽りのないものになります。単純にアイデアを持つだけの人間になります。これが何千年もの間、行われてきた姿です。スライドや小道具を使うコメディアンがほとんどいないのにはもっともな理由があります。そのような道具は聴衆とのつながりを築く妨げになる可能性があるからです。」
講演者がパワーポイントの資料を防護壁にしてその内側に閉じこもろうとする、その臆病さが、講演のライブ性を殺す、場の力を借りた創発を妨げる要因になっている。一切道具を使わないスピーチを練習するのがよいのかもしれない。
それから講演家へのフィードバックループが機能していないを指摘している。
「まったく拍手が貰えないようにするためには、いったいどれほどひどい内容にすれば良いのでしょう?そんな事態は見たことがありません。そして多くの人は拍手を良い結果の証拠だと見なすので、話し手はいつでも満足してしまうのです。ステージを降りて、友人に尋ねます。「どうだった?」返ってくるのは「良かったよ」という答え。そして以下同様というわけです。」
これは講演後にTwitterやブログに書きこまれる、見知らぬ参加者の評価を見るのがよいのだろう。そういえば最近こんなニュースもあった。
<ニコニコ動画>六本木に新施設「ニコファーレ」7月オープン 壁面モニターでコメント"体感"も
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110522-00000013-mantan-ent
「ユーザーたちの「コメント」がモニターに表示され、来場者は360度取り囲むように流れるコメントを"体感"できる 」
ちょっとした恐怖体験でもあるが...究極のフィードバック空間だろう。
ニコニコ動画では、スピーカーの話す内容以外への突っ込みも多いものだ。聴衆は講演の音声だけを聴いているのではなくて、資料と本人を一体の映像として見ているということも、忘れがちなことだ。
非言語の重要性を調べるため著者が仕組んだ実験が笑えた。立派な風貌をして、権威ある話し方のできる役者を雇って、矛盾する内容と無意味な参考文献を挙げるデタラメな講演をさせたところ、多くの聴衆が高い評価を与えたというもの。
だから、
1 信頼度は主催者に依存している
2 外見は大切です
3 熱意が大切です
とのこと。
スピーチの天才100人 達人に学ぶ人を動かす話し方
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/04/100-4.html
スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/08/-18.html
人を幸せにする話し方―仕事と人生を感動に変える言葉の魔法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1070.html
ブライアン・トレーシーの 話し方入門 ー人生を劇的に変える言葉の魔力
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-838.html
・たった2分で人の心をつかむ話し方(CD付)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/cd-1.html
・「頭がいい人」が武器にする 1分で話をまとめる技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004383.html
・「感じがいい」と言われる人の話し方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004992.html
・話し方の技術が面白いほど身につく本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001029.html
・人生を変える黄金のスピーチ〈上〉準備編―自信と勇気、魅力を引き出す「話し方」の極意
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001456.html
・人生を変える黄金のスピーチ〈下〉実践編―自信と勇気、魅力を引き出す「話し方」の極意
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002404.html
・人を10分ひきつける話す力
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003857.html
・「できる人」の話し方、その見逃せない法則
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000445.html
・ハーバード流「話す力」の伸ばし方!―仕事で120%の成果を出す最強の会話術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000228.html
・その場で話をまとめる技術―営業のカリスマがその秘密を大公開!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003713.html
友人のいしたにまさきさんと松田ぱこむさんの共著。
デジタル化情報整理術というタイトルですが、実は内容の8割は「自炊」の本です。もちろん独り暮らしのお料理レシピではなくて、積み上がった書籍を自らの手でスキャナーにかけてデジタル化する方の自炊です。
持っている本、雑誌、名刺、書類のすべてをデジタル化して、PCやケータイからいつでもアクセスできるようにしたいと思う人におすすめの本です。自炊に取り組む人にとって、非常に実践的で、ノウハウの詰まった内容になっています。
本や雑誌の綴じ部分を断裁して、スキャナーでデジタル化する。おすすめのスキャナー、断裁機の紹介や、スキャナー付属ソフトの使い方、作業を円滑に進めるためのポイントなど、極めて具体的です。
実は、具体的過ぎて何のことかわからない記述もいっぱいありました。製本によって異なる断裁方法、スキャナーの読み取りモードの設定法など、そもそもどのような問題が起きるのか、私は知りませんでした。だって私は一度も自炊をしたことがないのですから。
じゃあ、なぜこの本を紹介するのかと言うと、
「第7章 その道の"プロに聞く"デジタル化スタイル」
で、私なりのデジタル情報整理に対する考え方を5ページほど寄稿させていただきました、ということなのです。デジタル化をどう仕事やプライベートに活かしているか、手放せないアプリと使用方法、うまくいかなかった情報整理術や使わなくなったデバイス、情報のインプットアウトプットのマネジメント法などについて書きました。
自炊にかなり興味があって、おまけとして私の5ページが気になる方、ぜひ一冊レジへお運びください。よろしくお願いします。