Books-Management: 2009年8月アーカイブ
剣豪 宮本武蔵が晩年に残した兵法極意の書。
「まよひの雲の晴れたる所こそ、実の空としるべき也。空を道とし、道を空と見る所也。」
名高い書だが読んだのははじめて。ちょっと戸惑ったのが徹底的に実用の書だったということ。人生哲学や生き方が示されているのだと思っていたのだが大部分はそうじゃないのである。人を斬るにはどうしたらいいかを突き詰めて考え、それ以外(浮世の義理とか女とか)は潔く捨てるという話なのだ。
「武蔵の兵法はどこまでも勝つことを目的としているため、どこまでも合理性、利に強いことを特徴とする。一刀よりも二刀の方が有利であるから二刀流をあみだしたのである。片手で自由に太刀を振ることができるために二刀を用いるのである。それは左手も右手も同様に機能を果たすための訓練でもある。」(解説より)
二刀流の理由が合理性だったとは驚きである。刀の構え方など具体的な殺傷ノウハウと心がけが多いが、もちろん精神的な心構えもある。たとえば無心である。
「兵法において技が決まるのは、無心のときでなければならない。無心というと、一切、心がないのではない。平常心を保つことが無心なのである。」
敵の刃を前にして、平常と変わらない心でいるということが大切なのだ。
そしてこの本には、武蔵が死の1週間前に自身の生き方を21か条をつづった独行道も収録されている。どこまでも求道者。世界史レベルでも、宗教以外でここまでストイックな人生訓って珍しいのではないだろうか。
「独行道」
一、世々の道をそむく事なし。
一、身にたのしみをたくまず。
一、よろずに依枯の心なし。
一、身をあさく思、世をふかく思ふ。
一、一生の間よくしん(欲心)思わず。
一、我事において後悔をせず。
一、善悪に他をねたむ心なし。
一、いづれの道にも、わかれをかなしまず。
一、自他共にうらみかこつ心なし。
一、れんぼ(恋慕)の道思いよるこころなし。
一、物毎にすき(数寄)このむ事なし。
一、私宅においてのぞむ心なし。
一、身ひとつに美食をこのまず。
一、末々代物なる古き道具を所持せず。
一、わが身にいたり物いみする事なし。
一、兵具は各(格)別 よ(余)の道具たしなまず。
一、道においては死をいとわず思ふ。
一、老身に財宝所領もちゆる心なし。
一、仏神は貴し、仏神をたのまず。
一、身を捨ても名利はすてず。
一、常に兵法の道をはなれず。
あまりにも窮屈な人生訓であり、じゃあ、あなたの人生は何が楽しかったんだよ?と突っ込みを入れたくなるが、楽しかったのでしょうね、ひたすらに剣の道が。本当に凡人には真似のできない極意の本である。