Books-Management: 2010年9月アーカイブ
・日本型プロフェッショナルの条件―アメリカ的論理思考では問題は解決できない
ヘッドハンティング会社社長で、経営大学院の教授で、僧侶というプロフィールの著者が語った日本型プロフェッショナル人材論。何をしているかと問われたとき、日本人サラリーマンは「私は○○会社の△△です」と答えてしまう。この本はそうではなくて「私の専門は○○です。現在は△△会社に勤めています」と答える生き方のすすめだ。
プロフェッショナル=専門家のフリー独立ではない。日本の企業文化に合わせた日本人のためのプロフェッショナル論なのが特長だ。
「どこにいようとも、自立したプロフェッショナルとしての生き方は追求できます。同じ会社にずっといようとも、転職しようとも、常に自分なりに専門性を磨き、高い倫理観と規範を持ち、公益に寄与するという観点から自分がなすべきことを決断し実践していく。このような生き方をしている人を「日本型プロフェッショナル」と私は呼びたいと思います。」
そして条件はもうひとつある。
「日本型プロフェッショナルのもう一つの条件になるのが、特定の分野で「一流」と呼べるような専門性を持っていることです。その分野で一番になる、あるいは、同業の人々から一目置かれるくらいの尖った専門性が必要です。」
直観か論理思考か、比較優位か個性化か、他力か自力かなどという二項対立を超えて、どちらも大切であるというアジア的中庸の価値提案が多いのは、やはり著者が僧侶だからなのかもしれない。メタのフレームワークでアメリカ的論理思考の限界を飛び越えていく。啓発的。
「組織の中で人より早く出世しようというような私利私欲による動機づけではなく何かのために動こうと自分を動機づけられる人が、真の意味のリーダーです。」
この本の著者の安永雄彦先生を招いた読書会があります。私がファシリテーターです。
詳しくは下記。
・ビジネス書の読書会とセミナーで"ソーシャル・リーダーシップ"を学ぶ 多摩大学大学院IKLS主催 ソーシャル・リーダーシップクラブ お申し込みなど
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/08/ikls.html
【ソーシャル・リーダーシップコミュニティ】
書評アルファブロガー、橋本大也(研究所客員教授)のナビゲートで話題の本、話題のテーマについて、直接著者をお招きしながら対話形式の読書会を実施します。ソーシャル・リーダーに興味をお持ちの皆さまが場を共有し、成長できる実践的学習の場造りを目指します。
・費 用 1回3,000円
・会 場 都内(品川を予定)
第一回:開催日時10月28日 18:30~20:00
特別講師 安永雄彦様
指定図書「日本型プロフェッショナルの条件」グロービス経営大学院大学教授、エグゼクティブ・サーチ会社の代表を務めると同時に、
浄土真宗の僧侶でもあるという著者と共に、
日本型のプロフェッショナルのあり方について考えていきましょう
お申し込みはこちら
http://www.ikls.org/archives/217
ハーマンミラー社の伝説のCEO マックス・デプリーが1987年に書いたリーダーシップ論の古典。ドラッカー、トム・ピーターズ、クリントン元大統領など著名人が絶賛している。
リーダーシップに必要なのは、誠実さ、関係を築き育む能力、コミュニティの構築。権力によるマネジメントから説得によるリーダーシップ、そして現代的な参加型マネジメントへ。20年前に書かれたと思えない内容。やっとこの本の中身に時代が追いついてきた。
「リーダーシップは「アート」だ。時間をかけて身につけるものであり、たんに本を読んで学ぶものではない。リーダーシップは科学というより伝承であり、情報の蓄積というより関係の構築なので、その意味では、私はそのすべてを明らかにする方法を知らない。」
コミュニケーションと関係構築にマニュアルは通用しない。人の心に響くのは誠実さや信念にもとづくリーダーシップである。著者はそのあり方を「リーダーシップで大切なのは、優秀な頭脳ではなく、全身のたたずまいだ。」と表現している。確かに偉大な経営者にはたたずまいがある。
