Books-Management: 2009年10月アーカイブ
「事務局とは、組織横断活動などの企画・運営を行う、目的先行・期間限定の機関である。ご存じの通り、事務局は参加メンバーの日程調整、司会進行、議事録発行などの雑務全般を引き受ける。つまりは裏方だ。本書では、この事務局が戦略的に動けば、組織を巧みに動かすことができることを伝えたい。」
組織の中で権限なしに人を動かす方法論を述べた本。著者は裏方から会社のあらゆる人を動かす能力を「事務局力」と定義する。まず大切なのは人の置かれた立場でその人の感情を想像し、社長や社員の課題意識を明解な言葉にすること。事務局の仕事はコンサルタントの仕事と本質的に近いものだと述べられている。
事務局自体には権限がないわけだから、人を心で動かさざるをえない。人を動かすには北風よりも太陽だ。著者はこういう。目立たない雪かき仕事を進んでするような人になれ →30分くらいでやれる仕事でも相当感謝されるものだ →実は目立たない仕事をしている人ほど目立つものだ、と、性善説と確信犯を掛け合わせたような実践的なノウハウが論じられている。
・「説得して向かわせるのではなく、そちらに向かってしまうような状況をつくっておく」
・「意思決定者に花を持たせる」
・「置き石、水やり、待ち伏せ」
・事務局力は、効果的な「立ち位置をとること(ポジショニング)」がすべて、
など事務局力の秘訣や、
1 ケアするメール
2 アガペー(神の愛)モード
3 鍋奉行ホワイトボード
4 付箋ワークセッション
5 内職プレゼンテーション
6 あこがれベンチマーキング
7 あとづけバイオグラフィー
という7つの仕掛けが解説されている。
人をいい気持にさせて動かす。そういえば心当たりがありますよ、私は。
著者の野村恭彦氏は富士ゼロックスのフューチャーセンターのプロデューサーである。このプロジェクトは先日、2009年度 グッドデザイン賞を受賞した。下記ページに概要と受賞理由があるのだが、この写真のど真ん中に写っているのは、実は私である。
・フューチャーセンター・サービス
http://www.g-mark.org/award/detail.html?id=35596
私はこのプロジェクトの多数の参加者のうちの一人にすぎないのだが、毎回、野村氏らの事務局に乗せられて、いい気分になり、写真のように調子に乗って相当しゃべっている。これだけ見たら私は司会のようだ(笑)。そうか、これだけのノウハウが背後にあったのか、そりゃ踊らされるよなあ、仕方ないよなあ、と妙に納得した。
大組織の中で、確信犯的に戦略的な裏方になりたい人におすすめの一冊。
創業125年の老舗大企業 古河電工。人事総務部門の担当者とコンサルティング会社のコンサルタントが二人で書いた業務革新の一大プロジェクトの回顧ノンフィクション。構成のアイデアが素晴らしい。同じ場面を担当者の視点と、コンサルタントの視点が交互に描いている。それぞれの言動がそのとき相手の立場からはどのように見えていたか、そして何を考えていたかが明らかになる。
コンサル会社側は得意のファシリテーションで円滑に進めるべく準備万端で挑んだ会議でも、クライアント側では「なんで、ひとつの会議に三人もコンサルタントがいるんだ?これじゃあお金かかるよなぁ」などと思っていたりもするわけだ。現場目線の素直な心理描写から、ビジネスの発注側、受注側の両者の心の動きが再現されている。
古河電工は09年3月時点で従業員数3万7427人の大企業。多数の工場と子会社を抱える。多くは独自に発達してきた人事制度や給与体系を持つ。残業する社員には栄養補給にパンを配るなどという時代錯誤な仕組みもあるが、労組の反対もあって容易にはやめられない。120年間も個別最適でやってきた大組織に、業務集約センターを設立して効率化をはかろうというのが本プロジェクトの目的。業務改革やITシステム導入は、当然のことながら各方面からの抵抗も多い。
著者らプロジェクトメンバー達は2300回の会議、3万通のメール、111のシステムとの連携、年間220日の出張で、全国の部署と交渉と調整を行って理解を得ながら、ついにシステム稼働にこぎ着ける。5年間の長大な人間ドラマである。
その成功に至るプロセスでコンサルタントにも社員にも、スーパーマン的な人物は一人も出てこない。状況は「当たり前のことを当たり前じゃないレベルでやりきる」という担当者の言葉が表している。徹底したコミュニケーションと信頼構築によって、大企業の不可能を可能にしていく。
"ファシリテーション"というと会議の盛り上げ方みたいな小手先の技術と誤解しがちであるが、本書のテーマはもっと長期的で本質的な組織論である。クライアントとコンサルタントの幸福論である。組織でビジネスをする人、プロジェクトをやる人はぜひ読むと良いと思う。いっぱい気づきがあるはず。
「たとえば、「○○鉄道の料金が上がることになりました」という原稿が出稿されてきますと、キャスターの私は、「○○鉄道をご利用の皆さん、料金が値上がりしますよ」と言い換えるのです。」「「誰か警察に連絡してください」では誰も通報してくれないが「あなた、警察に連絡してください」なら動く。」
明解な説明に定評のある池上 彰氏が、テレビの現場で培った情報伝達ノウハウを公開する新書。わかりやすい説明のルール「聞き手に地図を」「対象化」「階層化」というステップを、署名に偽り無く実にわかりやすく説明する内容。広く応用が効きそうな方法論が多く、ビジネスプレゼンの参考にもなった。
たとえば「相手に自分が体験したことを面白く伝えたい。自分の気持ちをわかってほしい。そんなとき、まず、「ねえ、ねえ、大変」という言葉から始まる文章を考えましょう。文章ができあがったら、冒頭の「ねえ、ねえ、大変」という言葉は削除してしまいます。そうすると、勢いのある、説得力のある文章がつくれます。」という方法。
これは平板な話に勢いをつけるのに効きそうだ。わかりやすいけどつまらないというのも問題だから、「面白い」は重要なのだ。そうやって冒頭でつかんでおいて、最後にまたつかみネタに戻ると話がきれいにまとまるというアドバイスもある。数十秒から数分で印象的な話をするための秘訣が満載である。
極めつけの極意だなと思うのが「接続詞を使わない」。これは確かに有効なテクニックのように思うのだが、実際には組み合わせる素材が豊富に揃っていないとできない技だと思う。素材同士をくっつけようとするから接着剤としての接続詞が必要になるのであって、並べて話せば自然とつながる素材がいっぱいあれば不要だ。著者は大量の情報収集でも有名な人物。イディオムやネタを貯蔵しておく日常の心がけもまたわかりやすさのために重要なことのように思う。