Books-Management: 2009年3月アーカイブ
成果主義を超えて「知識創造型人事異動」を考える新書。
私にとっては未知の領域、大企業の人事制度について勉強したくて読んだ。新書一冊に現状や問題点が整理されていてわかりやすい。著者が20年間在籍した日産ほか企業の事例も豊富である。
この本では知識創造の一般原理SECIプロセスを組み込んだ人事の考え方が示される。社員の持つ暗黙知と形式知を、共同化→表出化→連結化→内面化という知識創造プロセスの中で拡大再生産していくことを目指す。
・知識経営のすすめ―ナレッジマネジメントとその時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/06/post-102.html
SECIプロセスについて。
いかに社員に貴重な体験、質の高い体験、インパクトのある「原体験」をさせるか、が大切という。「高質な原体験や修羅場体験を通じて、強烈な暗黙知を持つ社員を数多く育てることができれば、社内の知識創造のプロセスは非常に濃いものになっていく。」。海外拠点への出向、会社設立、リストラ、合弁事業、難易度が高いプロジェクトへの参加などが強烈な原体験の例として取り上げられている。
こうした強烈な原体験というのはベンチャー企業では頻繁に体験できるものである。だが、ベンチャー企業には強烈な体験はあるが中長期の人事制度がないという問題がある。
「特にベンチャー企業では、長期にかかる目標を立てるだけの事業基盤や事業概要が固まっていない場合も多いだろう。変化の激しい業界では、市場の伸び率や競合他社の動きなど、前提条件自体が短期間で変わってしまうことも少なくない。また、受注型のビジネス、コンサルティング業、出版社の編集部、デザイナーなど、知を扱う比重の大きい職種においては、目標を立てようにも確たる根拠の設定が本来的に難しいことが多い。」
これがまったくその通りで、大企業は20年や30年の人事計画を想定しているが、ベンチャーでは5年、10年後に会社が存続しているかというレベルから不確実である。中長期の人事制度が組めないとしても、それなりに人数が増えてくると制度がないわけにもいかないのが困ったところでもある。著者はベンチャーには「チャレンジ主義」の人事制度を薦めている。社員に挑戦を宣言させてその難易度や貢献度を上司と話し合いチャレンジ度を評価するというもの。目標設定が安易に達成できるレベルになりがちなMBO方式よりも有益かもしれない。
人事制度をつくる側、使う側の両者にとって明るい人事とは何かを考えるのによい本だ。
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ところで、著者の徳岡先生、紺野先生と私は昨年、多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所を設立しました。知識創造型の企業を、「人材マネジメント」と「リーダーシップ開発」に焦点を当てて研究する機関です。セミナーや研修も請け負っています。お問い合わせ下さい。
・多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所
http://www.ikls.org/