Books-Management: 2009年11月アーカイブ
この本は好きだなあ。全編に共感。
書店でぱらっとめくったページにあった文章にひかれた。
「クライアントでの会議で沈黙が3秒以上続いたら、広告営業が口火を切り、沈黙を破ること。 これは営業としてのマナーの問題です。」
ベテラン広告営業マンの著者が語るプロフェッショナルの流儀。
「もちろん、本来営業として一番良いのは、日々のコミュニケーションだけでアカウントを取り「戦わずして勝つ」ことです。その次に良いのが、プレゼンになったとしても「戦う前から自分たちの勝ちを確信できる状況」」に持っていけていること。「自分の会社にこの仕事が落ちてくる」という土壌がすでにできている状態です。」
広告営業は形のない物を売る。クライアント、メディア、クリエイティブなど関係者の調整が重要な仕事だ。ロジカルなだけではうまくいかない。ロジカルでありつつも、良好なコミュニケーションをベタに維持していくことが大切な世界。
「キャラで生きられるのは30まで」「嘘はいいが騙してはいけない」「勝敗は、プレゼンの前と後で決まる」「プレゼンで負けても、何か取ってくる」「企画書がなくても相手を説得する」など、行動力+交渉力+計算力=営業力。二十数年の経験から生まれた営業の50個のキーワード解説がある。見開きでひとつずつ形式で読みやすい。
この本は数年間営業を経験した人が読むと受け入れやすいのじゃないかと思う。一見、オーソドックスな箴言にもみえるが、奥が深い考察が多い。広告業界に限らず、あらゆる企画や営業の仕事をする人にとっての基本がある。
仕事を教えてくれる先輩がいないと感じている人に特にお勧め。
「今、この瞬間から、自分の行動すべてをマーケティングリサーチだと思ってみて、いつも通りの生活をしながら、ただほんの少し意識する。たとえ今は必要のないように思える情報もいつかきっと仕事に生きる場面があるはずです。」
共感しまくり。マーケティングは仕事と思ってやっている限りだめということだと思う。
・こころを動かすマーケティング―コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる
2001年から2006年まで日本コカ・コーラ代表取締役社長、2006年より取締役会長を務める"Mr.コカコーラ"魚谷雅彦氏直伝のマーケティング経営論。世界一のブランドを背負いながらも果敢にイノベーション創出に挑戦してきた同氏の話は、どんな学者や評論家の意見よりも、本物だ。本物である証拠に、論旨明快でわかりやすい。
新卒でライオンに入社した一人の若手マーケッターが、幾多の冒険と困難を乗り越えて、外資企業でトップに登りつめるまでの、経営者の履歴書としても読みどころが多い。常に現場を意識し、常識を疑い、逆境に燃える、そしてすべてを楽しむ、そんな生き方が魅力的だ。
日本コカ・コーラはグローバルな同グループの中でも異彩を放っている。単に炭酸飲料のコカ・コーラを販売するだけでなく、ジョージア、爽健美茶、紅茶花伝など日本独自のブランドを創造して、トップブランドに育て上げてきた輝かしい歴史を持つ。時代の精神を代弁するかのような「男のやすらぎ」「明日があるさ」といったCMキャンペーンは、何千万人もの日本人の共感と支持を得てきた。(男の安らぎキャンペーンは懸賞応募者4400万人!)。
日本コカ・コーラの製品を買う客は1日5000万人という。自動販売機で2000万人、スーパーコンビニで1600万人、ファストフードやレストランで900万人、残りがその他という内訳である。缶コーヒーのデザインや味を少し変えるだけでも、日本人の気分に影響を与えうる圧倒的ポジションに同社はいるのだ。そんな会社の舵取り役として著者は何を守り、何を変えようと考えたのか。
「実際、コカ・コーラという製品に関して言えば、「intrinsic value」=基本的な価値は100年以上変わっていないということになります。しかし、「extrinsic value」=付帯的情緒的な価値はどうか。コカ・コーラはまさにこれを時代に合わせて大きく変えてきたのです。」
同社は120年間、コーラの味は変えていないが、時代の変化に対応してブランドの中身を常に最適なものに変えてきた。では「付帯的情緒的ま価値」を創造するには?著者は「顧客は見えているか」「現場に足を運んでいるか」「飛びぬけた商品を展開しているか」という問いかけを忘れるなという。現場や対象に棲みこむことで、顧客の潜在的な心理やニーズ、インサイトを発見することがまず重要なのだ。