リーダーが多様性をまとめるプロセスで大切なのは「思いきって他人の強みに頼る」ことだという。偉人たちに「場」を与えて、彼らに"遊軍リーダーシップ"を発揮させるのが、優れたマネージャーの仕事であり、著者の具体的な経験なのでもあった。
「組織で働くもっとも優秀な人々は、ボランティアのようなものだ。どんな組織においても好条件の仕事を得られる彼らは、給与や職位よりもっと把握しにくい理由で仕事を選んでいる。ボランティアに契約はいらない。「心の関係」が必要なのだ。」
部下が内発的なモチベーションによって、高い能力を持続的に発揮させる環境=良質なコミュニティをリーダーはつくりだせ。20年前の本だが、現代のフラットでネットワーク型組織におけるソーシャルリーダーシップを先取りしていて、今読んでも啓発される。
ドラッカーの名著『経営者の条件』(原著1964年出版)の最新訳。英語の原題は「The Effective Exective」である。経営者の条件と訳されているが、『できるエグゼクティブ』の本である。ドラッカーは上司に命じられたこと以上の仕事をする人はすべてエグゼクティブであると言っている。狭義の経営者よりも読者層は広い。
名言、名文が満載の本だが、マイベストのセンテンスを並べてみる。
ひとつめはドラッカーといったら、やはり「真摯さ」である。この本にも出ていた。
「人間性と真摯さは、それ自体では何事もなしえない。しかしそれらがなければ、ほかのあらゆるものを破壊する。したがって、人間性と真摯さに関わる欠陥は、単に仕事上の能力や強みに対する制約であるにとどまらず、それ自体が人を失格にするという唯一の弱みである。」
仕事に全身全霊を傾けて、仲間と心から笑ったり泣いたりできる人というのが、経営者の基本条件なのだ。現実には多くの経営者がその基本条件を満たせていないことに問題があるということは、この本が書かれて半世紀近くたっても変わらない。
そして時間は普遍的な制約条件という考え方。
「成果をあげるには自由に使える時間を大きくまとめる必要がある。大きくまとまった時間が必要なこと、小さな時間は役に立たないことを認識しなければならない。たとえ一日の四分の一であっても、まとまった時間であれば重要なことをするには十分である。逆にたとえ一日の四分の三であってもその多くがこま切れでは役に立たない。」
ドラッカーに言わせたら、ビジネス書にありがちな細切れ時間の有効活用なんてことを考えていてはダメなのである。いかにまとまった時間をつくるかこそ重要なのである。連続して3、4時間はぶちぬきで時間をとらないと、まともな知識労働なんてできないっていうことだ。多くの管理職が間違っている。そして優先順位より劣後順位の決定が重要と。
問題より機会を見よ、もなかなか忘れがちな警句だ。失点を防ぐだけでは勝てない。
「問題に圧倒されて機会を見失うことがあってはならない。ほとんどの組織の月例報告が第一ページに問題を列挙している。しかし、第一ページには機会を列挙し、問題は第二ページとすべきである。よほどの大事件でも起こらないかぎり、問題を検討するのは、機会を分析しその利用の仕方を決めてからにすべきである。」
議題の順番の変更で対応できるから、マネジメント会議ですぐにでも実践しやすいポイントだ。楽しそうなプランを考えることに夢中になって、問題の検討が時間切れになってしまうのではないかと懸念したりもするが、それは会議の仕切りの問題なのであって、本質は問題より機会を見よということの方なのだ。
そして上司の役割。会社に成果で貢献している人を大切にせよ。
「成果をあげるエグゼクティブは、部下が上司たる自分を喜ばせるためなどではなく、仕事をするために給料を払われていることを認識している。オペラの舞台監督は、プリマドンナが客を集めてくれるかぎり、彼女が何度かんしゃくを起こそうと問題ではないことを知っている。最高の舞台をつとめ上げるうえで必要なかんしゃくであるならば、それを我慢することも舞台監督の報酬のうちである。」
自分とうまくいっているか、ではなく、いかなる貢献ができるか、で部下を評価する。特に重要な分野における卓越性を評価する。マネージャーは、わがままなプリマドンナにブチ切れたらダメなのである。エグゼクティブに対して、人間的な度量の大きさを求めるのがドラッカーの経営哲学なのであると再認識。
ソーシャル・リーダーシップクラブ開設のご案内
http://www.ikls.org/archives/217