Books-Management: 2010年1月アーカイブ

・ビジネス・インサイト―創造の知とは何か
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知識創造のダイナミズムとケースリサーチに基づく経営学の有効性を語った新書。暗黙知をビジネスにおいていかに扱うかが大きなテーマ。

「社会の現実は自然界のそれと違って、現在の判断が未来の現実を作っていく」。だから過去を見るだけでは将来の確実な見通しを作ることはできない。ビジネスは常に状況に依存する。法則が再現しないことが多い。実証的な経営には限界がある。しかし、だからといって闇雲に、場当たり的な解決や試行錯誤に頼るのは非合理だ。そこでこの本の言う総合的に情報を勘案して将来を見通す力=ビジネス・インサイトが重要になる。

「そうそう、そういう商品が欲しかったんだ」という需要創造型の商品・サービスは、市場調査の結果からでは作り出すことができない。それまでになかった新しい価値の創造は演繹でも帰納でもないアブダクションからこそ生まれてくる。

「消費者が、どのようなインサイトをもっているのかを、言葉で質問しても答えは返ってこない。無意識の中で行われがちな生活課題設定と課題解決だからだ。そこに、「オブザベーション」という手法の価値がある(西川英彦2007)。消費者を観察し、それを通じて彼の生活を追体験し、彼の課題を自分の課題として理解・共感できることが必要になる。これは、次の章で言うところの「対象である消費者への棲み込み」にほかならない。そうして初めて、その商品に向けてのインサイトが現われてくる。」

ビジネスインサイトを得るには、消費者を観察し、その生活を追体験し、その課題を自分の課題として理解・共感できることが必要になるという。成功したITベンチャーの創業者がしばしば技術者であり、自分が最初のユーザーとしてサービスを設計していたという事実は、まさに対象への棲みこみの典型例だと思う。

現実の経営者はどこかで見切って跳ぶ必要がある。そのとき有能な経営者は跳躍の先に何かが潜んでいることを感じ取り、しかもそれが経営的努力に見合う「価値ある何か」であることの確信を持っているものだという。なんだか超能力みたいに思えるが、人間の才能の真理を突いた表現であるように思える。多くの道で達人と呼ばれる人は、暗黙知の直観で対象を正確に見極めることができる。経営者でも同じことが言えたっておかしくはないのである。

・言語表現法講義
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名著。文章を磨きたいと考えている人は必読。

著者は、物事に深く感動して書くと力強い文章が書けるとか、物事を完全に理解すればいいものが書けるという常識を否定する。

「どんなに感動が深くても、どんなに苦悩が深くても、それは、それとして、文章がいいことの保証にはならないんです。すごく苦しんだ人がすごく凡庸にすごい苦しみを書く、なんて、文章の世界ではザラです。むしろ、すごく苦しむとそれに囚われちゃいますから、余り、苦しまない人のほうがいいかな、というくらいのことさえ言われているんです。」

感動の重力から自由になれ、いったんその感動は伝達不能と思ってあきらめろ。するとヨソから書く契機がやってくる。それは実は「書けない」という抵抗や、間違いのような、一種の妨害者のようなものだと著者はいう。書けないで苦しむと、自分自身のなかではなくて、外から思いもつかぬ方向からゴミが降ってくる。それにぶちあたっていくべきだと言っている。

「話が、その時のいきおいで、ずれる。ヨットが東に行く風を帆に受け、その風で北に行こうとするときには、バタバタと震えるでしょう。そんなふうに、そういうときの文章は、力を持ちます。」

わかったことを書くだけではメッセージを伝えるメッセンジャーボーイにしかならない。立て板に水では、力のないものになりやすい。「さらに考えて、つぎのわからなさまで到達して、そこから書くことが大事です。」という極意が披露される。

まっすぐに書いても伝わらないテーマもある。社会正義のような主題は真っ向から取り組んでも説教くさくて退屈で読み手に伝わらない。この本では、仕事に貴賎はないというテーマを書く際に、その仕事に誇りを持つ父親を娘の視点からドキュメンタリタッチで書いた記事が取り上げられている。するとテーマが嫌みなく自然にはいってくるのだ。

「「ほんとう」のことは、大事だし、それをめがけてしかヒトは生きられないが、しかし、その「ほんとう」のことは、笑い飛ばされる必要があるのです。そうでないと、「ほんとう」のことは、何ものもこれを否定できない僭主のような存在になってしまうでしょう。それは、「ほんとう」のこと自身の望まないことではないでしょうか。その僭主化をふせぐもの、そこに風穴をあけるものが、僕の考えではフィクションなのです。」

この講義が素晴らしいのは、このような極意を概念的な説明に終わらせず、プロの名文や学生の作例を通して、実物で示してくれるところだ。そして多くの書き手が陥りがちな罠にも警句を鳴らす。

たとえば、終わりに美辞麗句を書くな。著者は学生に作文を読んでこう指摘する。

「皆さんの文章、いつも、終り近くになると改行になるんです。気がついているかどうか、原稿が規定の枚数に近づくと、終了モードに入る。そして、最後、だいたい、「こういう世の中は、早く変えられないといけないと思う」か「明るい明日を信じて、なんとかやっていきたいものだ」か、「そんなことを思って暮らしている今日この頃である」かで終わる。 そして、この「まとめ」が、たとえそれまで個人の声を伝えようとしていても、それを台無しにしてしまう。」」

この本は深い。大学の講義を書籍化したものだが、情報伝達のための文章指導に終わっていない。プロの書き手として読ませる文章を追究している。文章を日々書いている人が上を目指すのために効きそう。ここで駄文を日々書き続けている私なんかは、ページをめくるたびにアイタタタと反省しまくりだ。

・文章をダメにする三つの条件
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-860.html

・文章は接続詞で決まる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-856.html

・文章読本 (三島由紀夫)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-837.html

・自家製 文章読本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-797.html

・文章のみがき方 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-737.html

・自己プレゼンの文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004915.html

・日本語の作文技術 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-641.html

・魂の文章術―書くことから始めよう - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-564.html

・「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004702.html

・「書ける人」になるブログ文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004805.html

・スラスラ書ける!ビジネス文書
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004499.html

・全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004488.html

・相手に伝わる日本語を書く技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003818.html

・大人のための文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002489.html

・40字要約で仕事はどんどんうまくいく―1日15分で身につく習慣術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002286.html

・分かりやすい文章の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html

・人の心を動かす文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001400.html

・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html

・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html

・大人のための文章法
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・伝わる・揺さぶる!文章を書く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002952.html

・頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003740.html

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