そして常に先取りで創造すること。部下に提案書に書いてほしいのは「何が新しい価値か。それだけ」。長たらしい"市場の背景""現状分析"が必要な企画ではお客の心を一瞬でとらえられない、だからだめだ、と教える。根っからの価値創造型マーケッターだ。
「市場の変化に対応することが重要だ、という話がよくされます。でも、それが意味しているのは、お客さまが変わったから、自分たちも変化する、というのではなく、何かそのヒントになるような現象を見て、自分たちからその変化を先取りするということです。 そうでなければ、お客さまは驚かない。もっと言えば、世の中にないものは生まれえない。自動車がないときに、自動車をつくった人がいたのです。ソフトドリンクがないときにコカ・コーラを作った人がいたのです。」
世界で最初に大西洋を横断したのはリンドバーグ、では2番目は誰?と著者は問う。一番手のイノベーターのブランド優位性は追随を許さないものがある。そういう意味でコカ・コーラはまさに王者だが、なお経営トップは新価値創造に挑戦しようとする。恐るべきマーケティングマインド、それが120年繁栄の原理なのだろう。
著者は現在は会長職と兼任して、ブランドヴィジョンという会社を創業し、マーケティングソリューションの事業を展開されているそうだ。NTTドコモなどを顧客に持つらしいが、日本政府やJALがブランド構築の仕事をここに頼むべきだなあ。
・ブランドヴィジョン
http://brandvision.co.jp/
読書というテーマ、10月27日の毎日新聞朝刊で、学校図書調査へのコメンテーターとして、私は写真入りのインタビュー記事を掲載していただきました。Webでもテキストだけ公開されています。
特集:第55回学校読書調査(その1) ブロガー・橋本大也さんに聞く
http://mainichi.jp/enta/book/news/20091027ddm010040173000c.html
私は基本的に面白いからたくさん読んでいるだけで、面白いと気づいていない若者に本の読み方を敢えて語るというのは難しいものです。それで、読書術についてこの本の紹介です。
文芸評論家、作家、元都立中央図書館長の加藤周一著。1962年初版、半世紀前に書かれた本だが内容はなお古びていない。端坐書見なんてとんでもない、本は寝て読めという著者が、ユーモアをたっぷり交えた文章で、楽しむ読書の極意を教える。
「私は学生のころから、本を持たずに外出することはほとんどなかったし、いまでもありません。いつどんなことでえらい人に「ちょっと待ってくれたまえ」とかなんとかいわれ、一時間待たせられることにならないともかぎりません。そういうときにいくら相手が偉い人でも、こちらに備えがなければいらいらしてきます。ところが懐から一巻の森鴎外(1862-1922)をとり出して読みだば、私ぼこれから会う人がたいていの偉い人でも、鴎外ほどではないのが普通です。待たせられるのが残念などころか、かえってその人が現われて、鴎外の語るところを中断されるのが残念なくらいになってきます。」
待たされる時間をポジティブな気持ちで読書時間にあてることで得した感じを味わう。この読書術には、本を必死になって読む、勉強のために読む、能力開発のために読むなんてシーンはほとんど登場しない。
このほか、いくつかのタイプ別の攻略法がある。
おそく読む「精読術」
はやく読む「速読術」
本を読まない「読書術」
外国語の本を読む「解読術」
新聞・雑誌を読む「看破術」 聖書(真理)と雑誌(事実)
むずかしい本を読む「読破術」
最後の「むずかしい本」というのは、難解さの攻略法ではなくて、むずかしい本なんて読むなという話である。むずかしく感じられる本というのは、著者自身が内容を十分に理解できていない「悪い本」か、いまの読者にとって「不必要な本」のどちらかなので、わからない本は読まないことが大切なのだよと説く。
読書をする人が減っているそうだが、読書の実利効用を説く方法と同時に、読むこと自体が快楽になる愉しい読書術こそ読書人口増加にはきっと重要である。
・読書論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-932.html
・読書について
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-913.html
・読書という体験
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-569.html
読書の歴史―あるいは読者の歴史
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1047.html