Books-Management: 2005年8月アーカイブ
有名な火山学者が、京都大学総合人間学部で行った「活きた時間」講義を書籍化した本。人間としてのトータルな成功を達成する秘訣として、すべての社会人に向けて書かれている。
そもそもトータルな成功とは何か。著者は、仕事、人づきあい、趣味の3つが満たされる必要があると最初に定義している。この3つの要素を横糸にして、縦糸に時間を考えなさいという。ニュートン時間とベルクソン時間という言葉が出てくる。ニュートン時間とは時計ではかれる客観的な時間の流れのこと、ベルクソン時間とは生きる密度によって感じ方の異なる時の流れのこと。ベルクソン時間で有意義な時間を過ごすことが大切だという。
時間管理の心得として、
・仕事の価値判断と持ち時間の判断、すなわち切迫度と重要度の判断を常に意識せよ。
・「頭は1日に1時間しか動かない」と考えて割り当てよ
・だが、「頭は100%使うな」
などとアドバイスされている。特に最後の100%使うなは面白い。脳を完全燃焼させるとしばらく飽和してしまう。小休止をうまく挟んで8割くらい使う状態を続けるのが、全体効率を高める秘訣であるということ。
仕事、職業選択としては「好きなことよりできること」をしなさい。好きなことは下手の横好きになる可能性が高いので、できることを仕事にせよという。そして、次のような時間管理で自分の武器を磨けと書かれている。
・とりあえず何かの専門家になる 所要時間 10年
・どこでも通用する専門家になる 所要時間 5年
・オンリーワンになる 所要時間 5年
分野としては大枠としてはまず主流に属せ。同レベルの優れた仕事をしている場合、傍流に属しているよりも主流に属している方が高く評価されるからだ。2つ目のステップで主流の中でのニッチを探し、そこでどこでも通用する専門家、オンリーワンになれば認めてもらいやすいとのこと。
引用されている故竹内均東大名誉教授の「私のいう「自己実現」は、1 好きなことをやって生きる、2 それで食える、3 それが他人によって高く評価される、ことである。」も名言。
人づきあいについては、中国の古典に出てくる言葉を引用し「貴人」を大切にしなさいという。貴人とは思いもかけぬ才能を自分から引き出してくれる人。そして「可愛げ」「律儀」が良好な人間関係(師弟関係)を育むとされる。
面白かったのは人づきあいの二対七対一の法則。世間の2割は何をしていてもうまくいく相手が2割。努力すれば可もなく不可もなくつきあえるが7割。どうやっても無理なのが1割。最後の1割については、時間の無駄なので最初からつきあいを諦めよとバッサリ。同様に難しい本は書いた人が理解できていない可能性が高く、読んでも無駄なので読むなも、参考になった。
趣味については、古典教養のすすめが主な内容だったが、3種類のオフという考え方が参考になった。余暇の過ごし方として、趣味にのめりこむオフ、ボーっとするオフ、瞑想するオフの3つがあるのだという。この3種類をブレンドし、新しく建造された船が就航前に沿岸部をゆっくり航行する「コウスティング」的なオフを理想としている。深い。
有名国立大学での講義なだけあって大局的な「王道」とは何かを教えている。しかし、誰もがこの王道を歩いておかしくないのであって、王道以外に道などないのだという気がしてきた。自力も他力も総合しながらワクワクした人生を送るためのガイドとして良い本だと思った。